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2023年4月24日
連載エッセイ|#ijichimanのぼやき「歴史的建築でいただく食事」
連載エッセイ|#ijichimanのぼやき
第46回「歴史的建築でいただく食事」
数年前、手ごろな価格で美味しいと人気でどこの店舗も行列を作って話題になっている飲食チェーンがあった。一回行ってみようと足を運んだ友人が、「確かに値段の割には“美味しい”んですけど、お皿はプラスチックでチープだし、隣が近くて落ち着かないし、机も小さいのにどんどん料理は運ばれてくるし、あんまり“美味しくなかった”ですね。やっぱり食事って“味”だけじゃないですよね」と言っていた。また、飲食業界で活躍されているある重鎮の方とお話した際も「食事(外食)は人と会う場。食事そのものはもちろんだけど、何を着ていくかから始まって“場を楽しむ”ことを大切にしている」と言っていた。
Photographs and Text by IJICHI Yasutake
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料理そのものは、素材の状態や調理の仕方、全体の量と組み合わせを精査して自分の体に合うものを吟味しながら、味覚的な美味しさも求め、さらに、作り手の意図や想い、盛り付けのプレゼンテーションを楽しみ、食べ終えた後に気持ちがいいと思えるというのが、「食事を楽しむ」ということだろうと思っている。
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子どもの頃は嫌いだったセロリやミョウガも、大人になって畑に行って採りたてを食べたら美味しく感じて食べられるようになったりするのは、鮮度や旨味の違いもあるけれど、子どもの頃は単純に味覚だけで味わっていたのが、その“場”にある土や水、太陽、そこにいる人のこだわりや想いを肌で感じながら色々な要素を複合的に味わっているから、美味しく感じるようになるのかもしれない。逆に、若い頃に朝まで飲んで遊んだ後にみんなでワイワイ行ったラーメンがめちゃめちゃ美味しかったのに、大人になって昼間入ったらそうでもなかった、なんてことも多々ある。
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美味しい食事は自然と人を笑顔にするし表情を豊かにする。美味しくない時は無表情にしてしまう。笑顔でいられるとイヤなことも忘れるし(一瞬だとしても!)、平和でいられる。やっぱり食事には、“場”の雰囲気というのが欠かせない。僕は外食でお店を選ぶ時は、ただ美味しいだけじゃなくて、お店の雰囲気が良くて、人も気持ちが良くて、一緒に行く人にも何か刺激になって喜んでもらえて、その日のことを覚えてもらえるお店を選ぶようにしている。
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そういう意味でも、お店の建築そのものが歴史性とデザイン性に富んでいて、ゆったりくつろげるお店は好き。築年数や創業年数、お店を取り囲んでいる街の香りがそう感じさせるのか、入る前はワクワク高揚して、いつからあるのか、どんな人間か関わって、どんな経緯で建造されて、どんな成り立ちがあるのかなど気になって新しい知識がインプットされるし、壁や柱や窓や天井のつくり、調度品も魅力的で刺激になる。でも、お店の中に一歩足を踏み入れると時間の流れがちょっと違ってゆったりしている。そのバランスが何とも心地がいい。
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歴史性とデザイン性に富んでいる建築(建築内)で営業しているレストランやカフェは案外ある。旧古河庭園(北区西ヶ原)や旧岩崎邸庭園(台東区池之端)などに代表されるいわゆる旧財閥の邸宅で現在は都立庭園として開放されている“お屋敷庭園”には、だいたいお茶できるお店が併設されているから、時折訪ねてみると面白い。ちなみに、旧古河庭園は、明治時代の政治家で下関条約調印時の外相で知られる陸奥宗光が当地を購入して別宅を建てたところに始まる。その後、大正8年に古河財閥の古河虎之助男爵の邸宅として現在の形に整えられ、現在は国有財産であり、国の名勝に指定されている。バラの名所としても知られている。
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旧岩崎邸庭園は、江戸時代からその歴史は紡がれているが、明治11年に三菱財閥初代の岩崎弥太郎が旧舞鶴藩主の牧野弼成から邸地を購入し、現存する洋館、大広間などは、岩崎財閥3代の岩崎久弥によって建てられ、明治29年に竣工したものだそう。こちらも、園内の建造物が国の重要文化財に指定されている。
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■土手の伊勢屋 東京都台東区日本堤1-9-2
吉原大門で明治22年創業という天ぷら屋。木造2階建ての店舗は登録有形文化財に指定されている。目の前に吉原土手があったから土手の伊勢屋と呼ばれるようになり、そのまま店名となったらしい。創業期は、日中は吉原遊郭の客で、夜は客引きの客で繁盛し、夜中は出前、24時間で営業していたという。現代になってもSNSがない時代から常に人気でいつ行っても並ぶのは必至。軒先から胡麻油の香ばしい香りが漂ってくる中行列に並ぶのはもはや修行の域だが、修行が終わった後に頂く天丼は口福の極致。穴子を主役に継ぎ足しのタレで作る天丼はここでしか頂けない。昔は夜も営業していたが現在は昼のみ。吉原-山谷エリアの街並みと共に楽しむのがいい。
吉原大門で明治22年創業という天ぷら屋。木造2階建ての店舗は登録有形文化財に指定されている。目の前に吉原土手があったから土手の伊勢屋と呼ばれるようになり、そのまま店名となったらしい。創業期は、日中は吉原遊郭の客で、夜は客引きの客で繁盛し、夜中は出前、24時間で営業していたという。現代になってもSNSがない時代から常に人気でいつ行っても並ぶのは必至。軒先から胡麻油の香ばしい香りが漂ってくる中行列に並ぶのはもはや修行の域だが、修行が終わった後に頂く天丼は口福の極致。穴子を主役に継ぎ足しのタレで作る天丼はここでしか頂けない。昔は夜も営業していたが現在は昼のみ。吉原-山谷エリアの街並みと共に楽しむのがいい。
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■はん亭 東京都文京区根津2-12-15
根津にある串揚げ屋。創業は昭和45年だが、明治時代に建てられ関東大震災にも耐えたという木造3階建て総けやき造りの店舗は、こちらも登録有形文化財。旬の野菜から魚介、肉まで多彩で、ここで四季を感じることができる。串揚げというと“コッテリ”“油っぽい”という印象があるかもわからないが、油にも素材にもこだわっていてあっさり。美味しい串揚げというのはいつもサクッと軽くていつまでも止まらないものだ。新丸ビルにも店舗はあるが、はん亭に行くならこちらにお邪魔したい。
根津にある串揚げ屋。創業は昭和45年だが、明治時代に建てられ関東大震災にも耐えたという木造3階建て総けやき造りの店舗は、こちらも登録有形文化財。旬の野菜から魚介、肉まで多彩で、ここで四季を感じることができる。串揚げというと“コッテリ”“油っぽい”という印象があるかもわからないが、油にも素材にもこだわっていてあっさり。美味しい串揚げというのはいつもサクッと軽くていつまでも止まらないものだ。新丸ビルにも店舗はあるが、はん亭に行くならこちらにお邪魔したい。
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■学士会館 東京都千代田区神田錦町3-28
東京大学発祥の地であり、日本野球発祥の地であり、同志社大学の創立者として知られる新島襄生誕の地。最終回の土下座が話題になった人気ドラマのロケ地としても有名だ。その歴史は古く昭和3年建造で、国の有形文化財に登録されている。元々は大正2年に西洋風の木造2階建て施設が建てられたものの同年に起きた大火で焼失、その後も復興工事を開始しようとしたタイミングで関東大震災に襲われ延期。消失と再建を繰り返しながら、昭和3年に現在の学士会館が建設されたそう。学士会館内にはフレンチ、中華、割烹、カフェバーの4つのレストランがある。どこも気軽に入れるのが嬉しい。
東京大学発祥の地であり、日本野球発祥の地であり、同志社大学の創立者として知られる新島襄生誕の地。最終回の土下座が話題になった人気ドラマのロケ地としても有名だ。その歴史は古く昭和3年建造で、国の有形文化財に登録されている。元々は大正2年に西洋風の木造2階建て施設が建てられたものの同年に起きた大火で焼失、その後も復興工事を開始しようとしたタイミングで関東大震災に襲われ延期。消失と再建を繰り返しながら、昭和3年に現在の学士会館が建設されたそう。学士会館内にはフレンチ、中華、割烹、カフェバーの4つのレストランがある。どこも気軽に入れるのが嬉しい。
伊地知泰威|IJICHI Yasutake
1982年東京生まれ。慶應義塾大学在学中から、イベント会社にてビッグメゾンのレセプションやパーティの企画制作に携わる。PR会社に転籍後はプランナーとして従事し、30歳を機に退職。中学から20年来の友人である代表と日本初のコールドプレスジュース専門店「サンシャインジュース」の立ち上げに参画し、2020年9月まで取締役副社長を務める。現在は、幅広い業界におけるクライアントの企業コミュニケーションやブランディングをサポートしながら、街探訪を続けている。好きな食べ物はふぐ、すっぽん。好きなスポーツは野球、競馬。好きな場所は純喫茶、大衆酒場。
Instagram:ijichiman
1982年東京生まれ。慶應義塾大学在学中から、イベント会社にてビッグメゾンのレセプションやパーティの企画制作に携わる。PR会社に転籍後はプランナーとして従事し、30歳を機に退職。中学から20年来の友人である代表と日本初のコールドプレスジュース専門店「サンシャインジュース」の立ち上げに参画し、2020年9月まで取締役副社長を務める。現在は、幅広い業界におけるクライアントの企業コミュニケーションやブランディングをサポートしながら、街探訪を続けている。好きな食べ物はふぐ、すっぽん。好きなスポーツは野球、競馬。好きな場所は純喫茶、大衆酒場。
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