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2022年12月31日
Talking about “混沌” 01|東京のなぜか文化人が集うレストラン&カフェバーのお話し
Talking about “混沌” 01
東京スカパラダイスオーケストラ・谷中敦に聞く“通う店”
東京にはなぜこんなお店があるのだろう・・・渋谷や新宿から少し外れた三宿という不便なところ。その交差点の角にある雑居ビルに20年続くレストラン&カフェバーがある。2003年、世田谷区三宿の交差点ビルの5階にオープンした「Kong Tong(コントン)」。階下には香港麺の有名店やクラブなどがあり返還前の香港・九龍を彷彿とさせることから、混沌の音をとって名付けられた。なじみにはエンターテインメントやカルチャーの世界で活躍するクリエイターが多いのも、この店の個性のひとつである。
そしてなぜか夜な夜な有名人が集っている不思議なお店。その理由とは・・・?
2023年に20周年となるKong Tongを愛する各界のクリエイターたちが、多面性(混沌)がもたらす魅力について数人のクリエイターたちに聞く。初回は一番のリピーターを自認する、東京スカパラダイスオーケストラの谷中敦氏が登場。
そしてなぜか夜な夜な有名人が集っている不思議なお店。その理由とは・・・?
2023年に20周年となるKong Tongを愛する各界のクリエイターたちが、多面性(混沌)がもたらす魅力について数人のクリエイターたちに聞く。初回は一番のリピーターを自認する、東京スカパラダイスオーケストラの谷中敦氏が登場。
Interview & Edit by TANAKA Toshie(KIMITERASU)|Photograph by YOKOKURA Shota
「Kong Tongは自分にとって“信頼のブランド”。ここの空間だと発想が湧いてくる」 東京スカパラダイスオーケストラ・谷中敦氏が語る、経年を魅力に変える店とは?
− 谷中さんはここ三宿のKong Tongの常連の筆頭ということですが、オープン時から通われているんですか?
谷中敦(以下谷中) オープン以来というより、この前にあった店の時代から来ていました。
− かつてお酒を飲んでいた時はバーとしての利用もあったということですが、お酒を飲まなくなった今も頻繁に通っているそうですね。それは、バーだからとか、カフェだからということではなく、この「場所」が好きだから、ということになるかと思います。一番惹かれるのはどんなところなんでしょう。
谷中 どうなんでしょうね。自分が聞きたいくらいですよ。
− 開店前にエントランス前で待っていたこともあるとか?
谷中 ははは。そういうことも結構ありますね。Kong Tongはなんていっても「信頼のブランド」なんですよ。信頼しかない。食べ物も、飲み物も。あとカウンターにいる福田達朗さんが選ぶ音楽の力も大きいですね。選曲がいいなぁとずっと思っています。これなんて曲ですか?って(直接)聞いたり、アプリで検索もします。作詞する場所って自分にとってはとても重要で・・・、よく図書館じゃなければ勉強できない子どもっているじゃないですか。自分にとってもいろんな人の空気を感じられる場所で何かをやる、というのがとても楽しい。作詞は頭の中で音楽を鳴らしながらやらなくてはならないんだけど、Kong Tongの音楽ならばそれが邪魔にならなくて、逆に発想が湧いてくる感じがします。だからここで作詞させてもらった曲はいっぱいありますね。
− 発想が湧き、詞が生まれる場所なんですね。
谷中 それは福田さんの人に対する距離感によるところも大きいと思います。ある程度の距離をもって接してくれる。自分があまりにも無謀な振る舞いをしたりすると、ちょっと距離を離してくるんで、これは怒られてるんだなと思ったりね(笑)。距離感があるから良いお店なわけで、友達の家に行って遊んでいるわけではない。その距離感によって店としての信用が生まれるということはあると思う。あとはお店のあり方がすごく良いですよね。どこを切り取っても“絵になる”でしょ。経年による使用感はありながら、格好もよく、きちんと清潔さを保っていて。古い建物ですが大きな手を入れるわけでもなく、格好よく見せていくって実は日本であまりないですよね。ヨーロッパだとずっとここでやっています、100年経ちます、というような場所も多いですが、Kong Tongにはそんな風情がある。絵になる要素が満載って、歴史を大事にしているということだと思うんですよ。歴史とは人とともにあるわけだから、ひいてはお客さんを大事にしているってことにつながると思います。お店を大事にしているとは、その場所の歴史を大事にしていることで、それは人を大事にしていることでもあるという三段論法につながっているのかな、と。
− ここ20年でのKong Tongの変化を谷中さんは近くで見てきたわけですが、変わったな、と思うところと変わらないな、と何か感じるとろはありますか。
谷中 変わった部分でいうと、大暴れするお客さんが少なくなったかな、自分を含めて(笑)。ここをクラブみたいに思っているお客さんが多かったので、大騒ぎしてどんどん人を呼んでパーティーみたいになるという。そういうシーンもある一方で、落ち着いて過ごせる昼の顔もある。Kong Tongの昼の顔も素晴らしいんだな、ってことを学びつつあるところです(笑)。飲んでいた時はあまり昼には来ていなかったので。でも変わらないところのほうが多いですね。不思議なほど。代表、シェフの田島大地くんの料理はずっとおいしいし、それも素晴らしいよね。
− 食の魅力というのも大きな理由なんですね。そういえば谷中さんが初めて作詞を手がけられた「めくれたオレンジ」は、ここからの景色からインスピレーションを受けたそうですね。
谷中 そうそう。これはスカパラとして歌ものシリーズのはじまりで、田島貴男に歌ってもらう楽曲を考えていた中で「流れる光見てた−」と、ここからの景色を入れたんですよね。当時は別の店でしたが、このロケーション、この風景はずっと自分にとって大切なんですよ。
− 先程のお話ではいくつかの詞がここで生まれていると言うことでした。創作が生まれるというのは、ある意味場所を語る上で最上級の褒め言葉だと思います。そうそうないことですよね。では谷中さんが大切にしているKong Tongのスペシャルなことってありますか?
谷中 単純に好きです、っていう感覚が近いかな。後付けではいくらでも説明できるかも知れないけれど、うそっぽい。シンプルに好きなんだと思います。人に紹介したくなる店ってそうとう気に入っている店なんだと思いますが、そういう意味でもKong Tongはやはり信頼できる場所なんですよ。なんかいいな、って思ってても、人に紹介して「え?」って思われるのは嫌だし、そういう可能性がある店はやはり連れていきたいと思わない。Kong Tongは、誰であっても連れていきたいと思うし、実際に連れてきているし、その中には俺より熱心に通っている人もいる。そういう胸を張って紹介できるお店であるって、重要だなって思います。
ハブとなるような人でありたい
− 具体的にはどんなものをよく召し上がるんですか? 気に入ってるメニューはありますか?
谷中 鹿肉とか結構好きですね。ジビエ系は冬になるとよく食べます。蝦夷鹿の料理が特に好きですね。あとシーザーサラダも美味しい。飲み物は(食べ物が)なんでもアイスコーヒー。ウイスキー飲んでるように飲みますよ(笑)。ここだとそういう気分になれるし。あと、マイボトルにも入れています。ここのアイスコーヒーは、氷がしっかりしているから溶けにくいんですよ。
− スカパラは、30代より40代、40代より50代のほうが輝いています。先程経年変化の話がありましたが、経年をポジティブにできるって皆が目指すところだと思います。腐っていくことと熟成していくことの境界線はどこにあると思いますか?
谷中 ローマ法王の名言を引用した本を読んだことがあって「人間はワインと同じだ。 酢になってしまう者もいれば、年とともに良くなる優れ者もいる。(ヨハネ25世)」というのを読んで確かに、と思ったりしました。人並みに年を取るのはこわいし、年は取りたくないなと思います。そんな中でも、常にアップデートしたいなとは思っています。音楽でも、同じ曲を時代とともに変えていって良いと思うんです、アレンジとか。そうやったほうが伝わったりすることがある。また人間自体もそういう部分があるんじゃないかな、と思っています。同じことを伝えるために自分を変えていく。そんなふうに捉えれば、いろいろなことに対して自分が柔軟に対応できるように思います。やさしさや正義といったものもアップデートしなくちゃね。たとえば渋谷の交差点で真っすぐ歩いていてことごとく人にぶつかる、という正義はいらないですよね。そこに愛情がないと本当は正義にならないわけですし。そういうふうに正義ややさしさとかもアップデートしていかないといけないな、と思います。
− ここではDJや演奏をしたり、イベント的なこともしています。さらには谷中さんが以前、広告のアイコンでもあった時計のプロモーションにおいて、Kong Tongが発信地のひとつにもなっていたこともあるとか。場所がひとつなのに、いろいろな顔を持っていろいろな形で谷中さんとの関わり方があるのも面白いです。
谷中 ハブとなるような人っているじゃないですか。自分もそういう人になりたいと思って活動していますが、人ではなく場所ということではここだけですね。人から人へ、人からプロジェクトへなど、つながっていくのが良いですよね。もともとお店を通じていろいろな人が集まって文化的な交流があったり、ミュージシャンと俳優が討論を繰り広げたり、作家が熱くなって万年筆投げるような伝説がある場所あるじゃないですか。パリのカフェ・ドゥマゴや銀座のバーのルパンのような。そういうものに対する憧れもあります。
− 谷中さんにとって居心地の良い場所、リピートしたい店の共通項はありますか?
谷中 人じゃないかな? 元気がないときも元気がないときなりにお付き合いしてくれる方がいらっしゃるって重要です。「谷中ちゃん今日元気ないねー?」とかいわれるお店もあるじゃないですか。そういうのはたまにちょっと辛くなるときがあって今日のテンションだと行けないかな、と思う場合はある。そういう点で福田さんはスーパーですよ。作詞モードの自分の時は、全然じゃべりかけないでいてくれたりする。そして煮詰まった時に気分転換ができるところが大切。(Kong Tongは)その気分転換ができる要素があるんですよ。そういう意味では、“刺激”と“癒やし”の両方がある店、だから来てしまうんだよね。
谷中敦 Atsushi Yanaka
東京スカパラダイスオーケストラのメンバーとして国内外で活躍する一方、俳優、作詞家などの顔も持つ。スカパラは、11月7日にSaucy Dogの石原慎也を迎えたニューシングル『紋白蝶 feat.石原慎也(Saucy Dog)』をリリース。
東京スカパラダイスオーケストラのメンバーとして国内外で活躍する一方、俳優、作詞家などの顔も持つ。スカパラは、11月7日にSaucy Dogの石原慎也を迎えたニューシングル『紋白蝶 feat.石原慎也(Saucy Dog)』をリリース。
Today’s Drink and Food
●アイスコーヒー
●生ハムとルッコラのレモンクリームソーススパゲッティ
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●生ハムとルッコラのレモンクリームソーススパゲッティ
Today’s Music Select
Duke Ellington/Money Jungle
Various Artists/Caribbean In America 1915-1962
Sun Ra/Planets of Life or Death