バブルの喧騒の記憶、憧れの存在

自分がお酒を飲みはじめたのはちょうどバブルの末期。当時“大人たちの社交場”で酒といったらなにをおいてもブランデーが主流で、なかでもルイ13世は別格中の別格。憧れの存在でした。それからほどなくパリにわたって20年、「ルイ」という名前にも、かの地に息づくエレガンスにも近い場所で過ごしてきました。今回アンバサダーのお話をいただいて、当時の記憶を思い起こすとともに、その魅力の深みをぜひ広くお伝えしたいという気持ちを強く抱きましたね。

いままたこうしてルイ13世の香りをかぐと、20歳のころとはまったく違った印象を受けます。当時飲んでいたほかのブランデーとももちろん違いますし、液体から放たれる香りの豊かさがより鮮烈に感じられる。酒の香りから読み取れることが多くなったのは、暮らしに密着したワイン文化をもつパリでの生活のおかげかもしれません。香水のように豊かな芳香を備えながら、口にふくめばするりとなめらかに喉を落ちていく。そしてシャンパーニュにも通ずるようなすっきりと清冽な味わい。強いお酒ですが、“いい酒は悪酔いしない”ということを教えてくれる存在です。ブランデーは温度によっても香りがおもしろいように変わっていくので、飲むときはぜひその変化も楽しんでいただきたいですね。いまの季節なら、雪山でのバカンスに暖炉の前で友人たちとゆっくり語らいながらグラスを傾ける……なんてすてきだと思います。

最上を目指す仕事

ルイ13世の魅力は、味わいはもちろん美しいバカラのデキャンタやエレガントなデザインの箱にも宿っています。自分の仕事に関しても、毎回最上を、より高い完成度を、と臨んでいますが、このデキャンタや箱ひとつとってもそれと共通する姿勢を感じます。最上の酒を最高に美しく見せるために考えられたデキャンタ、パッケージ。デキャンタを手にしたときのクリスタルの重み、厚さ、純度。この液体の魅力を最も引き立てる“仕事”が隅々までなされているわけですね。例えば、香水のデキャンタは見ているだけでも幸せな気分になるような美しいデザインが多い。ルイ13世もまさにそう。飲むことができるかできないかの違いだけで、“香り高く美しい液体”を包む幸せなデザインが施されていると言えるでしょう。

日本人とエレガンス

フランスでの生活で感じたのは、マダムはもちろん、若くても成熟したエレガンスをもった女性が多いこと。いまの日本女性はビューティにしてもファッションにしても“カワイイ”が最上とされていて、エレガンスとほど遠いところに価値観が置かれています。“カワイイ”というだけでちやほやしてしまう男性側も成長する必要があると思いますが……。

エレガンスとはやみくもにお金をかけても身につくものではありません。私は、本当にいいものを知っていてそれを心から楽しめる人に、真のエレガンスを感じます。それにはいいものを見極める目とどんなシーンでも動じない経験が必要。日本では年齢を重ねることを恐れる風潮が強い。ですが、長い時をかけて美しさと旨みを増すブランデーのように、時や経験でしか得られない魅力があることを知ってほしいですね。自分の輝いていた時期の服装やメイクを引きずっている人が多いのも日本女性の特徴。“いまの自分”を輝かせることに貪欲なフランスの女性たちは、変わることを恐れません。いくつになっても、昨日より今日の自分のほうが美しいと自信をもっていえる成熟したエレガンスの持ち主──ヘアメイクという仕事を通して、そんな日本女性が増えるお手伝いをしていけたらと思っています。

また、そろそろ自分の世代は若い人たちや後輩に経験やそこで得たすばらしいものの魅力を“伝える”年代に差し掛かっているとも感じます。年月の素晴らしさや深みを雄弁に語ってくれるルイ13世を、若い人たちとともに傾けられたら、それはなにより最高の伝え方と言えるかもしれませんね。

Eita
ヘアメイクアップアーティスト。20年のパリ在住を経て、その経験を日本で生かすべくベースを東京に移し、2011年9月よりIris Managementに所属。国内外の広告、雑誌のほか、パリコレクションをはじめとしたショーでのチーフメイクやテレビ出演など、多岐にわたって活躍中。繊細でエレガントなヘアメイクには、各国のセレブリティからも定評がある。著書に『Eitaメイク シンプルリッチなParis Look』（ワニブックス）がある。