INTERVIEW|発起人・平野友康氏インタビュー kizunaworldを振り返る
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2015年4月9日

INTERVIEW|発起人・平野友康氏インタビュー kizunaworldを振り返る

INTERVIEW|発起人・平野友康氏インタビュー

kizunaworldを振り返る(1)

「音楽が持つ力を実感しました」

メディアクリエイターの平野友康氏は、坂本龍一氏とともに、発起人として陰日向に「kizunaworld.org」を支えてきた人物である。未曾有の災害に見舞われた2011年が幕を閉じ、年が明けた2012年1月6日、あらためて平野氏を訪ねてみた。現在進行形で被災地の一日も早い復旧・復興を支援しつづけているプロジェクトの発起人は、あのときなにを考えていたのか。

Text by KASE Tomoshige (OPENERS)Photographs by NISHIMURA Saiko(SELF:PSY'S)

震災の緊張感漂う2作目

東日本大震災の被害に対して、さまざまなアーティストの作品を購入することで寄付を募り、長期的支援をつづけていこうというプロジェクトが、「kizunaworld.org」である。随時発表されるその作品と最新の動向は、これまでOPENERSで継続して紹介してきた。そして震災の年は幕を閉じ、2012年を迎え──いまあらためて発起人である平野友康氏に、「kizunaworld.org」を振り返ってもらった。

──そもそも「kizunaworld.org」という名称の由来は?

もともとはイタリア人アーティスト、ヴァレリオ・ベッルーティ氏の「KIZUNA」というアニメーション作品のタイトルからきています。震災が起こった数日後には、この作品からなにかできないか、ということを考え始めたわけですが、当時はまだまだ復興を支援するというような状態ではなかった。ただただ目の前で起こったことに愕然としている状態で。でも悲しく、壮絶な状況だからこそ、個人同士の繋がり、つまり絆を大切にしたい、見つめ直したいと思いました。だからこの「KIZUNA」という言葉に、いろいろな想いを込めようと思ったんです。その後、あちこちで絆という言葉を聞くようになって驚きましたね。みんな、同じ気持ちなんだなって。

発起人・平野友康氏インタビュー kizunaworldを振り返る 02

──現在16作品がラインナップされています。もっとも印象に残っている作品は?

ひとつを挙げるのは非常に難しいのですが、個人的に印象深かったのは2作目の「kizuna world」のミュージック&ビデオ。坂本龍一氏が震災後初めて書いた楽曲でした。作品形式も決まっていないうちから、教授(坂本龍一氏)からどんどん曲が送られてきて──そこに映像をつけるという作業をしました。震災の緊張感が漂うなかで、「これは絶対出さなければいけない」と思いながらやりとりしていました。その後「kizunaworld.org」ではさまざまな作品を発表してきましたが、しいて1作と言われれば、この2作目です。いろんな意味で印象深かったですね。とても悲しい曲です。

──現状楽曲作品が多いのですが、写真やイラスがもっとあると楽しいですね。

発起人・平野友康氏インタビュー kizunaworldを振り返る 04

奈良(美智)さんの映像作品もありますが、まだ1年経ってませんから、音楽以外の展開はまさにこれからなんです。それに教授とは少なくとも3年はやろうと話し合っています。被災地の皆さんと一日でも長く寄り添い、そして震災のことを忘れないためにも、この活動を長く続けていきたいと思っています。だからこの先いろいろな作品が出てくるだろうし、今は思いつかない展開が、今年や来年には生まれているかも知れない。時間によって変化していくのが、この「kizunaworld.org」という活動なのだと僕は思っています。たとえば最初のほうの作品は、緊張感があって、痛みを感じさせるものが多かった気がします。が、最近は少し違う。未来への希望を抱き、前進している今の状況を反映したような作品になってきています。あと、教授がどう思っていたかはわかりませんが、僕個人としては、最初の半年、なにを出したら“良い”のかわからなかったんです。 その点、音楽は凄いです。あの状況でも、音楽は人の心に入っていけたわけですから。

──なにが許されるか、ということですか。

音楽以外が許されるかどうかということよりも、とにかく音楽が持つ力は果てしないということだと思います。どんどん音楽作品が集まって、どんどん発表していったんですが──そのいっぽうで音楽以外ではなにがふさわしいのかっていうのはわからなくて。たとえば僕自身がこの「kizunaworld.org」に作品を提供するなら、デジタル作品だとは思っています。が、プロジェクトの最初のうちは、なぜかふさわしくない、そんな気がしたんです。デジタル作品は、テーマとしても難しすぎました。ただただ、音楽の力を感じるばかりでしたね。

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kizunaworldを振り返る(2)

「“個人”から繋がって、手作りで運営してるんです」

手作りのプロジェクト

──ツイッターやブログで「なにも書けなくなった」という人も多かったように思います。

運営側としてなにより難しかったのは、「寄付を集めたいんだけど、お祭り騒ぎしちゃいけない」ということ。いままで僕がソーシャルメディアでやっていたのは、どちらかというとドーンと騒いで、やれひと晩で20万人集めたり、みたいな感じでしたので。「kizunaworld.org」というのは本当にひっそりとはじめて、人づてに、少しずつ、という育て方をしてきました。ブレーキを踏みながら、そろそろ進んでいくというはじまり方だったんです。この先多少変わっていくとは思いますが。プロジェクトの当初、もっと派手にやればいいのに、というアドバイスもありましたが……いや、そういうわけにはいかんだろう、という気持ちがやっぱりありました。

──「kizunaworld.org」のサイト全体から、ひっそりとした空気感は伝わってきますね。

すでに16作品あって、これから映像作品やデジタル作品なども出てくるでしょう。これらの作品は時間が経ったときに、ものすごく意味を持つだろうな、と思っているんです。なによりすべてのアーティストの方が、無償で提供してくれているわけですよね。(作品の発表)時期とその人の視点とか、その時代の空気とかも入っているので──そういう意味で本当に貴重なアーカイブになっていくんだろうな、と思います。

──3月11日に何か特別なことはしますか?

実際のところ、まだ考えていないんです。「3月11日、またいろいろあるよね」って教授とは情報交換しています。でも、僕らはそのときの流れに身を任せてここまで来たので、なにか前もって予定を組むということはしていません。

発起人・平野友康氏インタビュー kizunaworldを振り返る 05

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──なにも決まっていないと。

うーん、「kizunaworld.org」自体が、本当に教授をはじめとした数人でやっていまして。アーティストとの交渉も、教授ご本人が直接やっていたりと、本当に手作りなんですね。立派なマネージメントがあるわけでもなく……教授がいちばん大変だと思います。なにが言いたいかというと、ほぼ手弁当で、実務の山(笑)。だから、事前にきっちりこれをやる、ということが(物理的に)決められないんです。

──なんとなくのアイデアはあるんですか?

「いつかライブをやったらどうだろう」とか、アイデアとしてはいくつか出ていますが。「kizunaworld.org」の作品は、出会いと流れに任せるという感じでやっているので──おそらく3月11日も、なにか流れがあれば。あるいはこのプロジェクト以外にも、なにか別の震災プロジェクトのお手伝いしているかも知れませんしね。

──何か決まったら教えてください。

決まっていることをひとつだけ。3月11日には、あえて去年からずっととっておいた作品を出します。「ぜひお楽しみに」と言うのは難しいですよね。その表現が正しいのか、という空気が去年まであったので。でもぜひ、期待していてください。

平野友康|HIRANO Tomoyasu
1974年、群馬県桐生市生まれ。95年、鴻上尚史主宰「劇団第三舞台」をプロデュースする、(株)サードステージのデジタル事業部を立ち上げる。97年4月から2年間、ニッポン放送「平野友康のオールナイトニッポン」でパーソナリティを務める。98年、(株)デジタルステージを設立し代表取締役に。同年国内初のVJ用ソフトウェア「motion dive」を開発する。その後も写真を映画のような映像にする「LiFE* with PhotoCinema」やFlashサイトが誰でもつくれる「ID for WebLiFE*」、総合的なHP制作ソリューション「BiND for WebLiFE*」などのソフトを発表しつづけ、数々のアワードを受賞する。2010年からは、ソーシャルメディアを駆使したメディアデザインにかかわる活動を展開。2011年1月、坂本龍一氏のピアノソロツアーを全世界に配信した「skmtsプロジェクト」は全世界で20万人が視聴、音楽ライブ中継のあらたなスタイルを築いた。同年12月には2枚の電子書籍ライセンスを付録とした画期的な一冊、『ソーシャルメディアの夜明け』(メディアライフ)を上梓した。

           
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