INTERVIEW|伝統のシャンパーニュメゾン クリュッグの真髄を知る
LOUNGE / EAT
2015年5月28日

INTERVIEW|伝統のシャンパーニュメゾン クリュッグの真髄を知る

INTERVIEW|“アッサンブラージュ”という芸術

伝統のシャンパーニュメゾン クリュッグの真髄を知る

すべて職人の手作業でおこなわれるこだわりの製法、長い歴史のなかで守り継がれる秘伝のレシピをもとに造り出される華やかな味わい――「you will never forget your first taste of Krug(クリュッグの最初のひとくちを、あなたは決して忘れない)」と語るのは、6代目当主 オリヴィエ・クリュッグ氏。先日、メゾン創始者 ヨハン・ヨーゼフ・クリュッグ氏が残した貴重な文書を携え来日した彼の呼びかけのもと、限られたプレスのみを集めた試飲会がひらかれた。166年の伝統が生み出す至高の味、その秘密が紐解かれた。

Text by FUJITA Mayu(OPENERS)

独自の製法が造り出す「いつでも変わらない品質と味わい」

1843年、ヨハン・ヨーゼフ・クリュッグ氏によって創業されたシャンパーニュメゾン クリュッグの歴史は、親から子へ、代々クリュッグ家の者に伝承され、現在は先代アンリ・クリュッグ氏の長男、オリヴィエ・クリュッグ氏が6代目当主として伝統を守り継ぐ。彼は当主就任直後に日本へわたり、約2年間、当時まだクリュッグの名がほとんど知られていなかった日本に滞在。ソムリエやワイン・コレクター、ジャーナリストに直接会い、クリュッグの歴史からこだわり、豊かな味わいについて説いてまわった。その甲斐あって、クリュッグの名は全国の愛好家たちのあいだで広まり、いまでは日本におけるシャンパーニュのシェア率ナンバーワンを誇る――無論、彼の言葉を凌駕する圧倒的な味わいあってこそなわけだが。

クリュッグのこだわりは質の高いブドウを贅たくに使用し、独自の製法によって造り出す「いつでも変わらない品質と味わい」にある。シャンパーニュは基本、収穫時期の異なる何十種類もの原酒をアッサンブラーシュ(=ブレンド)することで造られているわけだが、気候などの変化によって例年より優れたブドウが育つ、いわゆる“アタリ年”には、その年に収穫されたブドウだけを使用した特別なシャンパーニュが造られることもある。後者は“ヴィンテージ”と呼ばれ、熟成期間もノン・ヴィンテージより長く設けるよう定められている。今回おこなわれたテイスティング会では希少なヴィンテージ・シャンパーニュもふるまわれ、それぞれの個性についてオリヴィエ氏が解説、集った人びとはプレシャスな味わいを愉しんだ。

クリュッグを語るうえで欠かせない、ふたつのシャンパーニュ

KRUG Grande Cuvée (クリュッグ グランド・キュヴェ)
価格|1万2000円(375mL)、2万2000円(750mL)、5万2000円(1500mL)、13万円(3000mL)

クリュッグを語るうえで欠かすことのできない、メゾンの根幹を成すシャンパーニュ「クリュッグ グランド・キュヴェ」。先にも述べたように、ヴィンテージと呼ばれるシャンパーニュは“アタリ年”に収穫された各種ブドウだけを使ってアッサンブラージュされ、通常は15ヵ月以上と定められる熟成期間も、最低3年という時間を要する特別なもの。だがこの「クリュッグ グランド・キュヴェ」はマルチ・ヴィンテージと呼ばれ、ヴィンテージに匹敵する品質をもつとされている。6~10年以内に収穫された年代の異なる各種ブドウを使用し、6年もの熟成期間を経て造り出されるこだわりのシャンパーニュは、口にふくんだ瞬間、クリーミーなブーケとともに豊潤なハーモニー広がる。ナッティで香ばしい余韻を堪能したのち、華やかでフレッシュなフレーバーで締めくくられる。その個性的かつ華麗な味わいを生むのにひと役買っているのが樽の存在だ。ワインは樽材や樽の大きさによって風味が変化するため、クリュッグでは第一次醗酵のさいにオークの小樽を使用。独創的な味わいの根底を支える、メゾン独自のこだわりである。

KRUG Rosé(クリュッグ ロゼ)
価格|2万2000円(375mL)、4万円(750mL)

これからの季節は、おなじくマルチ・ヴィンテージのロゼ「クリュッグ ロゼ」もお薦めだ。クリュッグのなかでも“叙情的”と表現される優雅な味わいは1983年、創業から140年もの時を経て、まさに“満を持して”誕生した逸品である。シャンパーニュ地方の畑は実るブドウの品質で格付けがされており、最良とされる畑はグランクリュと呼ばれる。「クリュッグ ロゼ」では、グランクリュと称されるヴァレ・ド・ラ・マルヌ、アイ村産のピノ・ノワールを短時間に限定して果皮とともに発酵。それを他のピノ・ノワール、ムニエ、シャルドネとブレンドし、オークの小樽を用いた古典的なクリュッグ方式で発酵させている。クリュッグならではの味わいを決めるのは、クリュッグ農園で育ったピノ・ムニエの優れた芳香性がもたらすマイルドなブーケの広がりだ。淡いサーモンゴールド色を美しく飾るキメ細やかな泡立ちとともに、ワイルド・ストロベリーのフレーバーをふくんだ濃密な香りのブーケが広がる。ベリーを思わせる果実のフレッシュな風味とほのかに感じるスパイスの風味が、すっきりとしながらも芳醇な、魅惑のハーモニーを奏でる。

166年、代々守り継がれる造り手の信念

ブドウの品質も大事だが、シャンパーニュ造りにおいてもっとも重要なこと、それは当主の舌だけが頼りとなるアッサンブラーシュにある。「いつでも変わらない品質と味わい」を信念に掲げるクリュッグでは、250種類もの原酒のなかから最適のものを選び抜き、配合率を確かめながらアッサンブラージュする。1000回以上ものテイスティングを重ね、創業当時より守り継がれる「忘れられない味」を造り上げる。製品の味を左右する工程ゆえ、高い精度での正確さが求められるわけだが、クリュッグにはレシピは存在しない。

オリヴィエ氏が「忘れられない味」と称する味わい、それは166年間、代々当主に受け継がれてきた「味の記憶」だけが生み出すことのできる芸術である。氏は今回のテイスティング会にさいし、特別にクリュッグ家に伝わる“秘伝の書”を披露してくれた。それは初代当主 ヨハン・ヨーゼフ・クリュッグ氏が教えを書き残したノート。そこには「レシピ」ではなく、1840年代当時のシャンパンメゾンでは考えられなかった型破りの自由な発想で、独自の味わいを追求した初代当主の「信念」が書き残されていた。

「これを手に取ったときには、感動した」――オリヴィエ氏のひと言には、初代当主に対する深い敬慕の念が込められていた。独創的な製法、変わらぬ味わいはもとより、クリュッグ家が守り継いできたもの、それは何者にも侵されることのないシャンパーニュ造りに対する信念。166年の伝統と造り手のあくなき情熱は黄金色の輝きとなり、華やかに香る独創的な味わいを生んだ。クリュッグのシャンパーニュ――忘れられない味の記憶を、その舌にも。

MHD モエ へネシー ディアジオ
Tel. 03-5217-9738

           
Photo Gallery