モエ・エ・シャンドン醸造最高責任者、ブノワ・ゴエズ氏インタビュー|MOËT & CHANDON
LOUNGE / EAT
2015年9月3日

モエ・エ・シャンドン醸造最高責任者、ブノワ・ゴエズ氏インタビュー|MOËT & CHANDON

MOËT & CHANDON|モエ・エ・シャンドン

醸造最高責任者、ブノワ・ゴエズ氏インタビュー

グラン ヴィンテージ ロゼという名の奇跡(1)

モエ・エ・シャンドンの醸造最高責任者を務めるブノワ・ゴエズ氏。その彼が「今日の会はちょっと特別です」と切りだしてはじまったランチ会。いかにも、この日用意されたのは「1985」と「1999」、そして「2006」という3つのグラン ヴィンテージ ロゼ。ロゼときて、グラン ヴィンテージときて、さらに年代物となると、かなり希少価値が高くなる。夏の昼下がり、最新作の「2006」がグラスに注がれると、特別なひとときが幕を開けた。

Text by TANAKA Junko (OPENERS)

シャンパーニュ界の王者を支えるもの

1743年に創業したモエ・エ・シャンドン。ゴエズ氏が「三代目にはおそらく先見の明があったのでしょう」というように、創業者の孫であるジャン・レミー・モエは、シャンパーニュを世界に広めるという偉業を成し遂げた。彼の尽力によって、地元の人が楽しむ程度だった“地酒”が、フランスからヨーロッパ、世界へと瞬く間に広まっていったのだ。

それから数世紀。モエ・エ・シャンドンはいまや、シャンパーニュの最王手メゾンとして君臨している。驚くのはブリュットからロゼ、ノンヴィンテージからヴィンテージまで、どのカテゴリーにおいても圧倒的なシェアを誇っていること。その理由をゴエズ氏は次のように分析する。

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もぎたてのブドウをおもわせるフレッシュな味わいが魅力の「2006」。この日は季節のフルーツを使った冷菜「帆立貝と甘海老のセビーチェ ライム風味 ザクロとラズベリーのドレッシング」とペアリング。口のなかいっぱいに果実味が弾けた

「ひとつには、豊富な資源があげられるとおもいます。とくに畑においてはそうですね。自社畑だけで約1200ヘクタール。全国のプルミエクリュ(一級畑)の4分の1がうちの所有ですし、グランクリュ(一級畑よりさらに格上の特級畑)も相当の面積を所有しています。これがシャンパーニュのクオリティを維持し、進化させるために欠かせないのです。なぜか?

自社畑がこれだけ多いと、収穫するブドウにも幅がでてきます。ワインの味というのは、当然ブドウのできに左右されますから、手もちのカードが多ければ多いほど、より質の高いシャンパーニュをつくれる可能性が高くなる。逆にブドウの分母に多彩性がないと、どうしても味わいにバラツキが出てしまう。この多彩な分母よって、ノンヴィンテージにおいては、一貫した味わいを再現できますし、ヴィンテージにおいては、より研ぎ澄まされた味わいのシャンパーニュを追求することができるというわけです」

気候が変わりやすいことで知られるシャンパーニュ地方では、毎年ブドウの質が変動するため、ブレンドしてシャンパーニュをつくるというのがお約束だ。異なる収穫年、異なる村、異なる畑で採れたブドウをブレンドしていく。これがもっとも主流なノンヴィンテージ。モエ・エ・シャンドンの場合、「モエ アンペリアル」がそれに当たる。

いっぽう、イレギュラー的なのが、単一年のブドウだけでつくるヴィンテージ。とりわけブドウのできがよかった年にのみつくるグラン ヴィンテージは、醸造最高責任者であるゴエズ氏の指揮のもと、独自の比率でアサンブラージュをおこなうことで、その年のブドウの魅力を惜しみなく表現。7年以上にわたって熟成させ、その味わいがもっとも魅力的になるときを待ってリリースされる特別なシャンパーニュである。

モエ・エ・シャンドンが創業されて270年以上。その長い歴史のなかでリリースされた白のグラン ヴィンテージは71本。ロゼにいたってはわずか40本。この数字を見れば、どれほど希少な存在であるかがおわかりいただけるだろう。では、白とロゼの本数にこれだけ開きがあるのはなぜか? 次ページでは、この謎を紐解いていくことにしよう。

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モエ・エ・シャンドン醸造最高責任者のブノワ・ゴエズ氏

白よりロゼの本数が少ないワケ

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醸造最高責任者、ブノワ・ゴエズ氏インタビュー

グラン ヴィンテージ ロゼという名の奇跡(2)

ワインの声に耳を傾ける

「じつは自社畑のうち、3分の2は黒ブドウの畑。ところが、つくっているシャンパーニュの多くは白なのです。一見、矛盾しているとおもわれるかもしれません。これまた気候と関係するのですが、シャンパーニュ地方は気候の変動も多いですし、冷涼なところなので、赤ワインをつくれるほど熟した黒ブドウを収穫できる年が少ないのです。むしろ黒ブドウなのに白ワインづくりに適している。そんなできあがりのものが多い。

モエ・エ・シャンドンでは白ワインに赤ワインをブレンドしてロゼをつくります。この赤ワイン用のブドウ、ノンヴィンテージではピノ・ノワールもムニエも両方使いますが、ヴィンテージの場合はピノ・ノワールだけを使います。ひとつの品種に絞ることで、複雑さや骨格をつけやすくなるんですね。問題はよく熟した黒ブドウが収穫できるまで、忍耐強く待たなくてはいけないということ。つまり、赤ワインをブレンドしてロゼをつくるというのは、シャンパーニュ地方では限りなく奇跡に近いことなのです」

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「2006」に比べて深みが増した「1999」には、ピリッとスパイスを効かせた温菜「鶉(うずら)と野菜の串焼き イベリコチョリソーとトマトのチャツネ」(写真左)を。上質なクリームのような味わいに進化した「1985」には、素材の自然な甘みを引き出したメイン「低温調理した霧島ポーク 白アスパラガス 芽キャベツ添え 大分県産椎茸のソース」をペアリング

ロゼをつくる難しさとヴィンテージをつくる難しさ。ふたつの難関を経て誕生したグラン ヴィンテージ ロゼは、メゾンにとってそれぞれがユニークで特別な存在だ。

だからこそ、最後のデゴルジュマン(ビンの底にたまった澱を取り除く仕上げの作業)も慎重におこなわれる。ゴエズ氏を含めた11人のテイスティング・パネル(審査委員)が、テイスティングと協議を繰り返して、ベストなタイミングを見極めていく。収穫年ではなく仕上がり重視。彼にいわせると「ワインの声に耳を傾ければわかる」のだそうだ。だから、ときにはヴィンテージの順番が逆になることも。

たとえば、数年前に2003年のヴィンテージをリリースしたとき、2002年のヴィンテージはまだカーブ(倉庫)のなかにあった。これもワインの声を聞いての判断だったという。基準はあるものの、状況に応じてフレキシブルに対応するのがメゾンの哲学。「最後は職人の魂、つまりクラフトマンシップが感じるものを大切にしている」と話す。

グラン ヴィンテージ ロゼは、メゾンにとってそれぞれがユニークな存在であるというのは先ほどお伝えしたとおり。だがおもしろいことに、似たような気候に育ったブドウは、似たような味の変化をたどる可能性があるそうだ。いずれおとらぬフレッシュさと深い味わいを備えた「1985」と「1999」、そして「2006」。この3つのグラン ヴィンテージ ロゼは、まさにその可能性を私たちに示唆するものだった。

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「2006」から「1999」、「1985」と順を追って見ていくと、年を追うごとにサーモンピンクからだんだん濃くなり、ゴールドに近づいていく。これは長年澱に触れていたことによる効果だ。いずれも年代物とはおもえないほど、若々しさと果実味をもちあわせていた

「1985年と1999年、2006年というのは、気候的には似通ったところが多かったのです。シャンパーニュ地方には珍しく、いずれも“成熟”という言葉がぴったりの年。ですから、ブドウがしっかりと熟してタンニングするまで、通常の収穫時期を過ぎても辛抱強く待っていました。その甲斐あって、口に含むと熟れた果実味が一気に花開くのを感じていただけるとおもいます。もちろん色や泡の立ち方、味わいは、14年熟成した1999と7年の2006では異なりますし、30年ものの1985も同様です。ですが、2006の15年後、30年後の姿は、1999や1985とかなり近いものかもしれない、という予想はつきます」

そんなロマンにおもいを馳せながら、2006といっしょに年を重ねる。これもまた粋なグラン ヴィンテージ ロゼの楽しみ方ではないだろうか。

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Benoît Gouez|ブノワ・ゴエズ
モエ・エ・シャンドン シェフ・ド・カーヴ(醸造最高責任者)。2005年に35歳の若さでモエ・エ・シャンドンの醸造最高責任者に着任。ゴエズ氏のスタイルは、ニューワールドの革新的なワインづくりを理解しながら、伝統を重んずるまさにモエ・エ・シャンドンのシャンパンスタイルそのもの。卓越した五感と知識でシャンパーニュ界でも注目を集めている。

モエ・エ・シャンドン グラン ヴィンテージ ロゼ 2006
容量|750mL
価格|1万150円

問い合わせ先

モエ・エ・シャンドン

http://moet.jp/

           
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