ジム・ビバレッジ氏と前田文男氏、ブレンダーの和洋最高峰が共演|Johnnie Walker Blue Label
Johnnie Walker Blue Label|ジョニーウォーカー ブルーラベル
ジム・ビバレッジ氏と前田文男氏、ブレンダーの和洋最高峰が共演
美しきブレンディングの世界(1)
ブルーラベルと聞いて、すぐにピンとくるひとも多いはず。750ミリサイズの通常瓶が、ひと瓶1万8000円(税抜)……と少々値段は張るが、多彩なモルトウイスキーの個性がひとつの美しいハーモニーを奏でる味わいで、ウイスキーファンならばだれもが認める至高の品だ。今回はその稀有な魅力に迫るべく、洒脱なイベントが催された。第6代マスターブレンダーのジム・ビバレッジ氏と茶師の前田文男氏を壇上に迎え、ウイスキーとお茶のブレンディングについて、共通点と相違点を浮き彫りにしていく主旨である。
Text by TSUCHIDA Takashi
英国でも食中酒として再認識されているウイスキー
冒頭、ナビゲーターを務めるコラムニスト・中村孝則さんからのこんな問いかけから、イベントははじまった。
「日本ではいまソーダ割りがとても人気ですが、英国ではいかがですか?」(中村孝則さん)
「私自身、ジョニーウォーカーをソーダで割る飲み方がとても好きです。力強く骨太なフレーバーは、あわせる料理としてはリッチなもの、スパイシーなもの、オイリーなものと相性がよく、この条件を満たせば料理の地域性を問いません」(ジム・ビバレッジさん)
さらに中村さんがつづける。
「最近の和食には日本酒以外に、ワインやシャンパンをあわせることもあります。ただ多くの料理人と話すと、ヨード香が強い牡蠣などの貝類、雲丹をはじめとした甲殻類は、むしろウイスキーのほうがあうのではないかと……」(中村孝則さん)
作家・村上春樹氏の短編によれば、スコットランドのオイスターにはシングルモルトをかけるそうだ。彼の地は牡蠣の産地でもあり、日本からの旅行者はこぞって生牡蠣にシングルモルトを振る。
「これまた相性がいいのです。ウイスキーのスモーキーさがとてもあうので、私たちも同様の食し方を好みます」(ジム・ビバレッジさん)
ところで、このイベントは人気料亭が手がけた「茶洒 金田中」が会場となった。現代美術家の杉本博司氏がインテリアと庭を設計したことでも知られる和カフェだ。そこでは壇上の会話を初夏の日本でも再現するかのごとく、貝類・甲殻類を含む海の旬が参加者に振る舞われたのである。
ジョニーウォーカー ブルーラベルのソーダ割りとともにこの瀟洒(しょうしゃ)な膳に箸を伸ばすと、なるほど抜群にあう。磯の風味はとかくワインとは喧嘩しがちだが、ウイスキーの力強さは、臭みを抑えて素材の香りを包み込む。食材のもち味を消さず、両者が調和していくから不思議だ。ウイスキーというと食後にチビチビ……という先入観があったが、決してそんなことはない。ジムさんが指摘した通り、味わいは地域性に囚われないようだ。
ジョニーウォーカーは、世界ではじめてウイスキーのブレンディングを手がけたブランドのひとつ。創業者のジョン・ウォーカーは、もともとグロッサリーストア(食料雑貨店)を営んでいたが、そこで日常的におこなっていた紅茶のブレンドにヒントを得て、ウイスキーに応用したと伝わる。こうした歴史背景を踏まえ、ジムさんがつづける。
「ウイスキーのブレンディングは非常にクリエイティブな作業です。はじめにこういうウイスキーをつくりたいという着想があり、そのアイデアを実現するために、どのウイスキーをブレンドしていけばいいのかを考えていきます」(ジム・ビバレッジさん)
スコットランド地方には、現在も100を越える蒸溜所がある。そのなかからブルーラベル用に選ばれているのは15〜20の原酒。しかしこれは、ブレンデッドウイスキーの構成数としては少ないほうなのだそうだ。
さて、壇上ではナビゲーターの中村さんが茶師・前田文男さんに話を向ける。
「前田さんはお茶問屋ですから、ご自身で原料をつくらないという点ではジムさんとおなじ立場ですね。そうすると、日本のどの産地でどういうお茶がつくられているのかをご存知なのでしょう?」(中村孝則さん)
「産地特有の土質の香り、葉の形状、そのすべてを把握しています。先ほどジムさんから、ウイスキーをブレンドする際には、はじめに目指すべき味がある、とうかがいましたが、お茶もおなじですね。私自身が目指しているのは、リラックスできるお茶。そのために口当たりのやさしさにこだわっています」(前田文男さん)
Johnnie Walker Blue Label|ジョニーウォーカー ブルーラベル
ジム・ビバレッジ氏と前田文男氏、ブレンダーの和洋最高峰が共演
美しきブレンディングの世界(2)
お茶の合組とは? そして会場は体験型セッションへ
お茶の合組(ごうぐみ)とは、茶葉のブレンド作業を指す。お茶の好みは千差万別とはいえ、なるべく多くの趣向を満たすためにもブレンド作業は大切だそうだ。鹿児島茶のどっしりとした味わい、宇治茶のスッキリとした味わいなど、単一茶へのニーズもあるが、ここで前田さんは合組をサッカーチームにたとえる。
「もしも自分が監督なら、フォワードに得点能力の高い人間、サイドには足の速い人間、センターにはゲームメイクできる人、ディフェンスにはあたりが強い人を選びたい。そうした個々に能力をもつ選手を集めて、ひとつのチームを構築します。お茶の場合も、一種類で完全無欠というのはなかなかありません。それをブレンドで補足しあって、ひとつの個性をつくる。お茶のブレンドは、いいチームづくりに似ています」(前田文男さん)
さて、ここからは体験型セッションに移行。前田さんによる合組されたお茶と、単一産地のお茶を実際に飲み比べる。
「本日ご用意したお茶は、高知県、静岡県、宮崎県産の3種類です。高知産は苦味、渋み、甘みが強く、香りも強い。とても男らしいお茶です。静岡産は、深蒸しのような味わい。コクが有り、水色(すいしょく)が非常によいことが特徴です。そして宮崎産はスッキリとした味わいで、口当たりがよく、女性的な雰囲気のお茶となります」(前田文男さん)
この3つのお茶を合組したのが左の写真だ。たしかに前田さんが目指す“やさしい味わい”が感じられる。会場からは宮崎産も好みだという声が挙がったが、これだけではスッキリしすぎて、後々印象に残りづらいかもしれない。逆に高知産は非常にインパクトがあるが、これだけだと飲み疲れてしまいそうだ。
「お茶というのは、2煎目、3煎目も飲まれます。そのときにもおいしいことを目指すのが合組の目的のひとつです」(前田文男さん)
次はウイスキーの出番だ。この日のために、ジムさんはブレンド前の貴重な原酒を英国から持参してくれた。まずはこちらを試し、そのあとにブルーラベルの味わいを確かめる趣向だ。
「白いシールが貼ってあるものは、ハイランド地方のグレンユーリーロイヤル蒸溜所(注・現在は閉鎖)のモルトウイスキー。そしてシルバーのものは、スペイサイド地方のリンクウッド蒸溜所のモルトウイスキーです。
いずれもカスクストレングスといって、樽で熟成している状態のアルコール度数ですから、50度を越えています。氷水を口に含み、口内をしばらく冷やしたあとで、ごくわずかな分量をお試しください」(ジム・ビバレッジさん)
このふたつのモルトウイスキーは、それぞれ強烈な個性をもっていた。リンクウッドはスペイサイド地方の典型的な味わいで、長期熟成によるまろやかさが際立つ。フルーティさをもち、甘みやエステルも感じさせ、なおかつ軽やか。そして長い余韻のなかには仄かなスモーキーさも感じさせる。
他方のグレンユーリーは、さらにパワフル。豊かなフローラルの香りを漂わせ、甘いバニラ、ナッツ、サンダルウッドの香りも内包する。リンクウッドと比べると、若干スモーキーさは抑えられているようだ。
次に氷水で口内をリフレッシュして、ブルーラベルを試す。するとシングルモルトとの違いがハッキリとわかった。なるほど、これがブレンデッドの妙味なのか……。
「甘みが強く感じられませんか? 複雑味も増します。フレッシュな果実味はスペイサイドのモルトウイスキーから得られる香りです。またハイランドのモルトウイスキーにより、力強さも備わりました。甘い、異国風のトロピカルフルーツ、蜂蜜、バニラも感じます。
このようにジョニーウォーカー ブルーラベルにはスコッチウイスキーの産地(スペイサイド、ハイランド、ローランド、アイラの4地方)すべてのモルトウイスキーをブレンディングしています」(ジム・ビバレッジさん)
参加者全員がシングルモルトとブレンデッドのちがいを明確に掴んだだろう。ソロプレイヤーらしい、個性が際立つシングルモルトウイスキーにたいし、ブレンデッドウイスキーはあたかもフルオーケストラによる重層な響きのようだ。
さて、こうしてイベントは盛況のうちに幕を閉じた。ウイスキーは現在、世界的に需要が伸びている成長産業。「スコットランドでも未来を担う若いディスティラー(蒸留者)が毎年採用され、各蒸溜所も成長の波に乗っている」とジム・ビバレッジさん。これからもウイスキー業界は、とてもエキサイティングな状態がつづいていきそうだ。