PORSCHE|ポルシェ 911ターボ|第16回 (後編)|「まさに感動超大作」
第16回 ポルシェ911ターボ(後編)
「まさに感動超大作」
ポルシェの代名詞「911」のトップモデル「911ターボ」。その最新型“タイプ997”に試乗した。
乗りはじめこそ芳しくなかった印象が、山道で走り出すと一転……。
文=下野康史Photo by Porsche
最初は退屈だった
3.6リッター水平対向6気筒に新しいターボ・システムを搭載した最新型「911ターボ」は、480psを誇る。このくらいのパワーになると、左様ですかと思うだけで、ピンとこない。というよりも、混んだ都内を走りはじめたときのファーストコンタクトは、正直言ってあまり芳しくなかった。
ティプトロニックS(マニュアルモードのついたオートマチック)のおかげで、なんの苦もなく転がせるが、渋滞に阻まれて回せないと、3.6リッター・ターボはむしろ退屈だ。低速域だと、アクセルの応答性はけっしてシャープではないし、アイドリング時の音や振動は、低くこもりがちで、どこか建設機械的だ。
足まわりも、タウンスピードではひたすらズデンとしていて、大味に感じる。「911は時速40キロで走っていても楽しい」と書いたのは、911ファナティックのジャーナリスト、吉田匠さんだが、さすがに時速300キロ・カーとなると、そうもいかなくなるのだろうか。
舗装がめくれるのではないか!
だが、そんな第一印象がものの見事に転覆したのは、翌日、山道を走ったときだった。いきつけのワインディングロードでの997ターボは、まさに感動超大作だった。
路面にコブがあろうが、穴ぼこがあろうが、うねりがあろうが、逆バンクがついていようが、911ターボはおかまいなしである。コーナリングの安定感ときたら、運転席にいて笑いがこみ上げてくるほどだ。
その超絶スタビリティに裏書きされたコーナーの脱出加速がスゴイ。舗装がめくれるのではないかと思わせるようなトラクション(駆動力)である。
そんなさなかでも感心するのは、ドライブフィールがやさしく、繊細なことだ。おかげで、速いだけでなく、すばらしくファン・トゥ・ドライブでもある。こうした大入力域にいたって、はじめてクルマの全身に血流が行きわたった、の感がある。街なかや100km/h巡航で見せた、つまらなそうなカッタルさとは対照的である。
それが、30年前、原発のように人を怖がらせたリア・エンジン・スポーツカーの今日である。
911ターボと同じ480psの「日産GT-R」、777万円。423psの「レクサスIS-F」、766万円。こういったニューカマーと比べると、911はどれよりも高い。だが、911を買うということは、プライスレスな911の歴史を買うということなのだ。
車両概要|ポルシェ911ターボ
「911」誕生のおよそ10年後、1974年にデビュー。以後ポルシェを代表するモデルのトップレンジの座に君臨してきた。
現行型はタイプ997とよばれる第6世代に属し、ひとつ前の996とおなじく、3.6リッター水平対向6気筒エンジン・ターボを搭載。可変タービンジオメトリー付きターボチャージャーを新たに採用したことで、最高出力は60psアップし480ps、最大トルクは6.1kgm増の63.2kgmとなった。このアウトプットは、ポルシェ・トラクション・マネージメントシステム(PTM)に制御され、4輪に伝達される。
トランスミッションは、6段マニュアルか5段のティプトロニックSとよばれるオートマチック。静止状態から100km/hまでの到達時間は、ティプトロニックS仕様のほうが0.2秒速く、3.7秒。最高速度は310km/hと、とてつもなく俊足だ。
前6ピストン、後ろ4ピストンのブレーキキャリパー、前後350mmまで拡大されたブレーキディスクなどによりストッピングパワーもアップ。耐フェード性や高いレスポンス力が自慢のポルシェ・セラミックコンポジット・ブレーキ(PCCB)も装着できる。
ポルシェ・スタビリティ・マネージメントシステム(PSM)、ポルシェ・アクティブサスペンション・マネージメントシステム(PASM)など最新の制御技術は標準装備される。
全長×全幅×全高=4450×1850×1300mm、ホイールベース=2350mm。車両本体価格は、6段マニュアル仕様が1858万円、ティプトロニックSは1921万円。
なお、オープンモデルの「911ターボカブリオレ」(2093万円)、530psユニットを搭載した911ターボを上まわる超高性能モデル「GT2」(2607万円)もラインナップされる。
http://www.porsche.com/japan/jp/models/911/911-turbo/