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PORSCHE| ポルシェ 911ターボ|第15回 (前編)|「ポルシェ・ターボの真骨頂」
第15回 ポルシェ911ターボ(前編)
「ポルシェ・ターボの真骨頂」
スポーツカーといえばポルシェ。ポルシェといえば「911」。
その頂点に君臨するモデルが「911ターボ」だ。
0-100km/h加速=3.7秒を誇る最新型ハイパフォーマンスカーを前に、思いは30年前へとフラッシュバックした。
文=下野康史Photo by Porsche
昔のポルシェは、いまのポルシェなんてもんじゃなかった
「ポルシェ911」、なかでも「ターボ」についてとなると、どうしても昔話からはじめないわけにはいかない。スーパーカー世代にとっても、“ポルシェ・ターボ”といえば、格別になつかしい響きをもつはずだ。1970年代後半のハイエンド911、「930ターボ」である。
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“タイプ930”とよばれる911ターボ(写真のモデルイヤーは1977年)
東京12チャンネルの『対決!スーパーカークイズ』が小中学生に大人気だったころ、すでに大学生だったぼくは、その後、自動車専門誌の編集部に入ってすぐ、新車の930ターボに触らせてもらったことがある。本当に触っただけだ。
空冷フラット6は、3.3リッター・ターボで300ps。21世紀の日本においては、騒ぐほどのこともないアウトプットかもしれないが、オイルショックの後遺症いまだ癒えぬあの当時、いちばんパワフルな「スカイライン」が130psだった。
しかも“wrong end”(注)と呼ばれるリアにエンジンを置くRR車で、当然、スピン予防の駆動制御機構などまだ考えもつかなかったころの超弩級911である。
ベテランの先輩編集部員ですら、箱根の峠道をちょっと走らせただけで、口々に「オソロシイ」を連発しながらクルマから降りてきた。なりたてほやほやの新米記者にステアリングを握るお許しなど、出るはずもなかった。昔のポルシェは、いまのポルシェなんてもんじゃなかった。その象徴が930ターボだった。
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エンジンをボディ後ろ(図の左)にマウントする911ターボ。
駆動方式はRRではなく、現行型タイプ997では4輪駆動となる。
(注)wrong end
直訳すると「間違った端っこ」、エンジンなどにより荷重が車体の後方に集中するRR(リアエンジン・リア駆動)
レイアウトのデメリットをあらわした言葉。
一般的に操縦安定性の面でオーバーステア(車両後方が振られる)傾向になりがちといわれる。
いっぽう、駆動輪にしっかりと荷重がかかることはメリットにもなり、軽快なハンドリング、ドライバーより後ろに音源(エンジン)があるなどRRには長所もある。
911の“930”“996”“997”
あれから30年、いまの911ターボは免許とりたてのノービス・ドライバーにだって乗れるクルマである。
興ざめな紹介のしかたをするなと言われるかもしれないが、まさにそういうところが、水冷第一世代の「996」を経て、「997」の第二世代に発展した最新型ポルシェ・ターボの真骨頂だと思う。
ところで、この“930”だとか“996”だとか“997”だとかいう数字は、911の世代を特定する開発コードである。
9ではじまる3ケタ数字なので、911の場合、いささかややこしいが、つくってる本人が名づけているのだから仕方ない。
ポルシェって、911以外にあるの!? という素人さんから、開発コードで呼ぶのがあたりまえのマニアまで、じつに幅広いファン層をもつのが、911の深さである。911と呼ばなくなったら、911好きも病膏肓に入ったといえる。
歴代の911ターボ。1974年にデビューした初代は260psのパワーユニットで静止状態から100km/hまで5.5秒で到達した。その後、1977年に2代目ターボ、1987年に「911ターボカブリオレ」「911ターボタルガ」追加、1993年に後輪駆動を特徴とした。911ターボの最終モデル、1995年に4WD採用のタイプ993、2000年に水冷エンジン搭載のタイプ996と年輪を重ね、
現在のタイプ997は第6世代を迎えている。