ライバルはズバリ、911ターボ

フロントミッドに搭載されるメルセデスAMG「GT R」のエンジンは、従来と同じVバンクの間に2つのターボチャージャーを設置したユニークな構造を持つ「ホットインサイドV」と呼ばれる4リッターV8ツインターボながら、最高出力が430kW（585ps）に、最大トルクは700Nm（71.3kgm）に引き上げられた。

従来の「GT」が最高出力340kW（462ps）/最大トルク600Nm（61.2kgm）、「GT S」が最高出力375kW（510ps）／最大トルク650Nm（66.3kgm）であることを考えれば、このAMG製の4リッターV8ツインターボにはまだまだ伸びシロがあったのかと驚くしかない。同じ排気量ながら、エントリーグレードの「GT」比では123psと100Nm（10.1kgm）もの出力向上である。

AMGの哲学である「ワンマン・ワンエンジン」（１人の技術者がエンジンの組み立てを最終工程まで責任を持って、たった１人が担当）によって造り出される4リッターV8ツインターボにもたらされたパフォーマンスの増加は、コンプレッサー側に改良を施した新型のターボチャージャーやよりコンパクトなウエストゲート アネロイド カプセル、先鋭化されたエンジン マッピングなどによって達成された。ターボチャージャーによる過給圧は、従来の1.2barから1.35barに、「GT」比で0.15bar増加。これに伴い排気システムや圧縮比が最適化され、全体の燃焼プロセスが大きく見直されたのだという。

また、2マスフライホイールは「GT S」よりも0.7kg軽量化し、より俊敏なエンジンレスポンスに貢献する。こうしたひとつひとつの小さな積み重ねによって、0-100km/h加速が3.6秒、最高速度は318km/hをマーク。ライバルと目されるポルシェ「911 ターボ」に迫るパフォーマンスを獲得した。もっとも911ターボは、0-100km/h加速が3.6秒、最高速度は318km/hで、この上に0-100km/h加速が2.9秒、最高速度は330km/hを誇る「911 ターボ S」が控えているが、ハンドリングがものを言うサーキットやワインディングでは良い勝負を繰り広げそうだ。

レーシングマシンAMG GT3譲りの最新技術

GT Rでは、ワイドなフロントスプリッターや大型の固定式リアウイングといったアイコン的な空力パーツのほか、レーシングカー「AMG GT3」譲りの縦格子のフロントグリルを採用し、その進化したパフォーマンスがサーキットを源とするDNAを持つことと、特別なモデルであることをひと目で周囲に印象付ける。フロントフェイスのアイキャッチとなる15枚のクロームフィンは、「AMG パナメリカーナ グリル」と呼ばれ、これはAMG GT3のアイコンであるのはもちろんのこと、歴史を遡れば1952年のメキシコで優勝した「300SL」がルーツになる。

こうしたデザインや新しい空力対策付加物は、新規導入されたアクティブ エア マネジメント システムと同様に、高速域での安定性を向上させる重要なデバイスとなる。注目のアクティブ エア マネジメント システムは、RACEモード選択時に80km/h以上に達すると、重量わずか2kgと軽量なフロントのカーボン製アンダーカバーが40mm下に開き、ボディ下部に流れ込む風量を増加させるシステム。これは有効なヴェンチュリ効果をもたらし、250km/hで約40kgのダウンフォースを発生、フロントの接地性を大きく向上させるのだ。

ボディはAMG GT3譲りともいえる、快適装備を外しさえすればそのままレースに出られるほどという強化策を施しながら、各パートでアルミニウムやマグネシウムの使用量を増加。さらにカーボンファイバーを採用したトルクチューブなどの採用によって軽量化。GT S比で15kgも軽く仕上げたという。

さらにシャシーにも、これまでにない最先端技術が投入されている。AMGモデルで初めて採用された最大1.5度の後輪操舵を行なうアクティブ リア ホイール ステアリングだ。バイワイヤ方式によって２つの電気機械式アクチュエーターをコントロールし、100km/hまでであれば、リア ホイールはフロント ホイールと逆方向にステアされ、日常の運転や駐車時などではより小回りが効くようになる。100km/h以上の速度では、フロント ホイールと同じ方向にリア ホイールが向き、車線変更などを俊敏に行えるようになる。

専用の“グリーンヘル”カラー

また、GT Rには、件のレーシングマシンAMG GT3譲りとなるサーキットユースに最適なAMG ハイパフォーマンス スポーツ サスペンションや、ハードタイプのリア スタビライザー、9段階のセッティング可能なAMG トラクション コントロールも導入。タイヤはフロント275/35ZR19、リア325/30ZR20サイズのミシュラン「パイロットスポーツ カップ2」を装着、10本スポークの軽量アルミ鍛造ホイールにセットされた。

ブレーキはフロント390mm、リア360mm径のベンチレーテッド ディスクを標準装備し、イエローの塗装を施したブレーキ キャリパーを装着。オプションでフロント402mm、リア360mm径のセラミック ディスクをセレクト可能だ。このセラミック ディスクは、標準装備のディスクよりも総重量で17kgの軽量化を果たしているという。

モータースポーツに触発されたインテリアは、ナッパレザーとダイナミカ マイクロファイバーでコーディネイト。非常に軽量で手動調節式のAMGスポーツ バケット シートを標準するが、追加費用なしでAMG パフォーマンス シートをオプションとしてオーダーすることができる。GT Rでは、パドルシフトやステアリング ホイール ベゼル、ドアシルとブート クロスメンバーがスポーティさを強調するAMGインテリア ナイトパッケージが標準装備とされ、オプションとしてマットブラック カーボンファイバー トリムも用意した。さらに追加オプションで、シートベルトやハイライト、ダイヤルなどをイエローカラーで統一することも可能になっている。

目にも鮮やかなグリーンのボディカラーは、GT Rのために特別に用意されたものだ。ボディカラーは「AMGグリーン ヘル マグノ」と名付けられ、これはかのニュルブルクリンク北コースの別名「グリーンヘル」＝緑の地獄を意味している。もちろん、このGT Rの開発において、非常に多くの時間を費やしたニュルブルクリンクへの敬意を表したものだ。

レーシングカー「AMG GT3」をルーツに持ち、ニュルブルクリンクで開発を行った「GT R」。欲しいのは最高速度や0-100km/ｈ加速のタイトルではない。追求したのはトータルパフォーマンス向上であり、狙うは公道最強の称号である。最速AMGは、2016年11月21日に正式発売を開始し、欧州市場でのデリバリーは2017年3月にスタートする。

Mercedes-AMG GT R ｜メルセデス-AMG GT R
重量（DIN）｜1,555 kg
エンジン｜3,982 cc V型8気筒 直噴ツインターボ
最高出力｜430 kW（585 ps）/6,250 rpm
最大トルク｜700 Nm/1,900-5,500 rpm
トランスミッション｜7段デュアルクラッチ（AMGスピードシフト DCT）
駆動方式｜FR
サスペンション 前/後｜ダブルウィッシュボーン式
ブレーキ 前｜φ390mm ベンチレーテッド ディスク
ブレーキ 後｜φ360mm ベンチレーテッド ディスク
タイヤ 前/後｜275/35ZR19 ／ 325/30ZR20
0-100km/h加速｜3.6 秒
最高速度｜318 km/h
燃費（NEDC）11.4 ℓ/100km（およそ8.8km/ℓ）
CO2排出量｜259 g/km