自動運転の時代に求められるラグジュアリーを提案する「GEA」|Italdesign Giugiaro
Italdesign Giugiaro GEA|イタルデザイン・ジウジアーロ GEA
自動運転の時代に求められるラグジュアリーを提案する「GEA」
ジョルジェット・ジウジアーロ氏によって設立されたイタリアのデザイン会社で、現在はフォルクスワーゲン グループ傘下にある「イタルデザイン・ジウジアーロ」がジュネーブモーターショーで発表したのは、移動空間を重視し設計されたラグジュアリーモデル「GEA」だ。最近のイタルデザインにはみられなかった要素をふんだんに取り入れ、趣を変えた意欲作だ。
Text by HORIGUCHI Yoshihiro(OPENERS)
自動運転の果てにクルマに求められるもの
イタルデザイン・ジウジアーロが今年のジュネーブモーターショーで発表したのは、「GEA」と名付けられたコンセプトモデル。クルマとしての性能よりも、自動運転が実現したそのときに提供できるラグジュアリーことはなにか、をテーマとし開発された。そのため、デザインの中心は従来のように運転席まわりではなく、後席や助手席に注目して設計されている。
イタルデザイン・ジウジアーロでスタイリング エリアを統括するウォルフガング・ エッガー氏によると「ちかい将来、本当の贅沢は時間になります。GEAをデザインするにあたり、クルマで移動する時間さえも創造的な活動にあてるような、“明日のビジネスマン、ビジネスウーマン”を想定しました。GEAは、中央に置かれた“コントロール スフィア(球体)”からモードを切り替えることで、オフィス、ウェルネスそしてドリームという3つのシーンを提供します。これがわたしたちの考える、未来のラグジュアリーなモビリティなのです」と説明する。
GEAのエクステリアはガラスエリアの下縁を境にブラックとネイビーに塗りわけられ、その境界をクロームで取り囲む。足元には、中央に赤い“G”をあしらった60本スポークの26インチという巨大なサイズのホイールを履く。ドアはリモコンで開閉可能なBピラーレスの観音開き式を採用。乗降のさいには、ドアシルの下側から「バーチャル レッドカーペット」を名付けられた、赤いLEDが照射され、ラウンジのような室内へ乗客を誘う演出がなされる。
インテリアは、レザーやシルクを中心に全体的に同系色のトーンでまとめられている。ドアパネル内側の上半分は、イタリアの伝統手工業による手織りのパーチメントレザー(羊皮紙のようになめし処理をしていない革)の織物があしらわれ、GEAの客室のアクセントとなっている。
フロントとリアのシート中央部には、それぞれコントロールボックスとなる“スフィア”が置かれる。ここには特徴的なカーブを描いたデザインが特徴のLGエレクトロニクス社製スマートフォン「G-Flex」を刺しこめるようになっており、専用開発されたアプリを通じて、車両にかんするすべてのコントロールがおこなえる。
Italdesign Giugiaro GEA|イタルデザイン・ジウジアーロ GEA
自動運転の時代に求められるラグジュアリーを提案する「GEA」 (2)
ビジネス、ウェルネス、ドリームの3モード
GEAの最大の特徴は、自動運転中に、シーンにあわせて切り替えることができる3つのモードだ。
ひとつめは「ビジネス」で、いわゆる移動オフィスとしての設定。ドアパネルをはじめ車内のLEDライティングは白で統一され、天井から2基の19インチ透過型LEDディスプレイが下がり、資料の閲覧やデジタル作業することが可能だ。また、助手席は180度回転するので、ビジネスパートナーと対面で会話することもできるうえ、助手席のシートバックを倒せばフラットなテーブルとしても使える。
そして「ウェルネス」モードは、テクノジム社と共同開発されたシステムを搭載し、座ったままでおこなえるアイソメトリック エクササイズがおこなるという代物。19インチのモニターにはチュートリアルのビデオが映し出されるので、それを見ながらエクササイズができる。また、小さな冷蔵庫がリアシートの中央に設置されているので、冷たい飲み物も補給ができる。その上の小さな引出には、化粧品やアロマテラピー用のパフュームポーチが収められている。このウェルネスモードでは、室内のライティングは、暖かみとリラックスをイメージしたアンバーで照らし出される。
最後の「ドリーム」は、完全なリラクゼーションを目的としたモード。窓は暗くなり、室内LEDは落ち着いたブルーに、そしてモニターやダッシュボードには、宇宙の風景や星空の映像が映し出され、落ち着いたムードを演出する。また、リアシート足元からはフットレストが持ち上がるが、これを180度回転させた助手席と繋げることで、長いベッドとして利用することもできる。
Italdesign Giugiaro GEA|イタルデザイン・ジウジアーロ GEA
自動運転の時代に求められるラグジュアリーを提案する「GEA」 (3)
2度しか回転しないハンドル
自動運転が前提とされているGEAではあるが、決してスポーティなドライビングプレジャーを否定するものではない。動力源には出力147kWの電気モーターを4基も搭載し、合計で570kWもの出力を発揮、最高速度は250km/hだ。ボディサイズは、全長5.37×全幅1.98×全高1.46メートル、ホイールベース3.33メートルと大柄ながらも、ボディやシャシーの構造にはアルミニウム、カーボンファイバー、マグネシウム合金を利用して軽量化を図り、重量は2,000kgとすこしに抑えられている。
運転席のインストルメンタルパネルは12インチのディスプレイとなっており、速度、モーター回転数、ナビゲーション、バッテリー残量、航続可能距離など運転に必要な情報が表示される。パネルの左右端には、サテライトボタンを髣髴とさせる、6個のタッチ式ボタンが配置される。
サイドミラーのかわりに車体左右埋め込まれたカメラの映像は、インストルメンタルパネルの左右に置かれた3.5インチ ディスプレイに映し出される。バックミラーも、アウディが開発した、カメラ映像で代用する「リアビューミラー」が採用されている。この後方カメラはパークアシストにも利用される。
コックピットと呼ぶにふさわしい航空機のようなハンドル上には3つの機械式ボタンが配され、それぞれ車両本体の電源スイッチ、速度指定、そして自動運転の機能のオンオフという重要な機能をもつ。
エルゴノミックにデザインされたというこのハンドルは、じつはわずか2度(角度)しか回転しない。ステアリングコラムにかわり内蔵されたセンサー(ポテンショメーター)がドライバーの力のいれ加減を感知して、強く捻るとフロントホイールの角度を大きく、弱く捻ると小さく切るという機構がそなわる。ハンドルを切るという動作は変わらないものの、従来の「切る量」での操舵から「切るちから」へとその原理を変えたあたらしい操作系となっている。
モーターのみで動くGEAは、375リットルもの容量をバッテリーに割いている。その充電には、非接触型の電磁誘導方式を採用。このため、ボディに充電ソケット用の切り込みをいれずにすみ、クルマのシルエットを美しくたもつことができたという。