少ないEVと目立ったPHEVの関係|Geneva Motor Show
Geneva Motor Show 2017|ジュネーブ モーターショー2017 解析その3
意外と少なかったEVニューモデル
PHEVは2025年までの繋ぎなのか?
大盛況のうちに幕を閉じたジュネーブ モーターショー 2017年。その会場を巡った、南陽一浩氏によるリポートの最終回は、近未来を占うEVやプラグイン ハイブリッドたちについて。
Photographs by Mochizuki HorohikoText by NANYO Kazuhiro
電動化への圧力はあるものの
ノルウェーとオランダが2025年に、ドイツが2030年に、内燃機関エンジンのクルマの販売を禁じる法案を決議したのは昨年のこと。今のところ法的拘束力はないとはいえ、CO2オフセットの流れはいよいよ内燃機関を社会的に締め出す方向にと、話題になった。ドイツのコンストラクターも協調して充電ステーションの整備に乗り出すことを2016年末に発表し、いよいよ欧州がEV時代に前のめりになるかのようなトーンだった。
ところがジュネーブ サロンが開幕してみれば意外や、欧州勢のハイエンドでBEV(純電気自動車)はBMW「i8」の追加モデルぐらいで、現実的にはプラグインを含めハイブリッドのニューモデルが多い。EVへのシフトという言説が信じられているなら、欧州のコンストラクターがのってくるはずだが、肩透かしといわざるをえない。むしろ目立ったのは、ポルシェ「パナメーラ ターボ S Eハイブリッド」や、フルモデルチェンジしたボルボ「XC60 T8」、BMW「530e」といった、プラグインハイブリッド勢(PHEVだ)。
EVで見るべきところがあったのはコンセプトと商用車、そして普及車ぐらいだ。まずルノーは「ZOE e-スポール」を通じて、「サンク ターボ」や「クリオV6」時代のロジックを、EVにも当てはめて見せた。あえて市販車に目を移せば日本市場での展開はないであろう、ルノー「カングーZE」、同「マスターZE」、そしてプジョー「パートナー ティーピー」という、それぞれのEV版、そしてオペルから「アンペア-e」が登場したぐらいだ。モノスペース ルックのアンペア-eはNEDCサイクルで航続距離520kmを謳っているが、急速充電器や工事費は別売だ。
Geneva Motor Show 2017|ジュネーブ モーターショー2017 解析その3
意外と少なかったEVニューモデル
PHEVは2025年までの繋ぎなのか? (2)
普及に入りはじめた欧州のPHEVたち
結局、都市間移動のようなGT的要素の強いクルマだと、現状のリチウムイオン バッテリーのエネルギー密度では航続距離を伸ばすために大きな重いバッテリーを積む合理性がない。前述のオペル アンペア-eもBセグメントの車格ながら重量は1.6トンを超える。むしろ、ハイブリッドの指標モデルとして欧州でも認識されているレクサス「LS500h」が、前世代の「LS600h」よりもバッテリー重量を20パーセント軽くしている事実は、BEV推進論に重く響くのではないか。
実際に欧州はようやくハイブリッドの普及フェイズに入ったといえる。まだ一般のユーザーに「トゥーマッチ」と捉えられがちなPHEVは韓国車勢が多かった。逆に非プラグインのハイブリッドはやはり日本車の独断場だった。トヨタの欧州戦略車である「ヤリス ハイブリッド」(日本におけるヴィッツ ハイブリッド)はマイナーチェンジを迎え、そのハイエンドたるレクサスLS500hの隣で並べられたのは象徴的だ。インフィニティは「Q50ハイブリッド」を登場させたし、スズキは「バレーノ」や「イグニス」ですでに展開していたスマート ハイブリッド(SHV、モーター駆動が内燃機関の補助専用のハイブリッド)を新しい「スウィフト」で提案した。
一方でドイツ勢では、アウディが「Q8スポーツ コンセプト」でマイルド ハイブリッドを、直列6気筒のTFSI 3リッターを20kWのモーター駆動で補助するというパワートレインで発表した。ここから先の7~10年はひとまずハイブリッドで行くしかないというコンセンサスは形成されつつあるが、日本車有利のゲームを看過できないというのが、欧州コンストラクターもしくはロビーの本音だろう。
とはいえエネルギー源の97パーセントを水力発電でまかなうノルウェーのような国で、政府補助金を利して「eゴルフ」が続々と売れている状況もある。エネルギー供給が持続的にクリーンになりさえすれば、ハイブリッドの役目が早晩に終わる可能性は、ゼロではないのだ。
⇒ジュネーブ モーターショー2017 解析その1 スーパーカー篇
⇒ジュネーブ モーターショー2017 解析その2 SUV篇