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2021年7月30日
マジックカーペット・ライドは電動化でも健在──シトロエンC5エアクロスPHEVに試乗|Citroën
Citroën C5 AIRCROSS|シトロエンC5 エアクロス
マジックカーペット・ライドは電動化でも健在──シトロエンC5エアクロスPHEVに試乗
シトロエンの現行ラインナップにおけるハイエンドモデルである「C5 エアクロス」にPHEVが追加された。その真価を確かめるべく、さっそく軽井沢で試乗した。
Text by NANYO Kazuhiro|Photographs by MOCHIZUKI Hirohiko
シトロエンが常に提供してきた快適さの質とは?
恐らくシトロエンほど、乗り手に快適性を期待される自動車メーカーもないだろう。現在のラインナップにおいてハイエンドモデルとなるSUV、C5エアクロスならなおさらのことだ。今回はその最新作であるPHEV版に、まだ新緑のみずみずしい軽井沢で試乗がかなった。


快適性と一概にいうものの、それは仕立ての高級さや豪奢さ、神経質なほどの緻密さとは、結びついているようで実は必須ではない。コスメティックな部分とコンフォートの本質はむしろ異なり、シトロエンが常に提供してきた快適さの質とは、むしろフランス本国では「ラ・ヴィ・ア・ボール(la vie à bord)亅という概念が相当する。直訳すれば「車上での生活(水準)」ということで、英語のライフに相当するvieとは生活のみならず生命そのものを指す言葉でもある。いわゆるNVH(ノイズ・ヴァイブレーション・ハーシュネス)の少なさに裏づけられた狭義の快適性のみならず、走行中の車内空間の空気感や、移動を通じて乗員各自が生きることになるエクスペリエンスそのものが含まれるのだ。


PHEV化にあたってC5エアクロスは、モーター駆動という無音かつ無振動に近い領域を、その動的質感に積極的にとり込んできた。そもそもプジョー3008Hybrid4とプラットフォームやPHEVコンポーネントを共有しつつも、かなり仕立ては異なる。110psを発生するモーターは、180psの1.6リッターターボと同様に前車軸に組み合わされている。つまり、13.2kWh容量のリチウムイオンバッテリーこそリアシート下の後車軸寄りに積むが、純粋なFFなのだ。電気と内燃機関のいずれかに駆動力を切り替える、もしくは双方ともエンゲージするのは、e-EAT8というトルクコンバーターではなく湿式シングルクラッチによる8段ATだ。



バッテリー残量がある限り、走り出したときのデフォルト走行モードは「エレクトリック」。必要に応じて「ハイブリッド」に移行するが、全長4.5メートル前後の欧州CセグメントのコンパクトSUVとしては、13.2kWhという大きなバッテリー容量を備えるPHEVだけに、何なれば135km/hまで電気のみで積極的に走ろうとする。これはちょうどフランスでは高速道路の制限速度130km/hに近いレベルにあたる。出発地点=充電ポイントという前提から、可能な限り広範囲を電気の駆動力でカバーしようとするのだ。シトロエンはEV走行が可能なレンジを65㎞としている。



結果的に320Nmという十分なトルクを利しつつ、市街地ではほぼEVとして振る舞う。しかもアドバンストコンフォートと名づけられた分厚いシートクッション・パッケージで柔らかく包まれた室内が、リビングの延長にいるかのような印象すら与える。足まわりにはPHC(プログレッシブ・ハイドローリック・クッション)と呼ばれる、硬軟いずれの減衰にも長じたダンパー・イン・ダンパーを採用しており、段差や継ぎ目を乗り越える動きは、素晴らしく柔らかい。
かくしてスムーズでソフトな乗り心地が、エンジン音や振動のない車内の静寂とともに持続するが、静かで乗り心地がいいだけではない。車内の視界やパノラミックサンルーフによる採光が開放的で明るく、加えてナッパレザーで覆われた内装まで、目に触れる視覚情報が総じてリッチでもある。
ガソリンエンジンの伸びのよさと高燃費、そして静粛性の高さが特長
C5エアクロスはバッテリー残量がゼロになっても通常のストロングハイブリッドと同じく、直前のブレーキ制動によって回生して蓄えた電力により、発進時のひと転がりは電気で駆動される。PHEVといえばバッテリーが空になると重たいICE車に堕するように考えられやすいが、そうはならないのだ。



ちなみにドライブモードで「スポーツ」を選択すると、逆にICEを優先する制御ロジックに切り替わり、シフトアップのタイミングを遅らせ、225psというICE+モーターのシステム総計出力を伸び伸びと使い倒そうとする。
この日は出力的には約180psにとどまるガソリンとディーゼル、それぞれの純ICE仕様とも乗り比べたが、アクセルペダルに力を込めた際の、駆動力が立ち上がるレスポンスでは断然、PHEV版が優れている。高さも厚みもあるボンネットからは想像できないほど、ステアリングを切ったときのノーズの動きは軽快かつリニアで、足まわりのストロークの豊かさは、ビッグ・シトロエンの伝統を感じさせる。



だが、同時にPHEV版は、後車軸まわりの重量が増している影響もあって、操舵に対して後車軸がついてくるのにワンテンポ遅いため、やや片側に倒れるようなロール感がある。逆にいえば、柔らかな足まわりと機敏さを両立させているガソリン版と、力強い大トルクと粘り強いハンドリングが交じり合うディーゼル版、それぞれのICE版の完成度の高さも際立っていた。総じていえるのは、ガソリンエンジン特有の伸びの良さに加え、ディーゼルに迫る燃費のよさ、さらには静粛性の高さまで手にしているのが、PHEVの特長でもある。



しかもPSAグループは昨今「パワー・オブ・チョイス」を掲げており、外観上の差をつけずに乗り手の好みや用途に、パワートレインの選択を委ねる姿勢を貫いているが、シトロエンC5エアクロスはプジョー508と並んで、3種類すべての選択肢を本国市場同様に揃えたトップ・オブ・レンジでもある。



PHEVの車両価格はディーゼル比でプラス75万円近い550万円と、エコカー補助金による埋め合わせを考慮しても50万円以上の差があるが、充電環境の恩恵に俗せるのなら走行コストはかなり圧縮できる。興味深い選択肢が増えたといえるだろう。
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