PORSCHE PANAMERA|ポルシェ パナメーラ V型6気筒を授かった新型パナメーラ
CAR / IMPRESSION
2015年3月6日

PORSCHE PANAMERA|ポルシェ パナメーラ V型6気筒を授かった新型パナメーラ

PORSCHE PANAMERA|ポルシェ パナメーラ

V型6気筒を授かったライトウェイトなパナメーラ(1)

ドイツのケルンでおこなわれた国際試乗会で披露された新型のパナメーラ。3.6リッターV型6気筒の300psユニットを搭載した同モデルに、島下泰久氏が乗り込んだ。

文=島下泰久写真=ポルシェ・ジャパン

待望のエンジンを積んだ2車種が登場

デビューから1年が過ぎ、そろそろ街なかで遭遇する機会も増えてきたポルシェ パナメーラに、待望のV型6気筒エンジン搭載モデルが2車種追加された。車名は2WDが単に「パナメーラ」、そしてフルタイム4WDが「パナメーラ4」と呼ばれることになる。

まず注目すべきは、ほかならないそのエンジンだ。自然吸気とターボが用意されるV型8気筒4.8リッターユニットが、ポルシェ カイエンと基本的に共通なのに対して、3.6リッターV型6気筒のそのエンジンは、じつはカイエン用とは別物なのである。理由は簡単。カイエン用ではパナメーラの低いボンネット内に収まらないからだ。
エンジン全高は41mm低く、重量も14kg軽いというこのエンジンは、実質的にV型8気筒ユニットから2気筒をカットオフしたものだといえる。スペックは最高出力300ps/6,200rpm、最大トルク400Nm/3,750rpmとされる。

既存グレードとのちがいは、ほぼこのエンジンだけといっていい。外観上、識別するポイントはマットブラックのサイドウインドウフレーム、リアエンドの楕円形シングルチューブのテールパイプ、そしてエンブレムくらいである。
このV型6気筒モデルの追加に合わせて、パナメーラ・シリーズは全モデルに小規模の変更がほどこされている。PDK車のステアリングホイールに「PDK」と刻まれた装飾プレートが追加されたほか、911ターボで初採用されたブレーキによるトルクベクタリング機能であるPTVプラスや、やはり911ターボから設定されたPDK車用パドルスイッチ付きステアリングなどがオプション設定されたのだ。

全長5m級の堂々たる体躯を誇るパナメーラだけに、V型6気筒エンジンがポルシェの名にふさわしい動力性能をもたらしてくれるかどうかは、誰もが気になるところにちがいない。結論からいえば、期待には十分応えてくれるだろう。いや個人的には、期待以上だったといってもいい。

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フルタイム4WD「パナメーラ4」は7速PDKを装備

最初に乗ったのはパナメーラ4。フルタイム4WDシステムはPTMと呼ばれる電子制御式で、ギアボックスは7速PDKのみが用意されている。

走りの好印象の一番の要因は、日常よく使う4,000rpm以下の回転域の力強さだ。エンジン特性だけ見ると、最大トルクの発生回転数は3,750rpmでカイエン用V型6気筒より高回転寄り。しかし、車重の軽さが効いているのだろう。パナメーラは、右足の動きに即応する好レスポンスによって、走り出した瞬間からスポーツカーらしい俊敏さを味わえる。引き締まった低音のビート感あるエンジンサウンドも、そうした印象を強めているのかもしれない。

その反面、高回転域のパワーはさほど強烈とは感じられないのだが、それは低速域の充実ぶりにかえって強調されている部分も小さくなさそうだ。有り余るほどのパワーがあるともいわないが、トップエンドまで澱みなく吹け上がり、その過程では回すほどにヌケのよくなるサウンドの変化も楽しめるエンジンは、十分に回す価値のある、紛れもないスポーツ心臓に仕上がっている。

さらに、信号待ちなどで車両を停止させれば、自動的にエンジンを停止させて無駄な燃料消費を抑えてくれるのだ。発進のさいにはブレーキから足を離すだけで自動的にエンジンが再始動する。この“スタート・ストップ”機能自体は従来のV型8気筒、同ターボにも搭載されているが、改良により始動時間の短縮と振動の軽減が図られているという。実際、動作は快適で、試乗中にリズムが削がれるなどと感じることは一切なかった。その走りっぷりは総じて、きわめて洗練されているといっていい。

PORSCHE PANAMERA|ポルシェ パナメーラ

V型6気筒を授かったライトウェイトなパナメーラ(2)

全長5メートルの大きさを感じさせない軽快なフットワーク

うれしい驚きは動力性能だけじゃない。フットワークからももたらされた。とにかくすばらしく軽快なのだ。ステアリングホイールを切った方向に、間髪入れずにスーッとノーズが切れ込んでいく感覚は、全長5メートル近い4ドアのクルマを操っているとは、とても信じられないほどである。

ボンネットフードを開けて中を見てみれば、その軽快感にも納得がいくはずだ。エンジンはV型8気筒から前端2気筒分がきれいにカットされている。つまり、その分エンジン搭載位置は後ろに寄せられ、車体前端が2気筒分丸ごと軽くなっているのである。これが躍動的なレスポンスに効かないわけがない。

単にキレ味がよいだけでなく、その後の挙動も安定している。アクセルを踏み込むとPTMが前輪にも多くの駆動力を伝えて、車体をコーナー出口に向けて引っ張り出すが、かといって曲がりにくいということはなく、絶妙な姿勢で立ち上がることができる。試乗車には、旋回時に内輪に軽くブレーキをかけて外輪の駆動力を引き出す新設定オプションの“PTV(ポルシェ・トルク・ベクトリング)プラス”が装備されていたから、その効果もきっと小さくはないはずだ。

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6速マニュアルギアボックス搭載の2WD「パナメーラ」

つづいては後輪駆動の“素の”パナメーラにも試乗した。こちらは何と6速マニュアルギアボックス仕様である。

ギアシフトのフィーリング自体は、悪くはないがよくもないといったところ。ストロークが長く、操作力こそ軽いが明確なゲート感がなく、変速そのものが楽しいというところまではいたっていない。しかしクラッチ操作もふくめて、すべてを自分でコントロールできる楽しさは健在。そんなふうに思えるのは、もちろんパナメーラが純然たるスポーツカーの走りを備えているからだ。

パナメーラ4でも感じられた鼻先の軽さが、後輪駆動のこのパナメーラではさらに研ぎ澄まされて感じられる。車重の差はPDK同士の場合でも60kgあり、そのほとんどが車体前方に集中しているはずだ。しかも前輪に駆動力が伝わらないだけに、ステアリング操作に対して前輪が何の抵抗感もなく即座に旋回グリップを発生させるさまが、掌にまで生々しく伝わってくる。あまりの軽快感、あまりのダイレクトさに、まるでボクスターでも操っているかのような気分になってしまったほどである。

安定感にも何ら問題はない。もとよりそのシャシー性能は、300ps程度のパワーでは打ち破れないほどの高みにあるからだ。

車体がフラットに保たれる手品のような乗り心地のよさ

乗り心地も上々といえる。試乗車は全車、日本仕様には標準装備となるアダプティブエアサスペンション付きだったが、ポルシェらしいスポーティな感覚を損なうことなく、大入力に対しても姿勢を乱さず、つねに車体はフラットに保たれる。じつは途中、後席にひとを乗せたままで山道を飛ばしてしまったのだが、このときですら後席からは一切の文句の言葉も出なかった。この乗り心地は、まるで手品かなにかのようである。

世界的に販売が順調に推移しているというパナメーラ・シリーズだが、いっぽうでV型6気筒モデルの導入を待って、どれを選ぶか決めるつもりだという声を聞くことも、これまでは多かった。そんなひとに向けた結論は「待った甲斐はあった」「きっと満足できるはず」といったあたりになりそうだ。

しかしいっぽうで、既存モデルの価値や存在感が損なわれたりはしていないのも、これまた事実。ポルシェはいつもそうだが、おなじパナメーラのなかでこれだけしっかりキャラクターを作り分けてくる巧みさには本当に感心させられる。

ポルシェによれば、このV型6気筒モデルは、シリーズの販売の半数を占めるだろうということである。今後、街でパナメーラとすれちがう機会がますます増えることはまちがいない。

           
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