Peugeot RCZ|プジョー RCZ あらたな扉をひらくスポーツクーペ
Peugeot RCZ|プジョー RCZ
あらたな扉をひらくスポーツクーペ(1)
プジョーから発せられたニューモデル「RCZ」。ネーミングからして、いままでのプジョーとは異なるモデルだという主張が感じられる。乗り味も、従来のプジョーとは一線を画すものなのか?! 島下泰久がスペインでの試乗のようすを報告する。
文=島下泰久写真=プジョー・シトロエン・ジャポン
強烈なインパクトをもつ造形
車名はRCZ。プジョーにとっては初の、あいだに「0」「00」を挟んだ数字ではないネーミングが与えられている。ノーズの先端につけられたライオンマークも、今年発表されたあたらしいCIによるものがはじめて使われた。変革の予感。このプジョーに今までなかったタイプのスポーツクーペは、ブランドのあらたな扉を開くものだといえるかもしれない。
スペインはリオハ地方にあるデザインホテル、マルケス デ リスカルの庭先で待ち構えていたRCZは、見た目の第一印象から強烈なインパクトを放っていた。フロントマスクこそ基本骨格を共用する308シリーズとの親和性を感じさせるものの、そのほかはまったくの別物。特にそのプロポーションは独特だ。
前後のフェンダーが大きく盛り上がった下半身はマッチョな印象。一方、その上の天地に薄いキャビンは、クーペの定番様式とは正反対に可能な限り前に寄せられている。サイドウインドウに沿って配されたアルミニウム製のアーチも、その独自性を一層強調するアクセントである。
後方にまわると、ルーフからリアウインドウにかけての往年のザガートのようなダブルバブル的な造形も目をひく。これはレトロモチーフではなく、昨年のル・マン24時間レースを制したプジョー908HDi FAPから引用しているのだという。ちょっと凝り過ぎでは……という感もなくはないが、プジョーファンにとってはたまらないものがあるのだろう。
スリーサイズは全長4, 287×全幅1,845×全高1,359mm。308ハッチバックと全長はほぼ一緒で幅が25mmほど広く、そして150mm以上も低い。前1,580mm、後1,593mmのトレッドもそれぞれ44mm、63mmもワイドだ。このディフォルメしたかのような極端にロー&ワイドな寸法も、独自の強烈な存在感を醸し出すポイントである。
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あらたな扉をひらくスポーツクーペ(2)
スポーツカーならではのポジションに昂揚する
インテリアも、やはり308シリーズとはひと味ちがったスパイスがくわえられている。ドライバーの眼前のメーターにはクロームのリングがあしらわれ、プジョー得意のレザー張りとされたダッシュボード上の円型の空調ダクトは、真ん中のひとつがアナログ時計に置き換えられている。そして何より雰囲気を変えているのが、低いルーフに合わせて極端に下げられた着座位置だ。スポーティな形状のシートの座面は308CCよりもさらに45mmも低く、おかげで必然的に足を前に投げ出したようなスポーツカー的な姿勢となる。気分は否が応にも昂揚してくるというわけである。
ただし、快適なのは前席だけ。後席は完全に補助席だ。筆者の場合、身長177cmの自分の体格に合わせた状態で乗り込むと、足を開いてもなお、膝などそこここがつっかえるし、頭を起こせず顔はずっと下を向いたままとなってしまう。普段は荷物置き場、あるいはベビーシート固定用と思っていたほうがよさそうだ。
一方、見た目より余裕があるのが荷室。容量は通常時でも321リットル(VDA)、後席背もたれを折り畳めば最大639リットル(同)を確保できる。大人2人、あるいはプラス小さな子ども1人くらいまでなら、これ1台で旅行まで十分にこなせるだろう。
快適性を生む、しなやかなサスペンション
ラインナップはガソリンが2種類、ディーゼルが1種類。そのうち今回試乗できたのは、最高出力200psを発生する1.6リッター直噴ガソリンターボと、おなじく163psの2リッター直噴ディーゼルターボで、いずれも6速MTを組み合わせていた。なお日本には、前者に6速MTを組み合わせた左ハンドル仕様と、おなじエンジンの156ps版に6速AT、右ハンドルという2モデルが導入される。
最初にステアリングを握ったのは2リッターディーゼル+6速MTというモデル。日本にはディーゼルは導入されないが、足まわりは日本仕様の156ps+6速AT版と共通となる。
走りはじめた途端、唸らされたのがその快適性の高さだ。サスペンションがとてもしなやかにストロークして、大小のショックを巧みに吸収してくれる。路面の継ぎ目の段差などを超えるさいに235/45R18という大径タイヤが悪さをしてゴツッとは来るものの、快適性の高さはこの手のスポーツモデルとしては異例なほど。やはりRCZも、あくまでフランス車なのだ。その反面、ダイレクト感、操り甲斐といった要素は濃くはないが、日常づかいで雰囲気を重視するなら悪くはないだろう。
走りにこそ何より重きを置くなら、選ぶべきは200psの6速MT仕様だ。こちらは単純に動力性能が高いだけでなく、堂々スポーツカーを名乗ってもいいほどの操る醍醐味を備えているからである。
小径ステアリングホイールや操作ストロークを短縮した6速MTなどをセットにしたスポーツパックが標準装備となるこちらは、走り出す前、室内に乗り込んだところからテンションを高める。実際の操作感も良く、とくにステアリングホイールは、慣性マスの小ささが手応えにしっかり反映されている。
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あらたな扉をひらくスポーツクーペ(3)
アクセルを踏み込むほどにヌケの良いエンジン音が
走り出しても、まだうれしい驚きはつづく。アクセルペダルを踏み込んでいくと、右足の動きに合わせて“クォーン”とヌケの良い音が耳に届けられるのだ。これは、やはりスポーツパックにふくまれるサウンドシステムの効果。なま音の良さではなく、あくまで演出なのだが、これまでヨーロッパで大ボリュームを占めるディーゼルにばかり力を集中させてきたプジョーが、これほどガソリンエンジンに力を入れてきたというだけでも驚きであり、またうれしい気持ちにさせられたのだ。
回すほどにサウンドは盛り上がるが、トルクカーブは徹底的にフラット。275Nmの最大トルクを1,700rpm~4,500rpmという広範囲で発生しつづける特性ゆえに、どのギアで、どの回転域から踏もうと、即座に力強い加速に移ることができる。
200psの最高出力も、やはり発生回転域は5,500~6,800rpmのあいだとワイド。そのぶん高回転高出力型のような快感は薄いともいえるが、代わりにそこには正確なスピードコントロールによるクルマとの一体感というよろこびがある。
まるで地面に貼りつくような抜群の接地感
フットワークも、そんな動力性能に輪をかけて素晴らしい。ステアリングホイールは指一本分の操舵にも素早く反応して,その後も深い舵角まで正確なレスポンスを返しつづける。限界自体も高く、タイトコーナーでもタイヤを鳴らすのすら容易ではない。中高速コーナーでの走りも快感。前後バランスの良さ、重心の低さが大いに活きていて、まるで地面に貼りつくような抜群の接地感のもとでコーナリングをたのしめるのだ。
タイヤは235/40R19サイズとさらに偏平率が高く、サスペンションも一層締め上げられているが、それでも乗り心地は決してガチガチということはない。むしろ場面によっては、余計な動きが抑えられて、かえって快適とすら感じたほどだ。ふたつのモデルの味つけは、それぐらい明確に分けられているのである。
スタイリングにも走りっぷりにも独自の、濃厚な魅力をもったRCZの日本導入はすでに発表済みで、価格も明らかになっている。156psの6速AT仕様は、その新鮮さも手伝ってアウディTTクーペあたりの強力なライバルとなりそうだ。とくに200ps仕様は今や希少な手頃な価格帯の左ハンドル+マニュアルギアボックスのスポーツクーペということで、マニアから熱い視線を浴びるにちがいない。
ここ数年、やや停滞ムードを感じさせたプジョーだが、ここに来てディーラーに客足がもどってきたようだし、こんなふうにあたらしい風を感じさせる魅力的なモデルも投入されてきた。RCZの投入は、そんなプジョーの再浮上を強力にアシストすることになりそうである。