メルセデス・ベンツS 500プラグインハイブリッドにドイツで試乗 |Mercedes-Benz
Mercedes-Benz S 500 PLUG-IN HYBRID
メルセデス・ベンツ S 500 プラグインハイブリッド
メルセデス・ベンツ初のプラグインハイブリッドにドイツで試乗
メルセデス・ベンツのフラッグシップセダン「Sクラス」に投入された、メルセデス・ベンツ初となるプラグインハイブリッドモデル、「S 500 プラグインハイブリッド」にドイツはシュトゥットガルトで試乗した。大谷達也氏のリポートでお届けする。
Text by OTANI Tatsuya
プラグインハイブリッドが起こす暮らしの変化
いま話題のプラグインハイブリッドカーは、ふたつの才能を兼ね備えたクルマだとおもう。
ひとつは、走っているときに排ガスをまったく出さないEV(電気自動車)としての才能。そしてもうひとつは、いまや低燃費車の代名詞となっているハイブリッドカーとしての才能である。言い換えれば、EVとハイブリッドカーの長所を1台にまとめたのがプラグインハイブリッドカーということになる。
メルセデス・ベンツ初のプラグインハイブリッドカー(メルセデスはPIHと呼ぶが、以下、日本でより一般的なPHVと記す)として発表された「S 500プラグインハイブリッド」も、EVの長所とハイブリッドカーの長所を兼ね備えているという点では従来のPHVと変わりないが、「クルマとしての効率を徹底的に磨き上げてCO2排出量のさらなる低減を目指す」という点ではこれまでにない取り組みがおこなわれており、おもわずうならされてしまった。
その「画期的な思想」については後ほど紹介するとして、まずはS 500プラグインハイブリッドを手に入れると私たちの暮らしがどう変化するかについて説明しよう。
S 500プラグインハイブリッドは、車載のリチウムイオンバッテリーを満充電にすると最大で33kmのEV走行ができる。1回で走れる距離が33kmと聞くと、あまりにも短すぎて実用的ではないとおもわれるかもしれないが、国土交通省の統計によると、日本では全乗用車の約70パーセントは1日あたりの走行距離が30kmを下回っているそうだ。つまり、日本のユーザーのおよそ7割は、毎晩自宅でバッテリーを充電することで、一滴のガソリンも使うことなくS 500プラグインハイブリッドを走らせることができるのだ。
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メルセデス・ベンツ S 500 プラグインハイブリッド
メルセデス・ベンツ初のプラグインハイブリッドにドイツで試乗(2)
環境、維持費、パワー、いずれにも電気の恩恵
ところで、電気の力でクルマを走らせるメリットといえば、まずCO2排出量が少ないこと(走行中にクルマが排出するCO2はゼロだが、発電の過程を含めると、少ないながらもCO2を排出していることになる)が挙げられるが、それとともに燃料代(この場合は電気代)が安いことをご存じだろうか。
たとえば、S 500プラグインハイブリッドのバッテリーを満充電するのに必要な電気代は、概算で200-300円の範囲。いっぽう、おなじ33kmをガソリンで走ったとすると、燃費10km/ℓで530円ほどになり、かりに15km/ℓ走ったとしても350円ほどかかる(ガソリンはリッターあたり160円として計算)。つまり、現時点ではPHVは環境に優しいうえにお財布にも優しいのである。
とはいえ、休日にもなれば家族と外出したり、友人たちとゴルフ場まで出かけることもあるだろう。この場合、33kmの航続距離では到底間に合わなくなるが、そんなときはPHVのもうひとつの才能を発揮させ、ハイブリッドカーとしてS500プラグインハイブリッドを走らせればいい。
新開発のV型6気筒 3.0リッターエンジンは、最高出力333psと最大トルク480Nmを発揮。しかも、いざとなればこれに電気モーターのパワーがくわわり、最高出力は442psへ、そして最大トルクは650Nmへと跳ね上がる。
これは既存のS 550に匹敵するスペックだ。おかげでS 500プラグインハイブリッドの走りは爽快そのもの。ドイツでおこなわれた国際試乗会ではメルセデスの本拠地であるシュトゥットガルト周辺を縦横無尽に走り回ったが、市街地では力強いトルク感を、そしてアウトバーンでは伸びやかな加速感を満喫することができた。
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日本名は「S 550プラグインハイブリッド ロング」
なお、ヨーロッパでは「S 500 PLUG-IN HYBRID」の名称で販売されるが、日本仕様では「S 550プラグインハイブリッド ロング」に改められる。
メルセデスのモデル名が、クラスを示すアルファベットと、エンジンパフォーマンスを示す3ケタの数字を組み合わせてできていることはご存じのとおり。実は、「S 500プラグインハイブリッド」の性能は本来“550”相当なのだが、ヨーロッパでは多くのファンが500という数字に親しみを感じていることから、あえて「S 500プラグインハイブリッド」と名付けられたようだ。
ただし、本来の性能はあくまでも“550”相当であること、ロングホイールベースモデルであることから、日本(や北米)では前述のとおり、ことなる名称で販売されるという。もちろん、実質的には何のちがいもないのだけれど、「S 550プラグインハイブリッド ロング」と言われたほうが何となく得をしたような気分になってしまうのは私だけだろうか。
ここで、冒頭に述べた“画期的な思想”について説明することにしよう。
PHVは、日々充電して近距離の外出用としてのみ使えば実質的にEVと変わらず、これがCO2の削減にも大きく貢献することから、公式に発表するデータにかんしても特別な優遇を受けている。
つまり、バッテリーに充電した電力による走行が常に一定の比率で含まれていると仮定し、この分は燃料を消費しなかったという前提で燃費を計算していいことになっているのだ。
おかげでS 500プラグインハイブリッドも100kmあたり2.8リッター、日本式の表示に改めれば36km/ℓ近いデータが公表されている。ただし、これはEVの才能とハイブリッドカーの才能を混ぜて計算した結果であり、このままではガソリンのみをエネルギー源として走った場合にどれくらいの燃費になるのかがわからない。言い換えれば、これを“隠れ蓑”として実質ハイブリッドカーとして使ったときの燃費を隠すこともできるのだ。
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もっとも未来に近いフラッグシップ
けれども、このままではPHVのハイブリッドカーとしての効率を示す“実質的な燃費”がわからないし、“実質的な燃費”を公表しなくていいのなら、自動車メーカー側にあえて効率の改善に取り組まなくてもいいという風潮を作りかねない。
しかし、メルセデスはあくまでも自動車としての実質的な効率を追求する姿勢を崩さず、独自に「バッテリーを充電しないまま走らせたときの燃費データ」を公表することに決めたのだ。これは英断といっていいだろう。
その値は日本式の表示で15.6km/ℓというもの。しかも、これは日本のJC08モードよりはるかに厳しく、現実的な燃費に近いとされるヨーロッパ方式の計測方法に従ったデータである。だから、あなたが日本で“S 550プラグインハイブリッド”を走らせたとき、これに近い燃費を記録できたとしてもまったく不思議ではないのだ。
見かけ上の燃費データだけでなく、クルマとしての本質的な効率の追求も怠らなかったメルセデス。彼らの思想はきわめて先進的だ。その意味において、S 500プラグインハイブリッドは「もっとも未来に近いメルセデス・ベンツのフラッグシップモデル」と呼んでも差し支えないだろう。
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メルセデス・ベンツ S 500 プラグインハイブリッド
ボディサイズ|全長 5,246 × 全幅 1,899 × 全高 1,494 mm
ホイールベース|3,165 mm
トレッド 前/後|1,624 / 1,632 mm
最低地上高|130 mm
重量|2,215 kg
エンジン|2,996cc V型6気筒 DOHC ツインターボ
ボア×ストローク|88.0 × 82.1 mm
圧縮比|10.5
エンジン最高出力| 245 kW(333 ps)/ 5,250-6,000 rpm
エンジン最大トルク|480 Nm(48.9 kgm)/1,600-4,000 rpm
モーター|交流同期電動機
モーター出力|85 kW(115 ps)
モータートルク|340 Nm(34.7 kgm)
システム最高出力|325 kW(442 ps)
システム最大トルク|650 Nm(66.3 kgm)
トランスミッション|7段AT(7Gトロニック)
駆動方式|FR
タイヤ 前/後|245/50R18/ 275/45R18
ブレーキ 前/後|ベンチレーテッドディスク / ベンチレーテッドディスク
燃費(NEDC)|2.8 ℓ/ 100 km
最小回転半径|6.15 m
トランク容量|365 リットル