国内試乗、ジャガー Fタイプ クーペ|Jaguar
Jaguar F-Type Coupe│ジャガー Fタイプ クーペ
クーペモデルならではの流麗さ
国内試乗、ジャガー Fタイプ クーペ
昨今のジャガーのイメージを一新すべく、あらたに送り出された新世代スポーツモデルが「Fタイプ」だ。2012年に一足早く登場したオープンモデル版「Fタイプ コンバーチブル」につづき、待望のクーペモデルが日本に上陸。ジャガー往年の名車「Eタイプ」を彷彿とさせるピュア2シータースポーツに、河村康彦氏が試乗した。
Text by KAWAMURA YasuhikoPhotographs by ARAKAWA Masayuki
新時代のジャガーを象徴
そもそも我々は、生粋のスポーツカーメーカーである──昨今、そうした自身のスタンスをことさらにアピールするのが、ジャガーというブランドだ。
ひと昔前のジャガーには、どこか「比較的年配の人のための、高級サルーンを得意とするメーカー」という印象が付いてまわったもの。なかでも1世代前までの「XJ サルーン」などは、まさに“ジェントルなジャガー”を象徴する存在であったと言って良いだろう。
ところが、昨今のプロモーション活動のあり方。そして何よりも、このところ次々と世に問われるプロダクツそのものが、一転してアクティブで若々しいスポーティなブランドであることを強調する。
例えば、前出3代目までのモデルとはうって変わった、何とも流麗でダイナミックなスタイリングで登場の、2009年デビューの現行「XJ サルーン」の姿を目の当たりにすれば──その極端なまでの変貌ぶりに賛同ができるか否かはまた別のハナシとして──このブランドが、まさにここ数年で社運を掛けたイメージチェンジを図ろうとしていることが、誰にも明確に理解をできるにちがいない。
そして、そんなスポーティでアクティブな新時代のジャガーを象徴するのが「50年ぶりの2シータースポーツ」というフレーズと共に、まずは昨年オープンモデルが先行デビューとなった「Fタイプ」だ。
ここに紹介をするのは、今年になって追加設定されたクーペバージョン。そのネーミングを含め、Fタイプというモデルが1960~70年代に大ヒットを飛ばした「Eタイプ」にオマージュを抱きつつ開発されたものであることは明らか。
「往年のEタイプ クーペに負けず劣らずの、何ともスタイリッシュで流麗なルーフラインが再現されたクーペバージョンこそが、Fタイプの本流であるにちがいない」という意見にも、おもわず納得ができてしまいそうだ。
Jaguar F-Type Coupe│ジャガー Fタイプ クーペ
クーペモデルならではの流麗さ
国内試乗、ジャガー Fタイプ クーペ (2)
“フル2シーター”と呼べるパッケージング
かくして、いよいよ日本に上陸となったFタイプ クーペでの最大の見どころは、まずはやはり、そのスタイリングにこそあると言って良い。
往年のEタイプともイメージがラップするスラリと長いノーズにはじまるフロントセクションは、当然ながらコンバーチブルと同様のデザイン。その上で、ドライバーの直上を頂点として、テールエンドへと一点の淀みもなくなだらかな下降線を描くルーフラインが、固定式ルーフを備えるクーペモデルならではの流麗さを表現する。
左右両サイドから強い平面絞りが与えられたキャビン部分の後方には、下端がテールランプ幅で開口するゲートを採用。その内部は当然ラゲッジスペースとなるが、トノーカバー下までの容量が315リッターと発表されたそのボリュームは、「コンバーチブルの3倍ほどか」というのが、パッと見での印象だ。
実はコンバーチブルでは、航空機内持ち込みサイズのキャリーケースが、何とかひとつ積める程度のトランクスペースしか用意をされていない。それに比べれば、飛躍的に実用性が向上したと言えるのがこちらクーペの実力だ。
2人分の荷物を持ち込めば、もはや一部はパッセンジャーの膝上に置かざるを得ず、実質的には“1+1”と表現するしかなかったコンバーチブルに対し、こちらクーペは立派に“フル2シーター”と呼べるパッケージングの持ち主だ。
Jaguar F-Type Coupe│ジャガー Fタイプ クーペ
クーペモデルならではの流麗さ
国内試乗、ジャガー Fタイプ クーペ (3)
走りへの拘り
クーペのグレードは、コンバーチブル同様に主に搭載エンジンのちがいを基準として3種類の設定。3リッターのV6エンジンを搭載するのが、ベースグレードとSグレードというのはコンバーチブル同様。ただしクーペの場合、5リッターのV8エンジンを搭載するグレードは、コンバーチブルには存在しないRグレードとなる。
Rクーぺの心臓は、コンバーチブル用に比べると最高出力が55ps、最大トルクが55Nmもの上乗せをされた専用のアイテム。さらに、やはり専用チューニングが施されたサスペンションや「ジャガー車としては初」と謳われるトルクベクタリング バイ ブレーキングなど、走りにかかわる拘りの機能も採用する。
結果、ベースグレードとSグレードはコンバーチブルよりも150万円以上のマイナスという価格設定であるのに対して、V8エンジンを搭載するRグレードは、コンバーチブルのSグレードと全くの同価格。すなわち、2種類のボディを用意する全てのFタイプのなかにあっても、「とびきりスポーティな特別なモデル」と位置づけられているのが、Rクーペというわけだ。
いかにもピュアなスポーツカーらしい、まるで自らが“クルマのパーツのひとつとしてはまり込む”ような感覚を抱きながら、まずはSグレードのドライバーズシートへと腰を下ろす。
左右のベルトラインも前方のカウルトップも高めである上に、相対的に高い位置に置かれたドアミラー背後に大きな死角が生まれるため、視界の広がり感は高くない。「だからこそ、スポーツカーらしくて良いんだ」という声もあるかも知れないが、死角の大きさは時にスポーツドライビングの妨げとなるのも事実。
端的にいえばこのモデルの場合、下りの左ヘアピンコーナーでは、これから進む先の路面が非常に見えづらくなったりする。そのスタイリングは何とも魅力的だが、一方でこのあたりに”見た目優先”の弊害が生まれているという印象も皆無ではないものだ。
Jaguar F-Type Coupe│ジャガー Fタイプ クーペ
クーペモデルならではの流麗さ
国内試乗、ジャガー Fタイプ クーペ (4)
これ以上、何を望むのか
走り始めるとまず感じるのは、やはりコンバーチブルよりも「ボディが遥かにしっかりしている」という印象。実際、データ上でもねじり剛性はコンバーチブルの80パーセント増しと謳われるが、そうした差はこちらの方がステアリングコラムやルームミラーに伝わる振動が明らかに少ないことで、すぐに実感できるのだ。
3リッターのメカニカルスーパーチャージャー付きV型6気筒という基本デザインは共通ながら、チューニングのちがいでベースグレード用のユニットに対し、40psと10Nmが上乗せされたエンジン+8速ATがもたらす動力性能は、端的に言って「これ以上、何を望むのか!」という強力さだ。
発表された0-100km/h加速タイムは4.9秒。これは、最新のポルシェ911カレラMT仕様に対してもコンマ1秒の遅れに過ぎない。
マフラーから発せられる派手なサウンドを耳に、アクセルペダルを踏み込んで行くのは、スポーツ派ドライバーにとっては何とも快感。DCTにも負けず劣らずのタイトな伝達感が特徴の8速ATの仕上がりも、そんなごきげんなテイストに拍車を掛けてくれる。
Sクーペにそうした感動を覚えながら、今度はRクーペへと乗り換える。と、「やっぱりさらなる上モノはこちらかな」と、多くの人は、きっとそんな感覚に瞬時にやられてしまうことになるはずだ。
当然ながら、スタートの瞬間からさらにパワフル。その上で、緻密なパワーフィールと、より自然でありつつもさらなる迫力のサウンドが耳に届くこちらの動力性能は、もはや理屈抜きの官能度の高さ。いかにも珠玉の逸品というテイストがたっぷりだ。
こちらは0-100km/h加速タイムがわずかに4.2秒と、日常シーンの中でとても頻繁に使えるものではない。確かに、過剰といえば何とも過剰な速さ。けれども、そんなあり余るゆとりに裏打ちされた感覚が比類なくゴージャスなテイストへと繋がっているのも、またまちがいないものだ。
Jaguar F-Type Coupe│ジャガー Fタイプ クーペ
クーペモデルならではの流麗さ
国内試乗、ジャガー Fタイプ クーペ (5)
いまのジャガーというブランド
SとRという今回採り上げた2台のクーペは、いずれも電子制御式の可変減衰力ダンパーを標準で採用。それもあり、前者が19インチ、後者は20インチという大径でファットなシューズを履くにもかかわらず、実はコンベンショナルなダンパーを採用するベースグレードよりも、乗り味はむしろしなやかだ。
ハンドリングの感覚は、まさに典型的なスポーツカーらしい俊敏さがまずは印象的。比較をすると、「よりコンパクトな心臓」をエンジンルーム内の後ろ寄りに”フロントミッドシップ”と搭載するSグレードの方が、ステアリング切り始めのノーズの動きがわずかに軽快。とはいえ、Rグレードでも決して文鎮を振り回すような重さを意識させられるわけではない。
いかにも良くできたFRスポーツモデルらしく、コーナリング時の積極的なアクセルONで後輪の流れをコントロールしながら進んで行けるという感覚も、腕の立つひとにはたまらない快感であるはず。500psを遥かに超えるモンスター級パワーを発する8気筒エンジンを搭載しつつ、これほどまでに色濃い“人とクルマの一体感”味わえるという点に、Rグレードの走りのレベルの高さが集約されている。
恐らく、「何もジャガーがここまでピュアなスポーツカーを追い求めなくても」という声もあるだろう。「自分は、ジェントルなサルーンを手掛けていた頃のジャガーこそが好きだった」という人も、少なからず存在するにちがいない。
けれども、そうした声が上がるのを承知の上で、自ら変革への道を歩みはじめたのが、いまのジャガーというブランドなのだ。ドイツ勢とはまた異なる、独自のプレミアムブランドを模索するジャガーの生き方を、自分は大いに支持したいとおもう。
Jaguar F-Type Coupe│ジャガー Fタイプ クーペ
ボディサイズ│全長 4,470 × 全幅 1,925 × 全高 1315 mm
ホイールベース│2,620 mm
最小回転半径│5.2 m
エンジン│2,994 cc V型6気筒 DOHCスーパーチャージド
最高出力│250 kW(340 ps)/6,500 rpm
最大トルク│450 Nm/3,500 rpm
圧縮比│10.5:1
トランスミッション│8段オートマチック
重量│1,730 kg
0-100km/h加速│5.3 秒
タンク容量│72 リットル
価格│823 万円
Jaguar F-Type S Coupe│ジャガー Fタイプ S クーペ
ボディサイズ│全長 4,470 × 全幅 1,925 × 全高 1315 mm
ホイールベース│2,620 mm
最小回転半径│5.2 m
エンジン│2,994 cc V型6気筒 DOHC スーパーチャージド
最高出力│280 kW(380 ps)/6,500 rpm
最大トルク│460 Nm/3,500 rpm
圧縮比│10.5:1
トランスミッション│8段オートマチック
0-100km/h加速│4.9 秒
タンク容量│72リットル
価格│1,029 万円
Jaguar F-Type R Coupe│ジャガー Fタイプ R クーペ
ボディサイズ│全長 4,470 × 全幅 1,925 × 全高 1315 mm
ホイールベース│2,620 mm
最小回転半径│5.2 m
エンジン│4,999 cc V型8気筒 DOHC スーパーチャージド
最高出力│495 kW(550 ps)/6,500 rpm
最大トルク│680 Nm/2,500-5,500 rpm
圧縮比│9.5:1
トランスミッション│8段オートマチック
0-100km/h加速│4.2 秒
タンク容量│70 リットル
価格│1,286 万円