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IMPRESSION
2022年11月4日
フェラーリ296GTSにイタリアで試乗──クルマを操る純粋な喜びをとことん味わわせてくれる|Ferrari
ドライバーをこれでもかとばかりに高揚させる「ピッコロV12」
アウトストラーダを下り、穏やかな傾斜のカントリーロードをしばらく上ると、徐々に景色が開けてきた。「世界一美しいレース」と称されたミッレミリアのメインステージを飾るだけあり、フータ峠からラティコーザ峠へといたるルートには、幾重にも連なる山々の稜線を遠方に望む、雄大な景色が広がる。フロントスクリーン越しに壮観な光景を楽しみながら、右へ左へと続くさまざまな曲率のコーナーを駆け抜けていく。ここでの296GTSは、まさに水を得た魚である。
まずV6ツインターボ+1モーターのパワーユニットが素晴らしい。峠道ではeマネッティーノをクオリファイにセレクトしたのだが、先ほどまでのハイブリッド・モードとは打って変わって、完全にエンジンが主役、モーターが脇役に徹し、最大のパフォーマンスを発揮しようとする。
コーナーの出口でアクセルペダルをフロアまで踏み込むと、V6ツインターボはそれこそ息が止まるほど強烈な加速Gを発生させながら、一瞬にしてレブリミットの8,500rpmまで吹け上がる。回転数の上昇にシンクロするように強まる甲高いサウンドも刺激的で、ドライバーをこれでもかとばかりに高揚させるのだ。
「我々は開発の初期段階から、このV6エンジンをピッコロ(小さな)V12という愛称で呼んできました」。V6パワートレーンのプロジェクトリーダーであるアッティリオ・ピエトローニ氏はブリーフィングでそう語ったが、実際にこのサウンドを体験すると、彼の言葉に心からうなずける。
実はこれには、120度という広いVバンク角が寄与しているという。このバンク角を採用することで6つのシリンダーの等間隔爆発が可能となり、自然吸気V12エンジンのごとき高周波のサウンドを実現できたのだと、ピエトロー二氏は付け加えた。
フェラーリのエンジニア陣はこのV6ユニットが発するカンツォーネをドライバーに最大限に堪能してもらおうと、ある装置を開発した。「ホットチューブ」と呼ばれるそれは、導管と共振器からなる、ちょうど医者の聴診器のようなもので、オープン、クローズいずれの状態でも最高のハーモニーがキャビンに届くようチューニングしているという。
「モーターのアシストにより、ターボエンジンでありながら自然吸気エンジンと較べても全く遜色がないアクセルレスポンスを実現しています」。ビークルダイナミクス担当エンジニアのアンドレア・ジャコミーニ氏はそう語ったが、確かにアクセルペダルを操作する右足の動きと直結しているがごとき鋭い加速には、モーターが大きな役割を果たしているのだろう。
特筆すべきは、ドライバーがあくまでスーパーレスポンスを誇るハイパワーな内燃機関を操っていると感じられること。こうしたシーンでの電気モーターの脇役ぶりには、ホント感心させられるのだ。