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2021年10月1日
まさに天国に行くような気分にしてくれるスーパーカー──フェラーリ史上最強のロードカー「SF90」に試乗|Ferrari
Ferrari SF90 Stradale|フェラーリSF90ストラダーレ
フェラーリ史上最強のロードカー「SF90」に試乗
スクーデリアフェラーリ90周年の記念モデルとして2019年にデビューした、フェラーリ史上最強のロードカーと歌われるSF90ストラダーレ。フェラーリ史上初となる量産型PHEVでもある同車に試乗した。
Text by OGAWA Fumio|Photographs by ATSUKI Kawano
なにをおいても審美性の高いスタイリングがまず魅力的
2021年夏、売れ行き絶好調というフェラーリ。2019年5月に発表された「SF90ストラダーレ」に、21年9月にようやく乗れた。なるほど、これもまた、フェラーリ人気を支える強力な魅力をもったモデル、と感心させられた。


SF90の最大の特徴は、プラグインハイブリッドであること、それにもう一つ、フェラーリ初の4WDシステムを備えていることだ。モーターを前後に搭載して積極的に使用。前輪はモーターで駆動される。
欧州ではいよいよ化石燃料を使うクルマへの規制が厳しくなっている。走行できない市街地区域や、高額の税金など、不利な条件が積み重なっていくだろう。フェラーリを所有する人なら、税金もあまり問題にならないかもしれない。しかしフェラーリというメーカーのイメージにとって、環境対策に積極的でないとマイナスが大きい。プラグインハイブリッドが生まれた、もう一つの背景だ。


難しいことを言うまえに、直感的にSF90の魅力を語るとしたら、なにをおいても、審美性の高いスタイリングだろう。思い出すのは、かつて、フェラーリがテスタロッサや348を出していた1980年代。大きなルーバーを切ったボディなど大胆なデザイン要素が多用されていて、はたしてフェラーリがつくるモデルはスタイリッシュなんだろうか、という議論があった。
あるイタリア人の自動車デザイナーは、こう言った。「フェラーリは自分たちがスポーツカーと同義という自負があるから、どんな形のモデルを出しても“正しい”のだ」。トレンドを気にするのは、二番手のやること、と明快な意見だったのを、よく覚えている。



SF90はそんなフェラーリにしては、審美性が高い。ローマほどではないにせよ、エレガンスもあればスポーティネスもあり、たいていの人が、その姿を見たときに、いいねえ、と言うだろう。その意味では万人向けのプロダクトだ。
うんと低く、上から見たときはV字型の鋭いノーズ。前のほうに位置するキャビン。その後ろにとてつもないパワートレインが収まっているのを示唆するボリュウム感たっぷりのリア。それにエアインテークやエアロパーツの数かず。高速道路を走っていたら、隣の車線のプリウスの乗員に写真を撮られた。やっぱり、誰がみてもカッコいいと思うのだろう。



昨今は、ランボルギーニやポルシェだけでなく、マクラーレンなど、強力なライバルが、個性的なスタイリングとともに存在感を主張している。フェラーリは、そうなると、やっぱり古典的ともいえる美に還るのだろうか。細部は大変凝っていて、質感が高いのも、フェラーリファンを喜ばせてくれる点だ。
V8エンジンと3基のモーターのハイブリッドシステムは合計で1,000馬力
万人向けではないのは、走行性能だ。専用設計の3990ccV型8気筒に、前に2つ、後ろに1つで、計3基の電気モーターを組み合わせたプラグインハイブリッドシステムのおかげで、あらゆる速度域で速い。やや重めのアクセルペダルを軽く踏み込んだとたんに、猛烈なダッシュを味わわせてくれる。


ハイブリッドモードを選択していると、だいたい25kmほどモーターだけで走る。EVモードで走るのは、不思議な気分だ。エンジンがボディをまとっているようなフェラーリが、モーターと冷却系が発する高音のみで、滑るように走っていくのだ。
駆動用バッテリーが空っぽになると、エンジンが始動する。このときの音は、フェラーリにしては意外なほど控えめ。騒音規制のせいだろう。それでも回転を上げていくと、トルクがぐんぐん積み増されていく加速感で、天国に行くような気分にしてくれる。


エンジンの最高出力は574kW、モーターは217kWと数字をみてもパワフルぶりが分かる。2つの、異なるパワーソースの出力を合算して、イタリア馬力に換算すると、1000馬力(cv)というのが驚く。
日本の現地法人であるフェラーリジャパンの広報室では、任意で操作するドライブモードセレクターで、走り出しは、エンジントルクに制限が設けられる「ウェット」モードで、なんて言う。もちろんそれでも十分すぎるほど速い。



このクルマのデザインの妙は、単にアウタースキン(ボディ外皮)の問題ではない。好例がエンジンルーム。大きなエンジンが、底のほうに沈んだようにフレームに取り付けられているのが見える。低い位置に搭載したのは、重心髙を低くして操縦安定性をより高めるため。フライホイールを小型化するなどして搭載位置を低くできた、とフェラーリでは説明している。
さらにボディ後端には「シャットオフガーニー」なる画期的な空力付加物が装備された。電動で角度を変え、車体上面の空気の流れを操作して、車体を地面に押しつけ安定性を高めるダウンフォースを生む働きを持つ。
車体各所には、ハイブリッドシステムを冷却するための空気を取り入れるための孔が空いているし、ブレーキキャリパーの形状も効果的にブレーキを冷却するための空力的なものなのだそう。実際に高速での安定感は半端なく、空力ボディの恩恵がしっかり感じられるのだった。
オールマイティぶりに感心させられた
感心したのは、SF90ストラダーレのオールマイティぶりだ。ゆっくり(と感じられる)と流れる軽い渋滞中の高速道路でも、東京の中心部の一般道でも、ぎくしゃくした挙動は一切ない。



乗ったモデルには「アセットフィオラノ」なるサーキット走行のためのパッケージが装備されていた。「 マルチマチック・ショックアブゾーバー」と呼ばれる専用のスポーツダンパーをはじめ、リアスポイラー、炭素樹脂に置換されたドアパネルとアンダーボディ、チタンのスプリングとエグゾーストライン、それに、やはり専用開発のミシュラン「パイロット・スポーツ・カップ2」などで構成される。



もちろん、やや乗り心地は硬いものの、我慢できないほどではない。つねに、フレキシブルなのだ。たとえば、東京から大阪までのロングツーリングなどお手のものだろう。でもまあ、サーキットで走ったらさぞかし楽しいだろう。



そういう“夢”を見させてくれるクルマだ。価格は5340万円から。オプションもたくさん用意されている。この価格帯でも「問合せがひきもきらない」(広報室)というのだから、あらためて驚かされる。
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