日本人による日本のクルマ トヨタ クラウンに試乗|Toyota
Toyota Crown|トヨタ クラウン
日本がつくった日本のクルマ
クラウンに試乗
「いまこの国にたりないものは変わる力だ」として変化を前面に押し出す、あらたなるクラウン。このクルマには、輸入車にはない、日本車ならではの世界観がある。かつて、日本のモータリゼーションに、重大な変化をもたらしたクラウン。その最新モデルを日本車の代表として、OPENERSはクラウンに注目する。
Text by OGAWA Fumio
Photographs by ARAKAWA Masayuki
ハイブリッド大好評
トヨタの新型「クラウン」の、もっとも売れ線がハイブリッド。昨今は欧州製高級車にも多くみられるようになったハイブリッドだが、いちはやくハイブリッドに取り組んできたトヨタ自動車の看板車種、軽やかな走りが印象に残るものだった。
そもそも、新型クラウンは販売好調。トヨタの発表によると、2012年12月25日の発売から、13年1月29日までの受注台数は25,000台。月販目標4,000台の6倍強にあたる。その中核をなすハイブリッドモデルで、クラウン全モデル中、約66パーセントを占めるそうだ。
大型セダンは、ドイツ車が得意とする分野だが、開発担当者は「日本においては、サイズといい、ハンドリングといい、クラウンがもっとも扱いやすいクルマであることを理解してほしい」と語る。
その言葉どおり、必要以上に大きくない全幅といい、切れ角の大きなハンドルといい、想像以上にコンパクトな操縦感覚だ。ここは依然として、輸入車にたいするアドバンテージだ。
もうひとつの大きな魅力は価格。新型「クラウン ハイブリッド」は410万円からという値づけとなっている。
輸入車でみると、メルセデスなら「Cクラス」ではもっともベーシックグレードの「C 180 BlueEFFICIENCY」(399万円)と匹敵、BMWだと「3シリーズ」のベーシックグレードの「320i」の6MTモデル(439万円)より低い。くわえて市街地ではとくに好燃費なのだから、クラウンが売れ、そしてハイブリッドがその約7割を占める昨今の状況も、理解できる気がする。
Toyota Crown|トヨタ クラウン
日本がつくった日本のクルマ
クラウンに試乗(2)
ハイブリッド アスリートGの仕上がりやいかに?
試乗したのは、「アスリートG」のハイブリッドだ(543万円)。まず感心するのは、電気モーターのみのEVモード時の力強さだ。平坦な道ならば、だいたい時速50km/hまではEVモードで走行できる。そのあとエンジンが始動するのはメーターでわかるが、体感的にはややもすると、気づかないかもしれない。
「課題はふたつありました」と語るのは、トヨタの開発担当エンジニアだ。「ひとつは、バランスよく回るV6にかわり、直列4気筒アトキンソンサイクル エンジンを採用したことで同等のスムーズさを実現すること。もうひとつは、EVモードからエンジン始動への移行をできるだけ自然におこなうようにすることです」
その言葉のとおり、クラウン ハイブリッドは、きわめてナチュラルな運転感覚をもつ。ごく低回転域から電気モーター特有のトルクが出て、そのまま加速をつづけると、それがごく低振動で始動した2.5リッターエンジンにバトンを渡すように運転モードが切り替わる。さきに書いたように、平坦な道でアクセルペダルを少々ていねいに操作していれば、だいたい50km/hまでEVモードで走れ、バッテリー残量が規定より減るまでは、電気自動車である。
プリウスよりはるかに自然な感覚で、「THS-II」というトヨタ独自のハイブリッドの技術的進歩が感じられる。これなら、エンジンをもっと小さくして電気モーターがカバーする領域を拡大した、いわゆるレンジエクステンダー的なハイブリッドまで進化させていいようにおもわれた。
しかしトヨタのエンジニアは、「ニッカド電池を使いながら、できるだけ量を少なくして(さらに搭載位置を工夫して)ハンドリング性能の向上を目指すのも命題だった」と語るように、3割しかないとはいえ、ガソリンエンジンも持つクラウンは、トヨタの旗艦として、走る・曲がる・止まる、というすべての面で高みを目指さなくてはならなかったのだろう。ここにエンジニアの血がにじむような努力があったはずだ。
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クラウンに試乗(3)
あくまで運転者に忠実なハンドリング
カーブを曲がるときは、中立ふきんでのいくぶんダルなかんじとは裏腹に、ハンドルを切り込むと車両はすっと素直に内側のノーズを軽く沈ませ、同時に大きな安定感をもって、カーブの出口まで突き進む。姿勢はフラットで、なんとなくBMWを連想させるような気持ちよさがある。
僕は今回のクラウンシリーズは、2.5リッターV6のロイヤルサルーン系も、3.5リッターV6のアスリート系も、走りを好ましくおもっているのだが、ハイブリッドにも、期待以上の楽しさを感じることができた。
パーシャルといって、走行中の加速も力強く、要するにドライバーの意思にかなり忠実に走らせることができる。
ドイツ車のなかには初期ロールをあえて大きくすることでコーナーの進入速度を落とさせたり、セッティングを通してドライバーにメッセージを送るものもあるが、クラウンはあくまで運転者に忠実。
なんとなくそれが物足りなくおもうひともいるかもしれないが、いいコミュニケーションはとれるとおもう。
走行中の騒音は比較的静か。電気モーター冷却のための空気取り入れ口をあえて左右に設けることで侵入音の低減をはかるなど、あらゆるところで努力をしているようだが、それでも心なしか、ガソリン車のほうが音が低いようにおもえる。それでも「大きい」とか「耳障り」とおもえるものではない。
Toyota Crown|トヨタ クラウン
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クラウンに試乗(4)
ハイブリッド以外も魅力的だ
今回で14代目になる新型クラウンのラインナップは、大きくいうと、ロイヤルシリーズとアスリートシリーズの2本立てとなる。
ロイヤルシリーズには、「ロイヤル」「ロイヤルサルーン」「ロイヤルサルーンi-FOUR」そしてハイブリッドが含まれる。エンジンは、ハイブリッド以外は、2.5リッターV6となる。
いっぽうアスリートシリーズは、2.5リッターV6搭載の「アスリート」および「アスリートi-FOUR」、くわえて、3.5リッターV6搭載「アスリートS」および「同G」、それに、ハイブリッドという構成だ。
ハイブリッドがよくできていることは書いたとおりだが、もし、本当に14代目クラウンの真価を味わおうとおもったら、おすすめは3.5リッターエンジン搭載のアスリートだ。ひとことでいうと、気持ちがいい。
「燃費のことなんか気にしないでクルマを楽しみたいとおもうひとのためにつくった」と開発エンジニアが断言してしまうほどで、ガソリンエンジンのもつ爆発力、車両のコントロール性、そしてスポーティさとコンフォートさの両立、すべてで成功しているとおもう。497万円するが、これを高いとみるか安いとみるか、微妙な問題である。
先代もよくできているとおもっていたが、今回はますます操縦する楽しさが強く味わえるようになった。
難をいえば、フロントマスクがどぎつく、いったいトヨタはクラウンをどうしようとしているのか、まったく分からないことと、ファブリックシートの表皮が動物の置物のようで国際的な美的センスの欠如(ウッドパネルも西陣織のネクタイみたいな感覚)を感じさせることだ。これは惜しい。惜しいなあ。
Toyota Crowb Hybrid Athlete G|トヨタ クラウン ハイブリッド アスリート G
ボディサイズ|全長4,895×全幅1,800×全高1,450mm
ホイールベース|2,850 mm
トレッド 前/後|1,545 / 1,545 mm
最低地上高|135 mm
重量|1,680 kg
エンジン|2,493cc 直列4気筒 直噴DOHC (D4-S)
最高出力| 131kW(178ps)/ 6,000 rpm
最大トルク|221Nm(22.5kgm)/ 4,200-4,800 rpm
モーター出力|105kW(143ps)
モータートルク|300Nm(30.6kgm)
システム最高出力|162kW(220ps)
トランスミッション|電気式無段変速機
駆動方式|FR
タイヤ|215/55R17
燃費(JC08モード)|23.2 km/ℓ
価格|543万円