新型アストンマーティン ヴァンテージに試乗|Aston Martin
Aston Martin Vantage|アストンマーティン ヴァンテージ
新型アストンマーティン ヴァンテージに試乗
アストンマーティンのラインナップ中、スポーツカーに位置づけられる「ヴァンテージ」。同モデルが、最新世代に生まれかわった。ポルトガル西部、アルガルヴェ サーキットで開催された国際試乗会より、モータージャーナリストの大谷達也氏がリポートする。
Text by OTANI Tatsuya
サーキットで20分間連続走行してもブレーキは音を上げない
ポルトガル西部に位置するチャレンジングなレーシングコース、アルガルヴェ サーキット。その、大きく右に曲がり込みながら下っていく最終コーナーに135km/hでアプローチすると、下り勾配が一段ときつくなるところでテールが瞬間的に流れた。
もっとも、リアタイヤの接地性は十分に感じられるし、スライドするのも一瞬だけなので、ほとんどカウンターステアをあてることなく、そのままクリッピングポイントをクリア。ゆるやかに加速しながらメインストレートに進入する。
全長1km近いストレートを、アストンマーティンの新型「ヴァンテージ」は空気の壁を切り裂くようにして駆け抜けていく。5速から6速、そして7速へ。スピードメーターの表示も230km/h台から240km/h台へと移り変わるが、さすがに250km/hに迫ると加速が鈍り始める。
1コーナーにアプローチする下り勾配で253km/hを確認。ここで全体重をのせてブレーキペダルを踏み込む。これまで20分近く連続走行してきたせいでさすがにペダルフィールは若干ソフトになっているが、それでもABSが作動しているのだからタイヤの能力をフルに引き出して減速していることは間違いない。
その感覚は、ステアリング越しに伝わるフロントタイヤの接地感からも十分に把握できる。
比較的タイトな1コーナーをクリアすると、2コーナーはほとんどフルスロットルのまま通過し、なるべく勢いを殺さないようにしながら登り勾配の3コーナーにアプローチ。
私が操るヴァンテージは、こうしてまた新たなるアタックラップを開始したのである。
新世代テクノロジーを用いた第二作目のモデル
ヴァンテージはアストンマーティンの主力3モデルのなかでスポーツカーに位置づけられる。残る2モデルはGTカーの「DB」シリーズとスーパースポーツカーの「ヴァンキッシュ」(次世代のヴァンキッシュは伝統のネーミングであるDBSを用いることが先ごろ発表された)。
ラグジュアリーなハイパフォーマンスカーをごく少量、手作りするアストンマーティンは、ひとつのボディ構造をベースにしながら、さまざまなスペックのエンジンやサスペンションを組み合わせ、インテリアのグレードやシートの数をアレンジすることで、いくつものキャラクターを生み出してきた。
その基本となる技術はおよそ10年に一度のサイクルでリニューアルされるが、2016年にデビューした「DB11」で新しいボディ構造とエンジンラインナップが登場。今回リリースされたヴァンテージは、この新世代テクノロジーを用いた第二作目となる。
ただし、ロングクルージングに主眼を置いたDB11とコーナリングを楽しむために生まれたヴァンテージとでは、クルマ作りも自ずと異なってくる。
DB11では、余裕ある走りを実現するためのパワフルなエンジン、長距離を走破しても疲れにくい快適性、ちょっとした荷物やジャケットを放り込むのに便利な“プラス2”と呼ばれるコンパクトなリアシートの存在などが重要となる。
Aston Martin Vantage|アストンマーティン ヴァンテージ
新型アストンマーティン ヴァンテージに試乗 (2)
ダイナミックな走りを優先したスペック
いっぽう、ピュアな走りが求められるヴァンテージでは快適性に対する優先順位は高くなく、後席は不要。搭載されるエンジンは、パワーもさることながら適切な重量バランスを実現するために軽量コンパクトであることが求められる。
そこで新型ヴァンテージでは、シートレイアウトをDB11の2+2から純粋な2シーターに変更。DB11ではリアサブフレームとボディのあいだにゴムブッシュを介在させていたが、ヴァンテージではこれを廃することでより正確なハンドリングを追求。
エンジンは、主力のV12 5.2リッターに加えてV8 4.0リッターの2タイプを用意するDB11に対して、軽量コンパクトを優先してV8 4.0リッター一本に絞った。
いずれもダイナミックな走りを優先したスペックであることは明らか。
おかげで、アルガルヴェ サーキットでは冒頭で述べたようなスポーツドライビングを堪能できたというわけである。
スポーツカーとしての位置づけがより明確に
もっとも、だからといって公道での走りがガマンできないほど不快であったなら、ロードゴーイング スポーツカーとしては失格である。
しかし、リアサブフレームのゴムブッシュを省略したことでロードノイズ(走行時にタイヤが発生する騒音)はいくぶん増えたものの、これも過大といえるレベルではなく、乗り心地はいくぶん硬くなってもボディの減衰性が高まったおかげで一度発生した振動も素早く収束するため、決して不快には思えなかった。
いっぽうで、同じくゴムブッシュを廃した影響でタイヤの位置決めが正確になり、その副産物としてうねりのある路面での直進性がむしろ向上。その意味ではロングクルージング時に感じる肉体的疲労はむしろ低減された。
したがって、例えば都内に住むヴァンキッシュオーナーが早朝、自宅を出発して箱根と伊豆でスポーツドライビングを満喫。その後、自宅までゆったり流すというような日帰りドライブでも余裕でこなしてくれるはずだ。
気になるスタイリングは、DB11同様、未来的でエッジが効いたデザインながら、DB11よりむしろシンプルな造形に仕上げることでピュアな走りと機能性を視覚的に強調。