新型カイエンに試乗|Porsche
Porsche Cayenne|ポルシェ カイエン
ウィークポイントが見当たらない
2017年8月にフルモデルチェンジを受け、東京モーターショー2017でジャパンプレミアを果たした3代目「カイエン」。ポルシェ初のSUVとして登場し、今や同社の屋台骨となった重要なモデルの最新型に、モータージャーナリスト、金子浩久氏が試乗した。
Text by KANEKO Hirohisa
2代目のイメージを継承したフロントと、大きく変わったリア
ポルシェ「カイエン」がフルモデルチェンジして、3代目に生まれ変わった。ひと足先にヨーロッパ仕様をギリシアのクレタ島で試乗してきたので、その様子を報告したい。
3代目となっても、ひと目見てカイエンと分かるほどシルエットは2代目と見分けがつきにくい。フロントグリルやヘッドライト周辺の造形も極力2代目のイメージを継承しようとしている。
しかし、リアスタイルは大きく変わった。先にフルモデルチェンジを受けた「パナメーラ」のような横一線のガーニッシュとテールライトユニットが特徴になっている。3代目は、後ろから見ると一目瞭然だ。
ドアを開けてドライバーズシートに座ってインテリアを眺め回しても、パナメーラの影響は大きい。2代目ではセンターコンソールのシフトレバーの両脇にたくさん並んでいたボタンやスイッチ類がキレイにタッチパネル化されている。また、多くの操作がボイスコントロールによって行われるようになったのもパナメーラに準じている。
ポルシェに限ったことではないけれども、現代のクルマは多機能化が著しい勢いで進んでいて、装備されるデバイスも増えている。それらをどのように整理整頓するのかが各社の開発陣の腕の見せどころになっている。タッチパネルもボイスコントロールも共通の解決策なのだが、ボルボやランドローバー、テスラのように極限までボタンやスイッチ類を減らす急進派もいる一方で、ポルシェは慎重派に入るだろう。僕らにとって切実なのは日本語の音声入力のクオリティなのだが、3代目カイエンは正確で素早く、他メーカーと変わらぬ最新レベルにあることが確認できた。
Porsche Cayenne|ポルシェ カイエン
ウィークポイントが見当たらない (2)
プラグインハイブリッドとディーゼルは遅れて登場
今回発表された新型カイエンは3モデル。スタンダードの「カイエン」、高性能版の「カイエンS」、超高性能版の「カイエン ターボ」だ。
それぞれ違ったエンジンが搭載されている。カイエンには3リッターV6 ターボ、カイエンSには2.9リッターV6 ツインターボ、カイエン ターボには4リッター ツインターボだ。
全モデルに、「ティプトロニックS」8段AT(トルクコンバータータイプ)のトランスミッションが組み合わされ、4輪を駆動。
「2代目から大きく進化させたプラグインハイブリッドモデルと2代目に設定されていたディーゼルの進化版が今後、追加されます」
開発エンジニア氏は、今後のラインナップ拡充の予定を認めていた。
クレタ島の一般道に新型カイエンで走り出してみると、スポーティな運転感覚が研ぎ澄まされていることがすぐに分かった。フルモデルチェンジに際して非常に多くの改変が盛り込まれたカイエンだが、“カイエンらしさ”をすぐに体感できた。
カッチリとした剛性感たっぷりのシャシーに、引き締められたサスペンションの組み合わせはスポーツカーを運転しているようだ。ステアリングホイールの手応えもシャープかつ精妙で、大きなSUVボディを正確に導いていく。
前後でサイズの異なるサイズのタイヤを装着していたり、4WS(4輪操舵)を標準装備している効能が明確に現れている。先代以上にシャシーやボディにアルミ材を多用して軽量化したことも効いているだろう。運転操作を受けたクルマの動きにあいまいなところがない。
Porsche Cayenne|ポルシェ カイエン
ウィークポイントが見当たらない (3)
カイエン ターボは別格
カイエンの最高出力は340psなのに対して、ターボチャージャーを2つ装備して440psを発生しているカイエンSとの違いが気になるところだが、空いた一般道を走った限りでは、速さの体感的な違いを感じ取ることは難しかった。
明らかに違うのは、サウンドと加速感のなめらかさだ。カイエンに対して、カイエンSのエンジンサウンドはアクセルペダルを踏み込んでいった時の響き方がキメ細かく、パワーの出方がなめらかだ。
日本仕様の価格もすでに発表されていて、カイエンの976万円に対して、カイエンSは1,288万円と300万円以上高い。最も大きな違いは、サウンドと加速感のなめらかさにある。カイエンでも十分以上の速さを持っているが、加速時の情緒面での違いが価格差の大半を占めていた。
それに対して、カイエン ターボは別格だった。550psという最高出力がもたらす速さは猛獣のようで、それをコントロールするブレーキやサスペンション、シャシーなどもスペシャルだ。
エンジンサウンドは独特の響きと迫力を持ち、ホンの少しのアクセルペダルの踏み込みにもビビッドに反応する。それでいて、ノーマルモードでの乗り心地は優しくソフトだから、スローペースで流していても上質な乗り心地に満たされていく。
カイエンとカイエンSは比較対照してみる気になるが、カイエン ターボはそれらからはるかに独立したパフォーマンスと魅力を持っている。だから、価格だって1855万円とカイエンの倍近い。高価なだけのことはある。
今回は限られた状況でしかオフロード性能を試せなかったが、路面ごとに出力特性と駆動力配分を変化させる制御方式は先代モデルを発展させたものだから、十分以上の性能が確保されているだろう。
Porsche Cayenne|ポルシェ カイエン
ウィークポイントが見当たらない (4)
ポルシェといえども、クルマの知能化に取り組む時代が訪れた
運転支援デバイスとコネクティビティの拡充も先行したパナメーラ譲りだ。荷物の積載量も先代より100リッター増えていて、総合的に判断してウィークポイントが見当たらない仕上がりだった。先代からのカイエンらしさを引き継ぎ、そこに矛盾なく新たな価値を加えることに成功している。あらためて、日本仕様に早く乗ってみたい。
また、高速道路や自動車専用道を走ることができなかったので、運転支援デバイスを試す距離も短かった。この点も、次の機会に試してみたいところだ。
先代までのカイエンオーナーならば、新型を魅力的に感じるだろう。SUVでありながら「911」や「ボクスター」などを彷彿とさせるスポーティな運転感が備わり、実用性も高いというカイエンの美点を新型は余すことなく継承しているからだ。
そして、カイエンに乗ったことのない人にも、ポルシェブランドに期待するものを新型カイエンは具現している。
どちらの人々にも新たな価値となっているのは、アクティブクルーズコントロール(ACC)やレーンキーピングアシスト(LKAS)などの運転支援デバイス、LEDヘッドライトなどが標準装備されたのは大きな魅力だろう。
すでに、スポーツカー系の911やボクスター、ケイマンなどにも標準装備されている「ポルシェ・コミュニケーションマネージメントシステム」(PCM)はインターネットへの常時接続を実現し、それも新型カイエンは標準装備している。つまり、ポルシェといえども、クルマの知能化に積極的に取り組む時代が訪れたのだ。
先代以前のカイエンの魅力を発展させ、そこに知能化という新しい価値を盛り込み、今やポルシェ社の大黒柱に発展した新型カイエンは万全の構えを見せていた。
初代はポルシェ初のSUVとして、初の4ドア車として、初の非スポーツカーとして、気合いが入った力作で、今日のSUV像の原点を構築した。2代目は副変速機を省いて軽量化を施し、ややオンロードユースに軸足を寄せつつ、プラグインハイブリッド版も追加した。3代目は2代目を継承しつつ、現代のクルマとして抜かりなく運転支援とコネクティビティを標準装備して、安全性と自動化に務めている。日本仕様の導入は2018年中頃が予定されている。
ポルシェ カスタマーケアセンター
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