マセラティ初のSUV、レヴァンテに試乗|MASERATI
MASERATI Levante|マセラティ レヴァンテ
マセラティ初のSUV、レヴァンテに試乗
ぜいたくで少しセンシュアル
マセラティが満を持してリリースした初のSUV「レヴァンテ」。2016年秋のデリバリーを前に小川フミオ氏がイタリアで試乗した。
Text by OGAWA Fumio
ラインナップは3リッターV6ガソリン2タイプとディーゼルの計3種類
マセラティ史上初のSUV、「レヴァンテ」。2016年秋のデリバリーを前に、さっそく本国で乗る機会に恵まれた。ラインナップは、350psの3リッターV6搭載の「レヴァンテ」、同じエンジンながら430psにチューンナップされた「レヴァンテS」、そして遅れて3リッターV6ディーゼルの「レヴァンテ ディーゼル」が加わることになっている。うち2台のガソリンモデルを試すことができた。
レヴァンテの試乗会場は北イタリアのリゾート、ガルダ湖畔。南北52kmに及ぶイタリアで最も広い面積を持つ湖であり、氷河湖である。急峻な山の合間に水が広くたまったという風情で、荒々しい景観もまた多くの人に愛される理由となっている。歴史ある建物も多く、創業100年を超えるマセラティとも響き合う土地といえる。
レヴァンテは既報のとおり、「ギブリ Q4」をベースに開発されたSUVだ。マセラティではQ4と呼ぶフルタイム4WDシステム(マセラティではAWDと呼ぶ)が全車に搭載されている。レヴァンテならではの特徴として、前後のトルク配分がSUVを意識したものとなっていることと、車高が可変の電子制御式の可変ダンパーが備わっていることがあげられる。オフロードもこなすために車高が上げられるし、いっぽうオンロードでは重心高を下げられるのだ。
「マセラティが作るからには、ありきたりのクロスカントリー型SUVにしたくありませんでした」。そう語るのは、試乗会に姿を見せたマセラティのデザインディレクター、マルコ・テンコーネ氏だ。クーペ的なスタイルで、スポーティさとエレガンスを強調しているのがレヴァンテ。ライバルと目しているポルシェ「カイエン」などと一線を画している点だ。
「BMWでいえば、「X5」と「X6」のあいだに位置する立ち位置でしょうか。求められていたけれど、実際のモデルが存在しなかった独自のポジションも魅力に映るはず」。広報担当者が言葉を添えた。
「レヴァンテ」とは一種の風からとった名前という。走りはそのとおり気持ちのいいものだった。
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着座姿勢からしてスポーティ
マセラティ レヴァンテの試乗をしたガルダ湖は、先にも触れたように山に囲まれた地形だ。湖畔の道からちょっと逸れるとすぐに曲がりくねった山道になる。ラリーのジャンクションロードとしても使われている道もある。幅員は狭くて、とくに岩山を削ったトンネルでは対向車とすれ違うのにも神経をつかう。
レヴァンテSはひとことで言うと、活発で楽しい。5,003mm(欧州値)の全長を持つボディに搭載された2,979ccのV型6気筒エンジンは、430ps(316kW)の最高出力と、580Nmの最大トルクを発生する。これに対して同じ排気量ながらレヴァンテは350ps(257kW)。試乗会のときマセラティの人たちは「フォーサーティ(430)」「スリーフィフティ(350)」と馬力で2つのモデルを呼び分けていた。
レヴァンテSのいいところは、着座姿勢からしてスポーティだということだ。全高は1,679mmあるが、着座位置は高くなく見下ろすような感じはない。車高可変システム採用の理由についても「普段の走行時は重心高を下げて、スポーティなハンドリング性能を維持するため」と、開発総責任者のロベルト・コラーディ氏は教えてくれた。
ステアリングはマセラティにしてはややスローだけれど、SUVとしては(マセラティの狙いどおり)かなりクイック。しかも中心付近でも路面とのコンタクトがしっかりあるため、狭い道でのすれ違いも思い切って路肩にクルマを寄せられる。
車重は2,100kgほどなのだが、エンジンパワーは十分以上。最大トルクが1,175rpmから発生する設定ということもあり、走り出しから速くて、中間加速もかなり速い。四輪駆動のSUVを操縦しているよりスポーティなクーペに近いといえるほどだ。軽くアクセルペダルを踏んでいるだけで、急なカーブが連続する上りでも力不足を感じることはない。しかもその気になるとエンジンはよく回る。回転が上がっていくときのパワー感は「さすがマセラティ」と言いたくなるものだ。
日本では、レヴァンテSが1279万円であるのに対してレヴァンテが1,080万円。価格差を気にしない人にはレヴァンテSのスムーズな加速性を楽しんでもらいたい。
いっぽう350馬力のレヴァンテも負けていない。ターボチャージャーが作動する回転領域を恐らく下げているのと、8段ギアボックスの設定がトルクバンドをしっかり使うようになっているのだろう。かなり反応は速い。とりわけスポーツモードを選ぶと、スポーティSUVの面目躍如たるものを感じさせるのだ。
内外装ともに特別感が高いクルマ。それがレヴァンテだ。
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後席重視の使い方もムリなくできる
レヴァンテのスタイリングは、誰が見てもすぐにマセラティと分かるものだ。側面から見ると、ルーフには効果的なキャラクターラインが入れられているのに気づく。ルーフを薄く、かつリアウィンドウの角度を急に見せる視覚的効果を生んでいる。クーペ的な印象をうまく作っているのだ。側面でもう一つ眼につくのは、現在のマセラティ車のアイデンティティになっている3つのサイドベントだ。レヴァンテでは平行四辺形を思わせる輪郭によって、新しさも感じさせる。
新しいという点ではヘッドランプはLEDの使用を前提にした上下幅の薄い変型タイプ。これに縦バーとトライデントというマセラティ伝統のネプチューン(ギリシア神話ではポセイドン)の三叉の矛(ほこ)をかたどったブランドロゴが誇らしげに飾られている。縦バーは途中で折れ曲がったスタイルが採用されている。その理由として「あらゆる角度で光線を美しく反射するよう計算したため」と前出のデザインディラクター、テンコーネ氏は説明してくれたのだった。
インテリアはマセラティの魅力の一つ。レヴァンテでも変わっていない。前席は中央のセンターダッシュボードを比較的大きくすることで、左右の独立性を強くしていている。スポーツカーにとって重要なこと、とマセラティでは説明している。乗るとなるほど、ドライバーの仕事場という感じで悪くない。センターのモニターは多機能で、レヴァンテからさらにアプリケーションが一新されている。タッチコントロールと、シフトレバーの根本に備わった独自のダイヤル式コントローラーで操作する。使い勝手もいいが、日本仕様がどうなるかは未定のようだ。
レヴァンテS、レヴァンテともに室内は静かだ。エンジンまわりの音はスポーツモードを選ぶと甲高い乾いた排気音が聞こえるが、ノーマルモードはより快適性重視。ウィンドシールドやドアミラーやルーフ後端から発生する風切り音も、路面とタイヤの接触によるロードノイズも低く抑えられている。後席はヘッドルームもレッグルームも余裕があり、後席重視の使い方もムリなくできる。
マセラティではライバルとしてポルシェ カイエンを掲げて開発していたことを明らかにしている。カイエンはエンジンやハンドリングのバリエーションがより多いが、「まずは近いスペックスのV6モデルで対抗して、ゆくゆくはもっとスポーティなレヴァンテも投入していきたい」と開発総責任者のコラーディ氏は語る。よきライバルを持つと、僕たちファンが楽しくなる。ぜいたくで少しセンシュアルな雰囲気ではピカイチのレヴァンテ。マセラティには大きな武器になるだろう。