レクサス GS Fに試乗|LEXUS
LEXUS GS F|レクサス GS F
レクサス GS Fに試乗
今後のレクサスのあり方を象徴する1台
レクサスにおけるハイパフォーマンスモデルの証である「F」の名を冠し、2015年1月のデトロイトモーターショーでデビューした「GS F」。11月に日本でも発売された同車に、モータージャーナリスト大谷達也氏が富士スピードウェイで試乗した。
Text by OTANI TatsuyaPhotographs by ARAKAWA Masayuki
トヨタが変わったことでレクサスも大きく変貌しようとしている
はじめに厳しいことを書いてしまうと、これまでレクサスの走りに感心したことはあまりなかった。プレミアムブランドという割にボディ剛性はあまり高くなく、静粛性やハーシュネスの対処には長けていても足回りの設定は低速向きで、ステアリングフィールなどから運転している実感を得にくかった。だから「ちょっと高級なトヨタ車」という印象をどうしても拭いきれなかったのである。
そうしたなか、私にとって唯一の例外ともいえるモデルが2007年にデビューした「IS F」だった。富士スピードウェイの頭文字である“F”を冠したこのモデルは、BMW「3シリーズ」と同じDセグメント後輪駆動の「IS」にV8 5.0リッター エンジンを押し込んだハイパワーバージョンだが、ヨーロッパ生まれのライバルたちと遜色のないしっかりとしたボディと足回りが与えられていて、実に走り甲斐のあるモデルだった。
誤解のないように断っておくと、別にハイパフォーマンスだったからいいといっているのではない。ハイパフォーマンスであろうとなかろうと、ヨーロッパ車に負けないくらい高い志で走りを磨いていた。その心意気が、私の心を揺り動かしたのである。
同様の感慨を覚えた2番目のモデルは2014年デビューの「RC」と「RC F」。どちらもボディ剛性が高いうえに、しっかりと腰のあるサスペンションに仕上げられていて安心感が強い。また、この頃になると豊田章男社長が主張し続けてきた「いいクルマづくり」の具体的な成果がトヨタブランドの新型車にも見え始めていたので、RCとRC Fは同様の動きがレクサスにも起きていることを示唆するマイルストーン的モデルかもしれないと私なりに解釈していた。
新たに登場した「GS F」に試乗した今、その思いは確信に変わりつつある。トヨタが変わったことでレクサスも大きく変貌しようとしている。GS Fの完成度の高さは、その何よりの証拠だろう。
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レクサス GS Fに試乗
今後のレクサスのあり方を象徴する1台 (2)
中身がギッシリ詰まった缶詰
今回の試乗会は富士スピードウェイが舞台。しかも、サーキット内の周回路だけでなく本コースや場外の一般道での走行も許された。ただし、今回は時間の都合で一般道での試乗ができなかった。つまり、快適性などは周回路での印象がベースとなっていることをご承知おきいただきたい。
その快適性だが、デビューした当初の2代目「GS」よりもロードノイズが格段と小さく、高級感がさらに増したように感じられた。個人的にGSは2代目になってボディ剛性がぐんと高まったと受け止めていたが、喩えは悪いがどこか“空き缶”のような印象で、つまり強度はあるけれどサスペンションから入った振動がそのままボディに伝わってくるような感覚がつきまとった。
ところが、GS Fのデビューと同時にGS全体に実施されたマイナーチェンジの効果なのか、ロードノイズがボディを通じてガラガラと響くようなことがなくなり、ズシリと鈍く抑え込まれたかのような聞こえ方になった。それは、まるでボディが“空き缶”から「中身がギッシリ詰まった缶詰」に変わったと思えるほどの変貌振りだった。
乗り心地にも同様の変化が起きていた。GS Fは今回が初登場で、私が試乗したマイナーチェンジ前のGSはハイブリッドモデルの「GS450h」だったから直接の比較はできないものの、フロント=255/35R19、リア=275/35R19のミシュラン「パイロット スーパースポーツ」タイヤからのショックをしなやかに受け止めるには、ただボディが硬いだけではなく、ボディの振動を抑え込む制振性が不可欠だったはず。GS Fはこの点でも非常に優れていて、段差を乗り越えてもガツンという不快な衝撃が伝わってこない。振動をすっと受け止めて瞬時に抑え込む ―― 。そんな乗り心地に感じられたのだ。
続いて富士スピードウェイの本コースを走行する。路面は最初がチョイ濡れで、やがて乾いていったものの、GS Fはセダンボディとは思えないバランスのよさで低速コーナーから高速コーナーまでをクリアしていった。とりわけ印象的だったのが高速コーナーでの安定性。私は以前、同じ富士スピードウェイでRC Fを走らせた経験があるが、RC FよりもGS Fのほうが挙動が落ち着いていて安心感が強いように思われた。この点は、RC Fよりも120mm長いGS Fのホイールベースが威力を発揮しているのかもしれない。いっぽうで、Bコーナーのような低速コーナーでもアンダーステアは最小限。荷重移動をしっかり行い、ていねいな操舵とスロットル操作を心がければ、思いのほかコンパクトなコーナリングが可能だった。
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今後のレクサスのあり方を象徴する1台 (3)
絶妙な味付けのスタビリティ プログラム
サーキット走行で驚いたもうひとつのポイントがスタビリティ プログラム。今回はウェットコンディションだったこともあってスタビリティ プログラムをオフにすることは許されなかったが、それでもコーナー進入でテールをアウト側に振り出せたほか、そこからスロットル オンの状態を保てばテールアウトのままコーナーをクリアすることもできた。おそらく、この状態でもスタビリティ プログラムは介入していたのだろうが、エンジン出力を絞り込むわけでもなければブレーキを使ってリアのスリップアングルを打ち消そうとするわけでもなく、あくまでもドライバーがクルマをコントロールしているように感じさせる味付けは絶妙というしかない。このスタビリティ プログラムを用いてサーキット走行を繰り返せば、ドライバーの技量は確実に向上することだろう。
なお、RC FではオプションだったTVD(トルク ベクタリング ディファレンシャル)がGS Fでは標準装備とされたが、左右の駆動力をコントロールすることで姿勢を制御するこのシステムも、スロットルオンでオーバーステアを保ち続けるうえで見逃せない役割を果たしていたと推測される。
最高出力477psを発揮するV8 5.0リッターエンジンはアセンブルした後で1基ずつ回転バランスを計測し、修正ウェイトをクランクプーリーに追加してアンバランスを打ち消すという丁寧な作業が行われるだけあって、回り方は実にスムーズ。出力特性も自然吸気らしいナチュラルなもので好感が持てる。いっぽうで、純度の高いミネラルウォーターのようで刺激に欠けるといえなくもないが、それはあまりにも意地悪なものの見方というもの。私自身は、ナチュラルなテイストのGS Fによくマッチしたエンジンだと受け止めている。
前述のとおり、私はまだマイナーチェンジが施されたGSに試乗していないが、このGS Fが最新のGSの姿を、さらにいえば今後のレクサスのあり方を象徴していると信じたい。そしてそれは、レクサスがヨーロッパのプレミアムブランドと対等に戦えるようになるための、重要な第一歩ともなるはずだ。
LEXUS GS F|レクサス GS F
ボディサイズ|全長 4,915 × 全幅 1,855 × 全高1,440 mm
ホイールベース|2,850 mm
トレッド 前/後|1,555 / 1,560 mm
重量|1,830 kg
最低地上高|130 mm
エンジン|4,968 cc V型8気筒 直噴DOHC
最高出力| 351 kW(477 ps)/ 7,100 rpm
最大トルク|530 Nm(54.0 kgm)/ 4,800-5,600 rpm
トランスミッション|8段AT(8-Speed SPDS)
駆動方式|FR
タイヤ 前/後|255/35R19 / 275/35R19
サスペンション 前/後|ダブルウィッシュボーン / マルチリンク
ブレーキ 前/後|ベンチレーテッドディスク / ベンチレーテッドディスク
燃費(JC08モード)|8.2 km/ℓ
最小回転半径|5.61 m
価格|1,100万円
レクサスインフォーメーションデスク
0800-500-5577(9:00-18:00、年中無休)