スバルBRZに試乗|SUBARU
CAR / IMPRESSION
2014年12月17日

スバルBRZに試乗|SUBARU

SUBARU BRZ|スバル BRZ

スバルBRZに試乗

専用開発のシャシーによって実現した低重心を武器とする国産FRスポーツ、スバル「BRZ」。姉妹車であるトヨタ「86」とともに、いまもっとも気になる日本車のひとつといえるのはないだろうか。OPENERSでは、この「BRZ」に試乗する機会をえた。果たして、「BRZ」とはどんなクルマなのか? 大谷達也が分析する。

Text by OTANI Tatsuya
Photographs by ARAKAWA Masayuki

美しい

「彫りの深いクルマだ」

箱根の木漏れ日を浴びながらたたずむサテンホワイト・パールのスバルBRZを眺めていて、ふとそうおもった。クーペが美しいのは、ある意味で当然のことかもしれない。居住スペースの確保に重点が置かれるサルーンとことなり、クーペではキャビンの広さにたいする優先順位が低く、スタイリングに工夫を凝らす余地が増えるからだ。

けれども、日本製のクーペで“美しい”とおもえるモデルが過去にどれほどあっただろうか? 批難されるのを承知で言えば、これまでは抑揚に欠け、平板で薄っぺらいスタイリングのクーペが少なくなかったようにおもう。
しかし、BRZはことなる。

前後のフェンダーはよく鍛えられたアスリートの筋肉のように力強く隆起し、4輪がしっかりと路面を捉えている様子を視覚的に表現している。

そして、水平に伸びる直線的なウェストラインは、後ろにいくにしたがってボリューム感を増すサイドシル部とあいまって、いまにもクルマが前進しそうな躍動感を与えている。また、Cピラーからリアエンドにかけての造形は、クーペとしてややクラシカルな表現方法ながら、彫刻的な美しさと官能性を内包しており、ある種の“エロティシズム”さえ漂わせる。

SUBARU BRZ|スバル BRZ

結果として、BRZは表情豊かで完成度の高いクーペフォルムに仕上がったとおもう。これなら、ファッションやアートに関心を持つ、感度の高い“大人”にも十分受け入れてもらえるのではなかろうか。

虚飾を排し、コンパクトかつシンプルにまとめられたインテリアデザインにも好感を覚えた。とりわけ、基本となるラインを低く抑えたうえで、メーター類やエアコンの吹き出し口など必要なものだけをその上に積み重ねるようにしてデザインしたダッシュボードは、ミニマリズムを是としていた時代のポルシェに通ずるテイストで、スポーティな印象を一層際立たせている。そしてそれは、BRZの開発テーマともなった“低さ”を象徴する役割も果たしているのだ。

SUBARU BRZ|スバル BRZ

スバルBRZに試乗(2)

スバルのクルマづくり

ここで、スバルBRZが誕生することになった経緯をいま一度振り返っておきたい。

BRZと、その兄弟車であるトヨタ86の開発計画がスタートしたのは、スバルとトヨタの関係強化が発表された2008年のこと。両社は「運転の楽しさをあらたに提案するスポーツカー」を共同開発することで合意し、商品企画とスタイリングコンセプトをトヨタが、そして設計、開発、生産をスバルが担当することとなった。もっとも、両社の分担はそれほど簡単に割り切れるものではなく、トヨタが中心的な役割を果たした作業にスバルがくわわることもあれば、スバルの担当分野にトヨタが手を貸すこともあったようだ。たとえば、スバルのお家芸である水平対向エンジンにトヨタが開発した直噴システム「D-4S」を組み合わせたことは、その象徴といえる。

こうして完成したBRZは、スチールモノコックのクーペボディに4人分のシートを備え、自然吸気2.0リッター4気筒エンジンをフロントに積んでリアを駆動するという、コンパクトスポーツカーのお手本のような基本レイアウトが採用されたのである。

ただし、常識的な構成をただ常識的なまま終わらせるような真似をスバルがするはずはない。たとえレイアウトは常識的でも、そこに技術者のこだわりを徹底的に織り込むのがスバルのクルマづくりなのだ。そして、BRZの開発で技術者たちがもっともこだわったのが、スポーツカーの基本である低重心化とマスの集中だった。

SUBARU BRZ|スバル BRZ

SUBARU BRZ|スバル BRZ

具体的には、もともと重心の低い水平対向エンジンをインプレッサとの比較で60mm下方に搭載し、240mm後方に移動させたのである。クルマのなかでもっとも重いパーツとされるエンジンを、車体の中心近くの低い位置に搭載すれば慣性モーメントが減少し、より機敏な反応をしめすようになる。けれども、エンジンの搭載位置を変えるには車両の構造を大幅に変更しなければならず、莫大なコストがかかる。
当然、自動車メーカーはスポーツカー専用のシャシー開発に二の足を踏む。

ところが、スバルはこの難題に敢えて挑戦し、スポーツカーでなければできない低重心化、そしてマスの集中化を図ったのである。“低さ”をモチーフとしたデザインがエクステリアやインテリアに採用されているのは、彼らの低重心化にたいする真摯な取り組みと誇りを反映した結果なのだ。

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スバルBRZに試乗(3)

日常の使い勝手まで考え抜いたデザイン

今回、試乗したのは3タイプが用意されるBRZの中間グレードである“R”。最上級グレードの“S”とちがってタイヤサイズは16インチとなるが、BRZのエッセンスをリーズナブルな価格で味わうにはぴったりのモデルといえる。

乗り込んでまず感じるのは、着座位置が低いにもかかわらず視界が良好なことだろう。

重心を下げるのにエンジンの搭載位置を低くしたのとおなじように、シートポジションの位置を下げればドライバーという名の“パーツ”を低い位置に留めることができ、低重心化に役立つ。スポーツカーの常套手段である。

けれども、BRZは前後左右のウィンドウやピラーを適切に配置することで、低い位置に座りながらも広々とした視界を確保している。なかでも、高速道路の本線合流で重要となる斜め後方の視界、それに右左折時の安全確認で必要な斜めの前方の視界がしっかりと確保されている点は特筆に値する。日常の使い勝手を考え抜いたデザインだ。

SUBARU BRZ|スバル BRZ

乗り心地も快適だ。スポーツカーなのでそれなりにサスペンションは固められているものの、路面の段差で直接的なショックを伝えることもなければ、うねるような路面でクルマの上下動が反復することもない。むしろ、ダンピングがよく効いたその乗り心地を好ましいとおもうファンは少なくないだろう。

86とBRZで迷ったら──

自然吸気ながらリッターあたり100psを発揮する2リッターエンジンは、高出力化の必然的な結果として低速域のトルクがやや不足気味に感じられる。とはいえ、これも乗り心地同様、スポーツカーにとって決定的な短所とはいえない。それよりも、まわせばまわすほどパワフルになり、7,000rpmオーバーまで力強さが衰えない出力特性のほうが魅力的に映る。

SUBARU BRZ|スバル BRZ

SUBARU BRZ|スバル BRZ

そして、シフト操作がカッチリとしたマニュアルギアボックスを操ってエンジン回転数を4,000rpm以上に留めておけば、いかにも自然吸気らしい、リニアリティの高いレスポンスを満喫できるだろう。

ここまで書き連ねてきたことは、BRZだけでなくトヨタ 86にも共通する内容だ。

しかし、ワインディングロードに持ち込んだところ、BRZは86と大きくことなる表情を見せはじめたのである。街中を走っているとき、ステアリングの初期応答が86より穏やかに感じられることで薄うす気づいていたのだが、BRZでペースを上げていくと、限界が近づいてもリアがよく粘り、スタビリティの高いシャシーに仕上がっていることがわかった。

以前試乗した86は、これに比べるとステアリングの反応が鋭く、時にはやや手に負えないと感じることさえあったしたがって、高速コーナーを駆け抜けるときの安心感はBRZが86を上まわる。オーバーステアやアンダーステアを予防するビークル・ダイナミック・コントロール(VDC)も、BRZは介入のタイミングが遅めで、その分、ドライバーに委ねられる余地は大きい。したがって、「これから本格的にスポーティドライビングを習得したい」と考える向きは、万一のときのセーフティネットであるVDCを生かしたまま走れるBRZのほうがお勧めだ。

SUBARU BRZ|スバル BRZ

SUBARU BRZ|スバル BRZ

もっとも、本当に腕に覚えのあるドライバーであればVDCやVSCをオフにしてコーナーリングを楽しむだろう。そうなると、86の機敏なステアリングを活用してターンインのきっかけをつくり、リアのスライド具合をスロットルでコントロールしながら走る、というドライビングスタイルも可能になる。
つまり、BRZと86は、どちらがより優れているかで比べるべきではなく、自分の技量や好みと相談しながら選択すればいいことになる。

いずれにせよ、1台のニューモデルをきっかけにして「クルマの走り」についてこれほど熱く、そして広く語られるようになったのは本当に久しぶりのことだ。

また、実用性を犠牲にすることなく、スポーツカーの本質を捉えたBRZには共感でき部分が多い。だから、「もうスポーツカーは卒業した」なんて言わずに、アクティブに生きる大人にこそ、このBRZに乗ってほしいとおもう。

spec

SUBARU BRZ|スバル BRZ
ボディサイズ|全長4,240×全幅1,775×全高1,300mm(アンテナベースふくむ。ルーフ高1,285mm)
室内サイズ|室内長1,615×室内幅1,490×室内高1,060mm
ホイールベース|2,570mm
トレッド幅 前/後|1,520/1,540mm
最低地上高|130mm
車両重量|
RA     1,190kg(マニュアルエアコン装着時+10kg)
R (6MT) 1,210kg(17インチパフォーマンスパッケージ装着時+10kg)
R (6AT) 1,230kg(17インチパフォーマンスパッケージ装着時+10kg)
S (6MT) 1,230kg
S (6AT) 1,250kg
燃費(JC08モード)|
RA     13.4km/ℓ(マニュアルエアコン装着時13.0km/ℓ)
R (6MT) 13.0km/ℓ(17インチパフォーマンスパッケージ装着時12.4km/ℓ)
R (6AT) 12.8km/ℓ(17インチパフォーマンスパッケージ装着時12.4km/ℓ)
S (6MT) 12.4km/ℓ
S (6AT) 12.4km/ℓ
サスペンション 前/後|ストラット式独立懸架/ダブルウィッシュボーン式独立懸架
ブレーキ 前/後|ベンチレーテッドディスク/ディスク
(17インチパフォーマンスパッケージ装着時のRおよびSは前後ともベンチレーテッドディスク)
エンジン|FA20型 1,998cc水平対向4気筒16バルブ DOHC
ボア×ストローク|86.0×86.0mm
最高出力|147kW(200ps)/7,000rpm
最大トルク|205Nm/6,400-6,600rpm

           
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