FRスポーツを操る喜びを手軽に─トヨタ 「86」に試乗|TOYOTA
TOYOTA 86|トヨタ 86
21世紀のトヨタ 「86」に試乗(1)
先日、とうとうその市販モデルが富士スピードウェイにてお披露目された21世紀版“ハチロク”。これまで「FT-86」という名称でコンセプトモデルの開発が進められてきたが、その名をシンプルに「86」だけにし、2012年春に販売が開始される予定だ。より気軽に、FRスポーツの走りを楽しむことができる「直感ハンドリングFR」をコンセプトとする同車の試乗インプレションをお送りする。
文=青木禎之写真=荒川正幸
販売価格は200万円前後か!?
富士スピードウェイのなかを指定された駐車場へ向かっていると、正面から小さなスポーツカーが列をなしてやってきた。まん丸の目玉がかわいいヨタハチことトヨタ・スポーツ800だ。とおりすがりの大きな駐車場では、トヨタ2000GTが朝の光を浴びて優雅に輝いている。そのうしろでひときわ大きな集団を形成していたのが、カローラ・レビン/スプリンター・トレノのAE86たち。シンプルなハッチバック/ノッチバックボディがズラリと並ぶさまに、このクルマの人気の高さが感じられる。
2011年11月27日、「トヨタ GAZOO Racing フェスティバル 2011」で、21世紀の「ハチロク」たるトヨタ86がお披露目された。「水平対向エンジン+後輪駆動」というヨタハチのコンセプト、2000GTの流麗なスタイル、さらにユーザーみんなでクルマを盛り上げるハチロクの精神を現代に蘇らせたと謳われる小型FRスポーツである。手が届きやすいスポーツカーを標榜し、来春に開始される販売時には、200万円前後のプライスタグがつくとささやかれる。
この日、プレス関係者には、ごく短い時間だが試乗の機会が与えられた。
ドアを開けて、トヨタ86の運転席へ。赤と黒のコンビネーションシートには、背もたれ、座面とも、サイドサポートが設けられる。オシリへの当たりは柔らかい。スターターを押すと、始動時の一瞬だけ、ボクサーエンジンのビートが感じられた。
この試乗記を書いて頂いた自動車ライター 青木禎之氏によるドライビングのインカームービーを追加!
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FRスポーツを操るよろこびを手軽に
21世紀の「トヨタ 86」に試乗(2)
手軽に味わえるFRスポーツを操る悦び
テスト車は6段MT車。クラッチをつないで走りはじめる。2リッターの水平対向エンジンは、スロットル操作への反応が俊敏で、自然吸気ユニットらしく、リニアに86の速度を上げていく。ロウで約60km/h、セカンドで100km/hを超えるあたりまでをカバーする平凡な、否、順当なギア比。いっぽう、6速100km/hでは2,750rpmだから、トップギアが燃費用というわけではない。ハイスピードのレースコースでは、細かく切られたギアボックスを駆使する甲斐がありそうだ。
「直感ハンドリングFR」のコンセプトどおり、トヨタ86のハンドリングは、すなおで親しみやすい。ハンドルを切ったさい、もちろんノーズはすばやく向きを変えるのだが、その動きが過敏に過ぎないから、ドライバーはステアリングを切るたびヒヤヒヤすることがない。また、適度にボディがロールするうえ、履いているタイヤのグリップが極端に高くないので、クルマの限界がわかりやすい。ややタイトな“曲がり”で戯れにスロットルを開けてやるとすんなりテールが流れ、ドライバーを得意な気持ちにさせる。先日の日本サイクルスポーツセンターで、今回の富士スピードウェイ・ショートサーキットで、身のこなしが軽いトヨタ86のステアリングホイールを握るたび、「はやく峠で走らせてみたい!」と思う。
あたらしいハチロクは、サーキットで絶対的に速いタイムを叩き出したいひとには(ノーマルのままだと)ちょっと物足りないかもしれない。けれども、普段づかいで、いつもの山道で、適度な余裕をもって「ヤッている感じ」を楽しみたい向きには最適な相棒だ。FRスポーツを操る悦びを、手軽に体感することができるから。
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21世紀の「トヨタ 86」に試乗(3)
獲物を捕らえるような眼差しをもつ精悍なフロントフェイス
トヨタ86のフォルム、長めのノーズにコンパクトなキャビンが、見るひとに「FR」という駆動方式を印象づける。2,570mmのホイールベースに載る、全長4,240×全幅1,775×全高1,300mmのボディは、かつての日産FRスポーツ シルビアの大きさに近い。これなら、S13、14、15といったシルビアに乗っていたひとたちも違和感なくトヨタ車に乗り換えられる!?
冗談はさておき、旧来のハチロクファンほか、「ホンダ・インテグラに惚れ込んでいるけれど、つぎは後輪駆動に乗ってみたい」「マツダ・ロードスターが気になっているが、どうしても『ふたり乗り』の壁を越えられない」「FRスポーツに憧れるけれど、輸入車はあまりに高すぎる」、そういった層がニュー86の潜在顧客になりそうだ。
すっかり寂しい状況になったクーペ/スポーツモデルの市場に投入されたトヨタ86。アグレッシブなフロントフェイスはキーンルックと名づけられ、「獲物を捕らえるような眼差し」と説明される。スーパースポーツ レクサスLFAとの繋がりを感じさせる要件があったと想像されるが、全体に明快なフォルムと比較すると、フロント部分は少々ビジィに感じられる。トヨタの掲げる「FUN TO DRIVE,AGAIN.」という標語どおり、「ふたたびハチロクに乗ってみようか」というハートがヤングな年配のひとたちが、あたらしい86の顔つきを見てどう感じるか? ちょっぴり心配になるが、こればかりは好き嫌いの問題だ。
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FRスポーツを操るよろこびを手軽に
21世紀の「トヨタ 86」に試乗(4)
スバル製2リッター4気筒水平対向+D-4Sエンジンを搭載
いうまでもなく、トヨタ86は富士重工との提携を活かして開発されたクルマである。フロントに搭載されるのは、スバル由来の2リッター水平対向エンジン。ただし、ボア×ストロークは、「トヨタ・スポーツモデルの伝統」と謳われるスクエアタイプ(86×86mm)に変更されている。最高出力147kW(200ps)/7,000rpm、最大トルク205Nm/6,600rpm。12.5:1と高めの圧縮比が、内燃機関としての効率のよさを暗示する。ヘッドメカニズムには、トヨタ自慢のD-4Sが採用された。ツインインジェクターをもち、走行条件によって「直噴/ポート噴射」を使いわけ、「高い環境性能の実現」したという。
組みあわされるトランスミッションは、2種類。3ペダル式の6段MTとトルクコンバーターを用いた6段ATというコンベンショナルなもの。「直感FRハンドリング」を廉価に提供するためか、クラッチを自動でつなぐロボタイズドタイプのMTやツインクラッチといったギアボックスは使われなかった。
足まわりは、前がマクファーソンストラット、うしろは、ダブルウィッシュボーンをベースにしたマルチリンクとなる。タイヤサイズはグレードによって「215/55R16」と「215/45R17」が用意される。最近のスポーツモデルとしては控えめな設定だが、本当に“走り”を楽しむユーザーにとって、懐へのダメージが少ない汎用サイズのタイヤはありがたいはずだ。ルックスを重視するひとは、オプションやアフターパーツで対処してくださいということだろう。
日本、北米、アジア各国、そしてヨーロッパにも輸出される予定のトヨタ86。「ハチロク」という言葉に愛着と郷愁を感じる国内のファン、ヤング・アット・ハートな方がただけでなく、国内外を問わず、実際にリアシートの背もたれを倒し(一体可倒式になっている)、走行会用のタイヤを4本積んでサーキットにかようようなヤングなひとたちのハートを掴むことができるのか。トヨタ86の成功は、そこにかかっている。
TOYOTA 86|トヨタ 86
ボディサイズ|全長4,240×全幅1,775×全高1,300mm
ホイールベース|2,570mm
エンジン|2リッター水平対向4気筒
最高出力|200ps/7,000rpm
最大トルク|205Nm/6,600rpm
トランスミッション|6段MT、AT