PORSCHE パナメーラ GTSにスペインで試乗
Porsche Panamera GTS|ポルシェ パナメーラ GTS
最高のコーナリング性能とコンフォート性能を両立
ポルシェ パナメーラ GTSにスペインで試乗
パナメーラのラインナップ中、もっともスポーティと謳われるパナメーラ GTS。“サーキットをも舞台とできる”というキャッチフレーズは果たして妥当なのか? 同車の真価を探るべく、モータージャーナリスト、河村康彦がスペインで開催された国際試乗会に参加した。
Text by KAWAMURA Yasuhiko
Photo by Porsche
加速力と最高速だけでは語れない性能
2011年12月に開催された第42回東京モーターショーに出展され、1554万円という価格での予約受注も開始されているパナメーラGTS。1963年の発表の後、サーキットで戦うことを目的にわずか100台ほどが生産された伝説のレーシングモデル「904カレラGTS」に由来をする名が与えられたこのパナメーラを、当のポルシェでは「シリーズ中でもっともスポーティなモデル」と紹介する。
しかし、そんなこのモデルが搭載するのは、S/4S用をベースに高回転化技術や吸気効率の向上策を盛り込んだ自然吸気エンジン。当然ではあるものの、最高出力はおなじ4.8リッターという排気量にターボチャージングをおこなったターボ/ターボS用の数値には遠く及んでいない。
が、そんな心臓を積むこのグレードを敢えて「もっともスポーティ」と紹介するのは、“横方向”への加速力のポテンシャルという点では、ターボ付きモデルにまったくヒケをとることがないからであるという。パナメーラGTSのスポーティさは「加速力と最高速だけでは語れない」というのが、開発陣の見解なのである。
Porsche Panamera GTS|ポルシェ パナメーラ GTS
最高のコーナリング性能とコンフォート性能を両立
ポルシェ パナメーラ GTSにスペインで試乗(2)
呆れるほどのコーナリングG
そんなGTSグレードの、“サーキットをも舞台とできるパナメーラ”というキャッチフレーズを証明するかのように、スペイン南部を基点とした国際試乗会中のひとつのセッションとして設けられたサーキット走行シーンでは、なるほどこのモデルが単なるフル4シーターのGTカーではなく、“スポーツカーメーカー”であるポルシェの作品として納得させられる、類稀なる運動性能の高さを存分に味わわせてくれることになった。
標準モードでベース車両よりも10mmローダウンの姿勢で構え、ダンパー減衰力もより高められるなど専用チューニングがほどこされた標準装備のアダプティブ・エアサスペンションにくわえ、アクティブスタビライザー“PDCC”やトルクベクタリング機構“PTVプラス”、さらにはセラミックコンポジット・ブレーキ“PCCB”など、用意されたテスト車がフルオプションを装着状態だった点は考慮する必要はあるだろう。が、それにしてもハイスピードサーキットを尋常ならざるペースで駆け回るこのモデルの走りは、とてもラグジュアリーな4シーターモデルのそれとは思えないダイナミックさだった。
なかでも、時にドライバー自身が気分が悪くなってしまいそうなほどに高い横Gを、こともなげに発するコーナリングのポテンシャルについては、予想を遥かに超えると同時に半ば呆れるほどですらもあった。そんな限界走行を、4シーターのモデルでいつ、どこで披露をするのか、という疑問も沸くかも知れないが、いずれにせよパナメーラGTSのフットワークのパフォーマンスは、かくも一級スーパースポーツカー級のラインをクリアしているということになる。
Porsche Panamera GTS|ポルシェ パナメーラ GTS
最高のコーナリング性能とコンフォート性能を両立
ポルシェ パナメーラ GTSにスペインで試乗(3)
ポルシェ史上最高のコンフォート性能の持ち主
しかし、そんなサーキットという舞台を後にすると、このモデルはまたまったく異なった一面を明らかにする。それは、さきほどまで圧倒的に高いコーナリングの能力を味わわせてくれたこのモデルが、じつは“ポルシェ史上最高のコンフォート性能の持ち主”でもあったということだ。
前述のようにハードにセッティングされたサスペンションを備え、エンジンは強化したインテークバルブ専用のシャッターバルブ付きインテークシステムの採用などで、ベースユニットに対して30ps/20Nmの上乗せと400rpmのレブリミットの上昇を実現。くわえて、テスト車では標準の19インチに換えてオプションの20インチシューズを装着……となれば、誰だって乗り味はベースモデルよりハードコアなテイストが強まった、それなりに”スパルタン”なものになると予想と覚悟をするものだろう。
ところが、実際のパナメーラGTSのそうしたシーンでの走りのテイストたるや、まさに「究極のフラットライド」というフレーズがぴたりとくる印象。路面に口を開けた大きな穴にダイレクトに車輪を落としたりすればさすがにショックは大きく、また振動のダンピングにもやや時間がかかるものの、そうしたシーンをのぞくと快適性はパーフェクト! 徹底的に洗練された高級サルーンそのものという贅たく感溢れる乗り味を提供してくれたのだ。
Porsche Panamera GTS|ポルシェ パナメーラ GTS
最高のコーナリング性能とコンフォート性能を両立
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もっとも上質なパナメーラ
そんな快適性の高さをより印象的なものにしてくれたのが、デュアルクラッチ・トランスミッション“PDK”の、あらゆるシーンでのマナーの良さ。もっともスポーティなモードである“スポーツプラス”を選択してサーキットを走ると、アップシフト時のショックと引き換えに実現される電光石火のシフトワークと、ブレーキング時の早いタイミングでのダウンシフトが印象的だ。が、街乗り/クルージングシーンになると、今度はトルコンATにも劣らない微低速時のスムーズさと、100km/hをわずか1500rpmほどでこなすがゆえの静粛性の高さなどが目立った。もっとも、微低速シーンでのスムーズさについては、GTSだからというよりも「最新パナメーラのPDK全般で、リファインが進んだ」と解釈をすべきかも知れない。今回得られた好フィーリングの多くも、基本的には最新シリーズ全般に当てはまる事柄であるはずだ。
「GTS」というネーミングや「もっともスポーティ」というメッセージから、このモデルがシリーズ中では一番トガッた、時にはちょっとした扱い難さすらを許すモデルだと解釈するひともいるかも知れない。が、実際にそれを試してみた感想は、「これはあらゆるシーンで、“もっとも上質なパナメーラ”だ」というものだった。
そんなパナメーラも、まずは8気筒エンジンを搭載したモデルが2009年9月にリリースをされてから早2年半。6気筒モデルにハイブリッドにディーゼル、とバリエーションを拡充してきたシリーズも、どうやらこのGTSリリースの段階で、当初想定の“フルラインナップ”が完成ということになりそうだ。