フェラーリ 2台のV8モデルをテストドライブ!|Ferrari
CAR / IMPRESSION
2014年12月17日

フェラーリ 2台のV8モデルをテストドライブ!|Ferrari

Ferrari 458 ITALIA|フェラーリ 458 イタリア
Ferrari California|フェラーリ カリフォルニア

2台のV8モデルをテストドライブ!

フェラーリ現行のV8ファミリーである「カリフォルニア」と「458 イタリア」。OPENERSでは、この2台のテストドライブを敢行した。おなじみの自動車ジャーナリスト 渡辺敏史氏が、イタリアが誇るクルマ界の至宝の魅力を探る。

Text by WATANABE Toshifumi
Photo by ARAKAWA Masayuki

“環境”にたいするフェラーリの施策

自動車メーカーが抱えるふたつの環境問題がある。ひとつは温暖化を筆頭とした地球環境への負荷低減、もうひとつは新興国も絡んで多様化する市場環境への適応。片やモラル、片やビジネスと相反するような課題ではあるが、いくらフェラーリとてそれは避けてとおれない。いや、大きな社会的責任を背負うオーナーたちに支えられるフェラーリだからこそ、他社に先んじて一手を講じるべきだともいえる。

まず後者にたいして彼らは、はやい段階から手を打ってきた。販売的主力であり、もっとも多くのカスタマーとの接点となっているV8モデルの多面的な展開だ。その一環としてモデナの本社敷地内に、最新鋭の設備を備えた工場を新設。しかしその目的は生産スピードではなく、作業精度や密度の向上に主眼が置かれていることは、30分ごとというおそろしくのんびりしたタクトタイムをみても一目瞭然だった。

その工場の生産能力を満たすべく、企画されたV8フェラーリの一方がカリフォルニアということになる。オケージョナルシートをもつ2+2にして、メタルトップのオープンシステムを備えるそれは、フェラーリのプロフィールにおいてどちらかといえば異端的に捉えられるクルマだ。そのうえ、価格も現在のラインナップにおいてはもっとも手ごろに設定されている。ゆえに、メディアにおいてはブランドエントリー的な側面を強く採り上げられることも多い。

もちろんフェラーリとて、その気がないといえば嘘になるだろう。

フェラーリ 2台のV8モデルをテストドライブ!|Ferrari|02

すべてのラインナップにおいてもっとも多くの販売台数を期待しつつ、多大な投資のもとに開発。使い勝手も快適性も充分で、ボタンひとつで屋根まで開くフェラーリとあらば、いままでに囲えなかったユーザー層が開拓できるはず──と目論んで、なんの不思議もない。

Ferrari 458 ITALIA|フェラーリ 458 イタリア
Ferrari California|フェラーリ カリフォルニア

2台のV8モデルをテストドライブ!(2)

デュアルクラッチ式7段ATを初採用

実際、カリフォルニアを使っていて、真っ先にライバルとして想像するのはメルセデスのSLだ。かれこれ半世紀以上にわたり、ラグジュアリー&スポーツの世界において不動の地位を守ってきた、誰もが認めるオープンカーの王様。つまりはそのクルマを思い浮かべてしまうほど、カリフォルニアはデイリースポーツとして高い完成度を示しているということだ。

まずその乗り心地において、普段の道を普通に走っているかぎりは不満を漏らすことはない。そこまでカリフォルニアの、常速域における快適性は洗練されている。それを支える大きな要素は、彼らにとってはじめての採用となったデュアルクラッチ式の7段ATだ。そもそもF1マチックでスポーツカーの2ペダル化に先鞭をつけたフェラーリのそれは、変速ラグを気にさせないメカニズムとの相乗効果もあって、精密時計のごとく正確に機能している。低速域を多用していてもギクシャクするようなことはないどころか、燃費的にも効率のいいギアを適切に捕え、その存在を不必要にひけらかすことなく静々と移動をこなしてくれる。

フェラーリ 2台のV8モデルをテストドライブ!|Ferrari|04

オープンで乗れるフェラーリという悦楽

普段はそうして使いつつ、もしハレの気分に浸りたいとあらば、カリフォルニアにはふたつの選択肢がある。ひとつはセンターコンソールに配されたボタンでメタルトップのルーフを全開にすること。わずか20秒足らずでそのフェラーリは、巧みなエアフローのオープンカーへと変貌する。ルーフシステムを手がけたのはドイツのサプライヤーというだけあって、閉時の車内環境はほぼ完全に2+2クーペのそれが保たれる。それだけに開時の解放感は印象的だ。そのさいの剛性感もしっかりしており、スカットルシェイクやフロア振動なども最小限に留められている。なにより、オープンで乗れるフェラーリという悦楽に多くの言葉はいらないだろう。

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フェラーリの歴史上もっともフレンドリーな1台

そうして、もうひとつの選択肢であるエキゾーストを高らかに響かせるなら、手もとのパドルを弾けばいい。即座に無駄のないブリッピングで回転数を跳ね上げたかと思えば、カリフォルニアは問答無用のフェラーリサウンドを伴って、現代のスーパースポーツとして充分なパフォーマンスを示してくれる。

望外なのは、そんな乗り方をするうえで、シャシー側には充分な余力がもたされていることだ。価格に見合った調度や複雑なルーフシステムを積むこともあって決して軽くはない車体だが、重量配分はハイパワーFRモデルのトレンドでもある47:53と若干後ろよりの設定。トラクションはもとより、グリップにおいてもリアがしっかりと踏ん張る方向に躾けられているのは、フェラーリでは初採用となるマルチリンクサスの効能も大きいのだろう。一方でフロント側の接地感やインフォメーンションもしっかりしており、ドライバーは安心してコーナーにアプローチすることができる。普通のひとが普通にスポーツドライブを愉しむという名目を意識すると、フェラーリにもこんなに間口の広いセットアップができるということを体現した、カリフォルニアが彼らの歴史のなかでもっともフレンドリーな1台であることはまちがいない。

Ferrari 458 ITALIA|フェラーリ 458 イタリア
Ferrari California|フェラーリ カリフォルニア

2台のV8モデルをテストドライブ!(3)

ミッドシップに積まれるV8直噴ユニットは最高出力578psを発生

フレンドリーさとともに、世界のライバルたちをいかにスピードでねじ伏せるかという使命も担わされつづけてきたのが、フェラーリの代名詞ともいえるミッドシップV8モデルである。それがカリフォルニアの登場によって、心おきなくパフォーマンスの錬磨に集中できるようになった。それらを踏まえ、すべてのソリューションを刷新して登場したのが458イタリアというわけだ。

その本気の片鱗を示すもっともわかりやすい数字はエンジン出力ということになるだろう。4.5リッターのV8直噴ユニットが発するピークパワーは578ps。それがあろうことか9,000rpmで発揮されるという。すなわち、過去に例がないほどの高回転・高出力型エンジンを謳っているわけだが、それが誇張ではないことを知るためには、然るべき場所と覚悟が必要だ。

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身の毛もよだつ狂気と表裏のエンジン

ゼロスタートではトラクションコントロールも追いつかないほどの吹け上がりにただただ仰天、2速、3速と変速するにつれ、まったく衰えることのない一気呵成の推進力に唖然とさせられる。それでも必死でその加速感を読み解こうとすれば、並みのスポーツカーではパワーがタレてくる7,000rpmから、さらなるひと盛りを伴って9,000rpmのレッドゾーンまで、なんのためらいもなく突入していることがわかる。リミッターがなければエンジンを壊すことは必至と思わせるそのレスポンスを御するに、もはやMTでは無理。そして公道においてはその全開行為すら速すぎてままならない。そんな身の毛もよだつ狂気と表裏のエンジン……という点においては、458イタリア、おそらくエンツォやF50よりも上だろう。強いて言うならF40にも相つうじるところがあるが、なにせこちらはプロダクションモデルだ。これほどのエンジンを量産ラインに乗せていること自体、ほかのメーカーでは考えられないことである。

そのうえで458イタリアのすごいところは、この壊滅的な火力を秘めたエンジンと、完全に歩調を合わせた速いシャシーがあるところだ。その要となるのは「Eデフ」と「F1トラック」というふたつの電子デバイスの協調制御にあり、それらは走行状況に応じて、ステアリングに据えられた赤いノブを選択するだけでいつでもベストなパフォーマンスを発揮する状態になる。この「マネッティーノ」システム自体は、現在すべてのフェラーリの市販モデルに搭載されるが、458イタリアのそれはモードの過半数がスポーツ走行寄りにセットアップされており、サーキット走行にも柔軟に対応できるところがポイントだ。つまりそのくらい、スポーツドライビングに割切った性格づけがクルマになされているということの裏づけでもある。

Ferrari 458 ITALIA|フェラーリ 458 イタリア
Ferrari California|フェラーリ カリフォルニア

2台のV8モデルをテストドライブ!(4)

隅ずみまで速さの理由が染みわたった458イタリアのカタチ

アクセルを踏めば踏むだけグリグリとコーナーのインを捕まえていく、その旋回感と安定性はさながらハイテク四駆のごとし。そこに純然たるミッドシップ・リアドライブのパッケージならではのすばやい回頭性が両存している。458イタリアの基本特性は、多くのスポーツカーが思い描く典型的理想に沿ったものだ。しかし578psを完全に吸収することはレーシングカーのテクノロジーをもってしても並大抵ではない。

そこで効いてくるのが、458イタリアの隠れたキーテクノロジーでもあるエアロダイナミクスだ。

フェラーリ 2台のV8モデルをテストドライブ!|Ferrari|11

クオーターパネルの形状からフロントフェンダーの小さなダクト、果てはフロントグリルのルーバー素材にいたるまで、458イタリアのカタチには隅ずみまで速さの理由が染みわたっている。実際、458イタリアを高速でドライブすると、速度が高まるにつれ地面に押しこまれていくようにダウンフォースが効きまくり、しかもその感覚は空気の流れが変わるコーナリング時においてもまるでブレる気配がない。

空気の力が速さへと繋がっている、その感覚をここまで濃密に味わわせてくれるクルマは、現在の市販車においてほかにGT-Rくらいしか見当たらない。しかも458イタリアはそれを、いかにもフェラーリらしい、しかし決して懐古的ではないデザインとともに実現している。

両車に乗ってあらためて思うのは、フェラーリという会社はもの作りにおいて、決して必要以上に過去に執着しないということだ。伝統こそが揺るがぬ価値であることを代弁しているような会社にみえて、じつはその製品にはつねにあらたな提案と挑戦が盛り込まれている。そのポリシーは過去のモデルを振り返ってみても明確だ。

フェラーリ 2台のV8モデルをテストドライブ!|Ferrari|12

そしてフェラーリは2012年モデルから、すべてのプロダクションモデルにおいて、アイドリングのスタート&ストップシステムである「HELE」を搭載することを先日発表した。直面する環境適合性にたいして、スポーツカーのトップブランドが示した回答は、今後このカテゴリーに少なからぬ影響を与えるはずだ。試乗車のカリフォルニアにはすでにこのシステムが搭載されていたが、その作動感はじつにすばやく、かつ自然で、ユーザーに不満を抱かせることはないだろう。

そう、需要とニーズの広がりに対応すべく仕込まれたV8ラインのワイドレンジ化にしても、やはり双方に時代をリードするポテンシャルが漲っている。すべてにおいて無駄や矛盾がない、458イタリアのスタイリングは、まさにそれを雄弁に物語っているといえる。

           
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