320km/h まで10秒以下──全固体電池ハイパーEV「フルミーネア」発進| Estrema

エストレーマ社のジャンフランコ・ピッツートCEO(左)と、ロベルト・オリーヴォCOO(右)

CAR / FEATURES
2021年6月25日

320km/h まで10秒以下──全固体電池ハイパーEV「フルミーネア」発進| Estrema

Estrema Fulminea|エストレーマ フルミーネア

全固体電池ハイパーEV「フルミーネア」発進

世界初となる全固体電池を採用し、最高出力2040HP(1.5メガワット)、0-320km/h まで10秒以下というパフォーマンスを誇るイタリアのハイパーEV、エストレーマ「フルミーネア」が発表された。イタリア在住のジャーナリスト、大矢アキオ氏がリポートする。

Text by Akio Lorenzo OYA|Photographs by Automobili Estrema

雷光のごとく

最高出力2040HP(1.5メガワット)、0-320km/h まで10秒以下。生産予定台数は61台──ハイパーEV「フルミーネア」のスペックである。
開発を進めているのはイタリアの新進EVコンストラクター「アウトモービリ・エストレーマ」だ。2021年5月13日、そのコンセプトモデルをトリノで公開した。
完成すれば、世界初の全固体電池+大容量コンデンサーの組み合わせによる公道走行車両となる。高密度リチウムイオン全固体電池はkgあたり500Whで、想定上のバッテリー容量は最大100kW。4基のモーターによるAWDで、冒頭のスペックを達成する。
大容量コンデンサーは前車軸上、全固体電池はキャビン後方と後車軸の間に配置され、理想的な重量配分に寄与する。航続距離は欧州WLTPモードで450kmを、DCチャージ所要時間(10%−80%)は15分以下を想定している。
アウトモービリ・エストレーマは、2020年イタリアに設立された企業である。創業者ジャンフランコ・ピッツートはイタリアで建機メーカーを起業したのち、2007年に米国のスポーツカーブランド「フィスカー」の共同設立者を務めた人物である。その後フィスカーが中国系企業の手に渡ったあとも、2010年から2013年までイタリアおよび近隣諸国のディストリビューターを務めた。
次世代のEV用バッテリーとして近年注目されている全固体電池は、ブリュッセルを本拠地とするアビー社と共同開発する。すでに2021年3月、ピッツートらが率いるホールディング企業は、アウトモービリ・エストレーマとともにアビー社を傘下に収めている。
ボディサイズは4683×2052×1148mm。フェラーリ「ローマ」と比較すると27mm長く78mm広く、そして全高は153mmも低い。最新鋭のカーボンファイバーを多用することで、重量は1500kgに抑える。
車名の「Fulminea」とは「雷光のような」を意味するイタリア語だが、それにちなんでサイドのキャラクターラインには稲妻を反映させている。高度な三次元形状のテールランプとハイマウント・ストップランプは点灯時に赤く発光するが、消灯時はクリアになる。かつてコンセプトカーにみられ、近年は高価格車にも採用されているテクノロジーだ。リアスポイラーは下降時、ボディと完全に一体化される。
カラーは14世紀にサヴォイア家が制定し、イタリアのナショナル・チームカラーである青色「アッズーロ・サヴォイア」である。ただし、生産型では顧客の希望を完璧に反映する。
そのエクステリア・デザインはルイージ・メモーラによる。トリノ工科大学で学士号、IEDで修士号をいずれも優秀な成績で取得。教職を経て2015年ロンドンに自身のステュディオ「エプタデザイン」を設立した気鋭のクリエイターである。
エストレーマ・フルミーネアのデザイン開発レンダリング
ピッツートが筆者に「メモーラとは当初、フォーミュラEや(電動オフロードレースの)エクストリームEが実現できないか模索していました」と振り返る。
しかし諸般の事情から断念し、代わりにハイパースポーツ構想が浮上。そして2020年9月にメモーラから提案されたプロポーザルが、今回のエストレーマのデザイン的原点だったと教えてくれた。
「彼の作風は過激で、最初は(映画) 『ワイルドスピード・シリーズ』を連想したものです」と当時の印象を振り返る。
ピッツートはメモーラに、社内でデザインを率いてみないかと誘ったが、最終的には「他のデザインも手掛けるインディペンデントのデザイナーでいたい」という本人の意思を尊重したという。
コンセプトモデルのフォルムは、空を飛ぶ鳥、陸を走るチータ、そして水中を行く魚のセルフィッシュからインスピレーションを受けている。
今回はエクステリアデザインのみの提示だったが、インテリアはどのようなイメージを抱いているのだろうか。筆者が考えるに、近年の高級GTは「スパルタン」か「ゴージャス」の二極分化が進んでいるように思うが。それに対して、ピッツートはこう答える。
「私の好みをいえばスカンジナビアンスタイルです。まさにLess is more(筆者注 : 単純は豊かだ。モダニズム建築家ミース・ファン・デル・ローエによる有名な言葉)です。フィスカー・カルマのデザインを担当したアレクサンドル・クラットもそうした考えを反映させました。フィスカー同様、軽快で、控えめ、かつ洗練されたものになるでしょう」と暗示した。
カリフォルニア、日本、中国、北ヨーロッパ地域をメインマーケットと見込む。ただし、ピッツートはフィスカー時代の経験から、こうしたジャンルの自動車に販売ネットワークは不要と考えている。「ショールームは1拠点で、各地で企画するイベントで充分です」
価格は196万1千ユーロ(約2億5959万円)。顧客は「大きなソーラーパネルを備えた邸宅の主でしょう」とイメージする。
日本市場についてどう考えているか? との筆者の質問にピッツートは、「フィスカー時代に訪れて以来、大好きな国です」としたうえで、フルミーネアについても「イタリアンデザインへの評価が高い日本で、1年以内にエクスクルーシブなイベントの企画を考えています」と語った。
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