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2024年6月20日
ミラノ デザイン ウィーク2024リポート──自動車ブランドが描き出すモビリティの未来とは?|CAR
Milano Design Week 2024|ミラノ デザイン ウィーク2024
未来のモビリティを予感させたミラノ・デザインウィークの自動車ブランド
2024年4月15日から21日にかけて皆済された「ミラノ デザイン ウィーク2024」。イタリア在住のジャーナリスト、大矢アキオ氏が、特に未来のモビリティを見据えた自動車ブランドの出展についてリポートする。
Text by Akio Lorenzo OYA|Photographs by Akio Lorenzo OYA、 Mari OYA、 ITALDESIGN
「多機能化」と「シティEV」の次は?
「ミラノ デザイン ウィーク」が2024年4月15日から21日まで開催された。イベントは国際家具見本市に合わせ、毎年市内各地で展開されるものだ。主要オーガナイザーである「フォーリサローネ」のカタログには今回、前年比30%増の1125企画が掲載され、ウィーク全体では約2億6080万ユーロ(約438億円)の経済効果があったという。
自動車ブランドも多様なアプローチで出展し、イベントを盛り上げた。今回はそのなかで未来のモビリティを予感させるものに焦点を絞ってお届けしよう。
イタリアを代表するカーデザイン会社のひとつ「イタルデザイン」はEVコンセプト「アッソ・ディ・ピッケ・イン・モビメント」を世界初公開した。
2023年のヴァーチャル公開に続くもので、インスピレーション源は1973年に「アウディ80」をベースに創立者ジョルジェット・ジウジアーロが手がけたフランクフルト・ショーカー「アッソ・ディ・ピッケ」である。
オリジナルのシンプルさを尊重しながら、今日的カーデザインの原則を反映した全長4715mm✕全幅2032mm✕全高1300mmの2+2クーペである。いずれもシームレスなアルミニウム構造とポリカーボネート製ウィンドウで明るさと強度を確保している。
エクステリアと同様に注目すべきはインテリアに提示されている概念だ。今回の展示車はモックアップのためドアの開閉機構はなく、内部の造り込みも最低限にとどまっていた。
だが、ダッシュボードは筒型をしたオリジナルの意匠を残しながらミニマリスト志向に徹している。解説によれば、表示は必要時までほとんど目立たないよう配慮することで、最小限の労力や注意力の移動で済むという。
参考までにヨーロッパの自動車安全テスト機関「ユーロNCAP」は、過度なタッチスクリーン依存をしていないかを2026年にチェック項目として追加する。大型ディスプレイによる多機能化の次に取り組むものとして、こうしたシンプル化の模索は大変好ましいことである。
いっぽう中国の「GAC(広州汽車集団)」は、トルトーナ地区にある常設の欧州R&Dスタジオを開放。すでに始動している「カーカルチャー・プロジェクト」と名付けたEVコンセプトシリーズの第3弾をスケールモデルで展示した。
「シティ_ボッド」は1950年代イタリアのマイクロカー「イセッタ」に触発されたミラノ向けのシティーカーだ。パノラミックガラスで死角の発生を極力少なくする。
デリバリー業務向けスリーホイーラーの「シティ_ボックス」は、ジッパーの付いた“バックパック”で、必要に応じてカーゴスペースの拡大を図ることができる。
2シーター・クーペの「シティ・ラン」は、既存の座席の代わりにエアシートを採用することで軽量化を図っている。
3車は、いずれも短時間で交換可能なモーター+パワートレイン・モジュールで後輪を駆動する。
パーツに焦点を当てたアウディ
アウディは前回に続き、フェラガモが所有する高級ホテル「ポートレイト・ミラノ」の中庭を舞台にし、総合テーマも「ハウス・オブ・プログレス」を継承した。
だが、今回は「リフレクション」の名のもと、照明のテクノロジーに焦点を当ててインスタレーションを展開した。
会場では、世界初の一般公開を果たした「アウディQ6 e-tron」の実車とともに、灯火類をオブジェのごとく展示。そこに秘められた技術を紹介した。
マトリックスLEDヘッドライトのデイタイム・ランニングライト(昼間走行灯)は122個のLEDセグメントで構成されている。デジタルライトシグネチャー機能+Appにより、点灯パターンをユーザーが選べるのも特色だ。テールランプのOLEDセグメント数は360にのぼる。
加えて、アウディOLEDテクノロジー2.0は、多様な表示能力で、将来は必要に応じ、危険な状況を察知してハザードの三角マークを表示することも技術的に可能だ。
筆者が考えるに、さらなる未来にはcar to Xコミュニケーションの一端を担えるだろう。たとえば、クラウドから配信される渋滞・危険情報を後続車に伝えることもできよう。
17日に開催されたトークセッションではアウディの照明担当デザイン・ダイレクター、セサール・ムンターダが登壇。「のろし」の時代から人々が照明と常に関わってきたことを説いたあと、これから、より自動車の照明が興奮に満ちたものになることを示唆した。
職人技との融合
いっぽうでインスタレーションを通じて、日本の職人技にまつわるアプローチを展開した出展ブランドといえば、2005年の初出展以来、15回目となったレクサスである。
2023年ジャパンモビリティショーで公開されたバッテリーEVコンセプト「レクサスLF-ZC」に着想を得たクリエイターたちによる2作品を展示した。
そのひとつ、ロンドンを拠点とするデザイナー吉本英樹(Tangent)による『BEYOND THE HORIZON』は、ジャパンモビリティショー2023で公開したEVコンセプト「LF-ZC」の背景に、越前和紙による高さ4メートル、幅30メートルの巨大なスクリーンが設け、夜明けから日没まで水平線の情景を映し出した。
会場に置かれたコンセプトカー「LF-ZC」の内装材には、竹素材が用いられていることにもちなんでいるというが、その心は?
レクサスの担当者は 「主にレクサスが考える次世代モビリティの未来であるソフトウェアによる無限の可能性と、ソフトウェアがもたらす体験価値の変化というブランドの思想を表現しました。また、伝統的な職人技術と最先端のテクノロジーの融合も、ブランドの姿勢を表すものとして、インスタレーションに織り込んでいますが、お客様には感覚的に空間全体からその想いの一端を感じ取っていただければと考えておりました」と説明する。
「見せる」から「リサーチする」へ
日本の職人技術を異なったかたちからアプローチを試みたのは、自動車用インテリアを手掛ける「トヨタ紡織」である。
こちらのテーマは「CONTINUUM- Roots of comfort」だ。富山の伝統工芸職人3名を起用。訪れた者を最初に迎えたのは、和室である。
中央に置かれた島谷好徳作「おりん」を叩くと、周囲に投影された光の輪が反応する。音を可視化することで、聴覚と視覚双方で感じる心地良さを追求したという。
第2室で来訪者に触ることを促していたのは、絹織物作家、松井紀子作の「しけ絹」だ。一頭の蚕は一つの繭を作るのが普通だが、稀に二頭の蚕で一つの繭を作ることがある。そこからできた不均一な糸を 横糸に用いたのが「しけ絹」だ。不均一な糸ゆえに、独特の神秘性を醸し出す。
一角では、実際の菅笠(すげがさ)職人、中山煌雲(こううん)が床で実演していた。出展社が訴求したいのは、菅を緻密に織り込むことによる、触感や出来上がりの視覚的心地良さという。
トヨタ紡織ミラノデザインブランチの為村亮所長と浅井佑アシスタントチーフデザイナーは、日本の人が快適に感じる不規則性・数字で表せない心地よさを、見たことがない人々がどのように感じるかをリサーチしたい」と抱負を述べた。
そのフィードバックを活用することで、「時代の変化に流されない心地よさ」「今日普及している押しが強いインテリアの次に提案できるもの」を模索したいと語る。
彼らのパビリオンは小さいながら「見せる」から「リサーチする」イベントへと一歩踏み出していた。
さまざまな新たなアプローチを開拓することで、自動車ブランドにおけるデザインの重要性がより広く周知されるようになる。
とかくエンジニア中心になりがちな自動車メーカーにおいて、デザイナーの地位を向上させるためにも、イタリア第2の巨大都市における春のイベントが、より良い機能を果たしてくれることに期待したい。