ゴルフ GTIのアイコン、チェック柄シートの秘密|Volkswagen
Volkswagen Golf GTI|フォルクスワーゲン ゴルフ GTI
カラー&トリム・シニアデザイナー マヌエラ・ヨーステン氏に訊く
ゴルフ GTIのアイコン、チェック柄シートの秘密
「ゴルフGTI」といえば、ホットハッチの代名詞だが、しかしその開発には女性も深く関与している。なかでもGTIのアイコンともいえるチェック柄のシートが女性の手によるものとは意外な発見だ。その担当者であるドイツ人、マヌエラ・ヨーステン氏にインタビューする機会を得た。フォルクスワーゲンの内装へのこだわりとは──。
Text by OGAWA Fumio
ファッションとの共通点
──そもそも疑問におもっていたのは、なぜ、ドイツのスポーツカーにはチェック柄が多いか、ということです。たとえば戦前のメルセデスベンツのレーシングカーもチェック柄のシートです。
マヌエラ・ヨーステン氏(以下MJ) 「なんででしょう(笑)。他社のことは知りませんが、初代『ゴルフGTI』のシート柄はクロスチェックというのですが、あのシート柄を採用したときは、同様のチェック柄がファッションの世界で流行っていたのです。デザイナーはスコットランド人だったはずです」
──それを受け継いできたわけですね。
MJ 「はい。けれども、クロスチェックという言葉でくくればおなじ範疇に入るかもしれませんが、実際はたとえば
先代GTIのクロスチェックは初代とまったくちがいますし、
新型GTIのものは、さらにアップデートされています」
──アップデートとはどういうことでしょう。
MJ 「先代は光沢ある糸で織ったところに、あたらしさがあったとおもいます。新型は、ひとことでいうと、立体的になっています。チェックがいくつかのレイヤーになっていて、上の層は浮いているように見えるはずです。しかも表面に粒状の処理が施されていて、触感的にもスポーティな印象を強くもたせることができたと私は考えています。
初代が当時の技術的な問題からジャカード織りを使えなかったように、シート素材も最新の技術と手に手をとって進んでゆくものです。新型GTIのシート表皮はこれまで使えなかった新素材です。技術が進歩してクルマのインテリアもあたらしい装いをまとう。その点はファッションとも共通点がありますね」
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ゴルフ GTIのアイコン、チェック柄シートの秘密 (2)
徹底したライフスタイルの研究
──自動車のデザインというと、一般的にエクステリアばかりが語られます。でも、自動車を買ったらほとんどの時間は車内にいるから、インテリアのほうがずっと重要だというデザイナーもいます。そのとおりかもしれません。なぜ、インテリアデザイナーを志されたのでしょうか。
MJ 「私はドイツの高等専門学校と大学でテキスタイルデザインを学びました。卒業後、家具用ファブリックの開発に携わりました。それから、ファブリックのサプライヤーに転職して、企業向けに生地を開発・生産する業務をおこなってきました。そこでフォルクスワーゲン(VW)用のファブリックを提案して、それが採用されました。私はモータースポーツが好きな家庭で育ったこともあり、クルマに興味をもっていたので、私の提案を気に入ってくれたVWから入社を誘われたとき、すぐに決断しました」
──いまの仕事はどういうものですか。
MJ 「デザイン部カラー&トリム・シニアデザイナーです。過去数年担当してきたおもなプロジェクトは、先代ゴルフ、新型ゴルフ、新型ゴルフのすべての派生モデル、シロッコ、それにup!です。キーデザイナーとしてインテリア中心に関わってきました。
またコーディネーターとして他部署との調整も担当しています。VWはシートをとても大事にしています。もちろん、たとえばおなじグループのアウディと較べると、アウディでは手間のかかる仕上げにこだわっているし、レザー表皮も数種類から選べます。それに対してVWは、ファブリックかレザーかの選択しか出来ません。
でも、だからといって手を抜いているわけではなく、より多くのひとに満足いくものを作らなくてはいけないから、やりがいを感じています。たとえば、私がシートを担当するとき、周囲に想定ユーザーを見つけ、徹底的にそのひとのライフスタイルを研究します。
VWに入社して最初の仕事はチャイルドシートでしたが、そのときは姉に子どもがいたので、姉とその子がどんな生活を送り、チャイルドシートになにを求めているか子細に観察しました。シートのステッチの色を選ぶときも、白か黒かだけでも、かなり時間をかけて、私なりのマーケットリサーチをします」
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ゴルフ GTIのアイコン、チェック柄シートの秘密 (3)
理想的なシートづくりとは
──シートはクルマによって、さまざまな表皮、さまざまな表面処理、そしてさまざまな形状がありますが、理想的なシートはありますか?
MJ 「身体をしっかりホールドしてくれて、フィット感があり、座り心地が硬めのシート。そのほうが乗員に安心感を与えますから。長時間乗っても疲労しないのも大事な点。結局、機能的にすぐれたシートが私の理想ということですね。ついでにいうなら、大腿部にも過度の負担がかからないよう、シートのプロトタイプが出来たらモニターに長時間乗ってもらい感想を聞くようにしています。それが理想的なシートづくりに役だっています」
──デザイン的なこともうかがいたいのですが、インスピレーションをなにから受けますか?シートではないですが、たとえばup!のダッシュボードのハイグロスの仕上げはiPadを連想させますね。
MJ 「iPadを見てからデザインしたのでは、up!発表のタイミングに合わせた採用は不可能だったんですよ。新型ゴルフの外装色でチタンのような金属を連想させる仕上げがあるのですが、これがあたらしいiPhoneのようだという指摘もあります。でもやはりiPhoneを見てから研究開発をしているわけではないことはご理解いただけますよね。
開発の過程であたらしい素材に出合ったりして、まったく異なった業界でも、すこし方向が近くなることがあるのです。ただし、シート生地のデザインでいえば、ファッション業界に目配りをしているのは事実です。バーバリーのように伝統的なパターンを持ち、それを現代的にアレンジしているやりかたは参考になります」
──シートではないですが、個人的に気に入っている椅子はありますか?
MJ 「イームズチェアです。米国のチャールズ・イームズ氏が、1951年に発表したワイヤーメッシュの椅子です。考えかたがとてもおもしろく、素材選びのあたらしさと、座り心地へのソリューションが、うまくバランスとれています。ウェルナー・パントン氏が1957年に発表した合成樹脂製のパントンチェアも、同様の理由で、私にはとても興味ぶかく、気に入っているものです」
Manuela Joosten|マヌエラ・ヨーステン
1965年、ドイツ・バイロイト生まれ。モータースポーツ好きの家庭で育ち、幼少の頃からクルマに興味を持ち続ける。コーブルク高等学校でテキスタイルデザインを学ぶ。テキスタイル関係の仕事を経て、1994年、フォルクスワーゲンに入社。現在、カラー&トリム・シニアデザイナー。