フォルクスワーゲンの電気自動車「eゴルフ」に試乗|Volkswagen
Volkswagen e-Golf|フォルクスワーゲン eゴルフ
電気自動車のゴルフを試乗
フォルクスワーゲンは、エネルギー問題を軸とした持続可能な将来を見据え、そのソリューションとして電気自動車(EV)に注力している。そして登場したのが、ブランドを代表し、2012年に新型を迎えた「ゴルフ」をベースとする「eゴルフ」だ。MQBプラットフォームの多様性を活かして開発された、電気自動車のゴルフはどのようなものか。2012年には先代ベースでつくられた「ゴルフ ブルーeモーション」にも試乗した大谷達也氏が、ドイツで体験した。
Text by OTANI Tatsuya
ドイツが見据える未来のくるまは、電気自動車
三菱「i-MiEV」が2009年、日産「リーフ」が2010年に発売された日本市場では、エンジンをまったく積まない電気自動車(本来はBattery Electric Vehicle=BEVと呼ぶべきだが、ここでは使い慣れたElectric Vehicle=EVと表現させていただく)にはあまり新鮮味は感じなくなっているけれど、ヨーロッパでは大メーカーが手がけるEVといえば基本2人乗りの「スマート フォーツー エレクトリックドライブ」とルノー「トゥイジー」ぐらいのもの。つづいて大人が4人乗れるBMW「i3」が登場したけれど、日本とはちがって「一般の人がフツーに使えるEV」は、まだまだ目新しい存在なのかもしれない。
“だから「e-Golf」のお披露目をこれだけ派手におこなったんだ”と捉えることもできるだろう。なにしろ、フォルクスワーゲンはドイツ・ベルリンのテンペルホフ(かつての空港跡地。2013年5月に行なわれた「Audi Future Labo」も会場はここだった)を舞台に、3月8~21日まで2週間にわたり「electrified!」というイベントを催し、ここに世界中からジャーナリストやディーラー関係者、さらには一般のゲストまでを招いてe-Golfの誕生を祝ったのである。招待客の数はのべ数千人にのぼったようだから、その規模の大きさ、そしてフォルクスワーゲンのちからの入れ具合がうかがい知れる。
フォルクスワーゲンがEVの推進に積極的になっていることには理由がある。
ドイツでは、日本で「未来の自動車」としてもてはやされている燃料電池車(FCV)ではなく、あくまでもEV(FCVも広義にはEVの一種なので、厳密にいうならBHV)を次世代自動車の主力に据えるというのが国策にちかい方針となっているのだ。このことはウルフガング・シュタイガー博士の記事としてOPENERSでは紹介済みだが、そのポイントをかいつまんで説明すると、
1)今後数年でEVの航続距離は現在の2倍に相当する400kmに達する
2)ドイツには再生可能エネルギーをもちいる発電所で国内の電力需要を100パーセントまかなう計画がある
3)しかも再生可能エネルギーによる発電はコストが圧倒的に安い
などが挙げられる。このためFCVの普及に必要な水素供給網には「1ユーロも無駄遣いさせない」というのがドイツ政府の基本方針だという。つまり、FCV振興を積極的に推し進める日本とは、大きく方向性が異なっているのだ。
Volkswagen e-Golf|フォルクスワーゲン eゴルフ
電気自動車のゴルフを試乗 (2)
ゴルフ7の美点にEVの長所がくわわった
とにかく、彼らはいま本気でEVに取り組んでいる。そもそも、「ゴルフ7」で登場したフォルクスワーゲンのモジュール戦略“MQB”にしても、最初からEVが登場することを見越して開発されたものだから、ガソリンエンジン車を無理やりEVにコンバートしたモデルとはちがって、e-GolfにはEV化で失ったものがなにひとつない。
たとえば、容量24.2kWhのリチウムイオンバッテリーはセンタートンネルの下、それにリアシートの下に収められているため、ゴルフ7の広々としたキャビンはそのままe-Golfにも受け継がれている。ラゲッジルームだって、数字の上では40リットルほど減っていることになっているけれど、見た目はまるで変わらない。そのほか、ボディの基本的な剛性感とか、内外装のクォリティとか、乗り心地の快適性、静粛性の高さなども、ゴルフ7の美点をe-Golfはきちんと引き継いでいる。つまり、EVになっても使い勝手はゴルフ7とまったく変わらないのだ。
いや、EVになってむしろよくなっているところだってある。静粛性の高さはその最たるもの。ガソリンエンジンのような内燃機関をもたないぶん、普通のゴルフ7よりe-Golfのほうが静かなのは当たり前だけれど、EVにしたってインバーターやバッテリーの冷却系からなにかとノイズが聞こえてくるもの。
そういった余計な音がばっさりと切り落とされているe-Golfは「自動車って、ここまで静かになるんだ」という驚きを私たちにあたえてくれる。この静けさはe-Golfの強力なセリングポイントになるだろう。
そして乗り心地がすこぶるいい。もともと乗り心地のよさに定評のあるゴルフ7だけれど、e-Golfのリアサスペンションにはゴルフ7の上級モデルに使われているのとおなじ4リンク式独立懸架を採用。荒れた路面だろうと、大きな突起を乗り越えようと、どんなときでも破綻しない、それでいてフラット感の強い乗り心地をもたらしてくれるのだ。
Volkswagen e-Golf|フォルクスワーゲン eゴルフ
電気自動車のゴルフを試乗 (3)
じゅうぶんな力強さ
最高出力85kW(115ps)のモーターをフルに生かすと、e-Golfは0-100km/h加速を10.4秒でこなし、最高速度はリミッターが作動する140km/hに到達するという。正直、0-100km/h加速の10.4秒という数字は、このクラスのガソリンエンジン車にくらべてやや見劣りする数字だけれど、電気モーターは低速時に大きなトルクを発揮してくれるので、本当に鋭いダッシュが欲しくなる市街地走行ではスロットルペダルを踏んだ瞬間にぐいと背中を押されるほど力強い走りを見せてくれる。
ベルリン市街が舞台となった今回の試乗会では短距離ながらアウトバーンも走行できたが、最高速度140km/hといっても別に本線への合流でまごつくこともなかった。きっと都内の首都高を走るくらいだったら、じゅうぶん以上の速さをしめしてくれるだろう。
気になる航続距離はヨーロッパ方式の計測方法で190kmだが、マジメなフォルクスワーゲンはその隣に「実質的には130~140km」と書き添えている。ちなみに、国交省の発表によれば「日本の自動車ユーザーの過半数は1日の走行距離が20km以下」だそうだから、e-Golfの航続距離で不都合が生じる恐れはあまりないことになるけれど、クルマの「いざというときに何km走れるか?」という部分に価値を見いだす人にはまったく物足りない数字であるはず。この辺は引き続き意見がわかれそうだ。
また、普通のゴルフ7をベースとしているぶん、カーボンコンポジット製の専用ボディを持つBMW i3に比べてEV特有のストーリー性がとぼしいことも事実。もっとも、ガソリン車の燃費に相当する“電費”は127Wh/kmで、i3の129Wh/kmを凌ぐほどe-Golfは性能的にすぐれているのだけれど、いま日本でEVを買おうとおもう人たちがそこまで理性的に購入モデルを選んでいるのかどうか、私にはちょっと自信がない。EVとはいえ、エモーショナルな部分も期待されているのではないだろうか?
いずれにせよ、これでフォルクスワーゲンやBMWがEVに真剣に取り組んでいることがあきらかになった。たいする日本勢は、どうするのか? 今後の成り行きがたのしみだ。
Volkswagen e-Golf|フォルクスワーゲン eゴルフ
ボディサイズ|全長 4,254 × 全幅 1,799 × 全高 1,453 mm
ホイールベース|2,632 mm
トレッド(前/後)|1,549mm / 1,518 mm
重量|1,510 kg]
駆動用バッテリー|リチウムイオン電池1個(264セル)
駆動用バッテリー容量|24.2kWh
最高出力| 85 kW(115 ps)
最大トルク|270 Nm
駆動方式|FF
サスペンション(前/後)|ストラット / 4リンク
タイヤ(前/後)|205/55R16
0-100km/h加速|10.4 秒
トランク容量|343-1,233 リットル
最高速度|140 km/h
一充電走行距離(NEDC)|190 km