ゴルフ7海外試乗リポート - 島下泰久編|Volkswagen
Volkswagen Golf|フォルクスワーゲン ゴルフ
クルマの未来は明るい
7代目ゴルフの進化を体験
アウディ、ベントレー、ランボルギーニ、ブガッティ……多数の名門自動車ブランドを擁する巨大グループ、フォルクスワーゲングループを代表するクルマ、それこそが「ゴルフ」だ。ゴルフこそが、現代のクルマのベンチマークであり、時代の到達点といっても過言ではないだろう。OPENERSは、いずれも初試乗となる2人の専門家による評価を掲載する。おなじみ、河村康彦氏につづいては、こちらもおなじみ、島下泰久氏のインプレッションが到着。ゴルフ6からゴルフ7への進化を体感して、心が弾んだという島下氏がそのワケを語り尽くす!
Text by SHIMASHITA Yasuhisa
一見おなじようで……
7世代目となる、あたらしいゴルフのプレス向け国際試乗会が開催されたのは、イタリアはサルディニア島。空港を出ると目の前の駐車スペースには、出発を待つ数十台のゴルフがずらりと並べられていた。
誰の目にも明らかにゴルフと分かるスタイリングは今回も踏襲されている。興味の無い人なら新型だと分からないかもしれない。しかしながらゴルフを知る人であればひと目見て、そして見れば見るほどに、実は現行モデルとは結構ちがうなと気付くにちがいない。
いつも話題になるボディサイズは、またも少し大きくなっている。全長は56mm、全幅は13mm増えて、全高が28mm低くなった結果、スリーサイズは4,255×1,790×1,452mmに。そしてホイールベースは59mm長い2,637mmとなった。興味深いのは前輪の位置が、ドライバーを基準にすると43mm前に出て、オーバーハングが短縮されたこと。これによりノーズが長く、キャビンが後退した、VWの32歳の若きエクステリアデザイナー、フィリップ・レーマーズ氏曰く“プレミアムカーのようなプロポーション”を描き出しているのだ。
それにしてもデザインは細部までよく練られている。ドアミラーの取り付け方は変更され、サイドウインドウには小さな三角窓が付いた。これもまたプレミアム感の演出につながっているという。言われてみれば、確かにというところである。
ラジエーターグリルとヘッドライトユニットを貫く水平のラインは、よく見るとボディサイドのキャラクターライン、さらにはテールランプからリアゲートを横切るラインとの連続性が意識されるものとなっていて、重心を低く見せている。
面白いのはゴルフの個性である太い“く”の字型のCピラーにはキャラクターラインが入らず、フラットな面が形づくられていること。
これは前出のレーマーズ氏によれば「シンプルで力強い『ゴルフ2』、そして『ゴルフ4』のイメージを引用した」とのこと。
実際、ここからリアホイールアーチにかけてのボリューム感が、これによってさらに強調されていて、斜め後方からの眺めを、想像以上に印象のことなるものとしているのだ。
一見おなじようかとおもいきや、やはり間違いなく別物。しかも見るうちにじわじわ来て、次に現行モデルを見た時には、もはや古く感じさせてしまう。まったくもって巧みなデザインなのである。
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ゴルフ的インテリア進化
しかも新型ゴルフは、サイズを拡大するいっぽうで大幅な軽量化を断行している。
高張力鋼板の使用範囲を増やしたほか、高強度の熱間成形スチールや、部位によって厚さを変えられるテーラーロールドブランクと呼ばれる鉄板を採用したことなどにより、ホワイトボディを23kg減量したほか、エンジン、シャシー、電装系等々すべてを見直すことで、グレードにも拠るが、最大で何と100kgもの大幅な軽量化を達成しているのだ。使い勝手のことはさておき、これなら大きくなってもそうそう文句は言えないというところかもしれない。
インテリアの変化はもう少し分かりやすい。センターコンソールがドライバー側を向いたのはゴルフの歴史上、はじめてのことである。クオリティは例によってきわめて高い。全高は低くなったが、同時に着座位置も下げられており、また空間的にも横方向に広くなっているため窮屈さは皆無だ。後席も同様。レッグルームは15mm拡大しており、また少し余裕を増している。
ラゲッジスペースは容量が30リットル増えて380リットルになった。フロアボードは高さを2段階に変更可能で、上にすればフルフラットになり床下に収納が生まれるし、下にすればかさ張る荷物を載せやすくなる。後席まで倒した時の最大容量は1,270リットル。開口部の地上高が大幅に低められて、荷物の載せ降ろしがしやすくなったのも朗報だ。
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飛躍を遂げたのは走りだ
さて、こうしてあらゆる部分が確実に進歩を遂げている新型ゴルフだが、何より大きな飛躍を遂げたのは、間違いなくその走りである。
正直に言えば、ゴルフ6の完成度はきわめて高いだけに、最初からそれを超えるものが出てくるとまでは想像していなかったのだが、期待は良い方に、しかも鮮やかに裏切られることとなった。
試乗したのは最高出力140psを発生する1.4TSIの7段DSG仕様。まず感心させられたのは静粛性の高さだ。シャシーの剛性感も尋常ではない様子。
サルディニア島の道路舗装は決してスムーズな所ばかりではないが、路面がどんなであろうと堅牢なフロア、いかにも正確にマウントされたサスペンションが、入力を難なく受け止めて、振動も騒音もほとんど伝えてこないのだ。遮音、制振も徹底されているのだろうが、まずは土台となる骨格が圧倒的にしっかりしているという様子である。
乗り心地も文句なし。試乗車は「DCC」と呼ばれる電子制御式減衰力可変ダンパーが備わっていたので、もちろんその効果もあったはずだが、それにしてもパサートよりさらに格上とすら感じさせる上質感には唸らされた。堅牢なボディにしなやかにストロークして路面をはなさないサスペンションの組みあわせは、おそらくDCCなしでもクラスの水準を凌駕する快適性を実現しているのは間違いない。
フットワークも、これまた良い。軽量化の上にトレッド拡大、バリアブルレシオのステアリングギアの採用、さらにはブレーキを用いたLSD機能である「XDS」の標準装備化などが相まって、操舵するや間髪入れずにグリップが立ち上がって、軽い身のこなしで曲がっていく。電動パワーステアリングの制御のせいかステアリングの手応えはやや薄味だが、深い舵角まで接地感が失われず、リアがすべっても不安感は皆無という具合で、その走りは相当な懐の深さを感じさせた。
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クラスをリードする環境性能と安全性
エンジンは新開発ではあるが、普通に走らせている限りは新鮮味はそれほどない。とはいえ充実したトルクに軽い吹け上がり、DSGとの巧みなコンビネーションは、軽くなった車体を相まって爽快な加速感に繋がっている。
実はこのパワートレインには新機軸も盛り込まれている。低負荷時に2気筒を休止する「ACT(アクティブ・シリンダー・マネージメント)」は、動作時の違和感などとは無縁に、しっかり効率アップに貢献している。
また、運転モードを好みで切り換えられる「ドライビング・パフォーマンス・セレクター」を「ECONOMY」にセットすると、アクセルオフ時にクラッチを切り惰性走行するコースティング機能も働く。4.7ℓ/100km(約21.2km/ℓ)の低燃費には、これらも大いに貢献しているのだ。
新機軸は安全性にかんする部分でも豊富に用意されている。「up!」で初採用されたシティエマージェンシーブレーキは言うに及ばず、万一の事故の際に、車両に自動的にブレーキをかけることで二次衝突を防ぐマルチコリジョンブレーキ、事故の危険を察知するとシートベルトを巻き上げウインドウやサンルーフを閉じるプロアクティブ乗員保護システムといったVW初、あるいはセグメント初の装備がいくつも設定されて、クラス最高水準の安全性を実現しているのである。
クルマの未来は明るい
見た目も中身も間違いなくゴルフ。しかし、そのすべてが格段に進化を遂げていて、全体としてワンランクもツーランクもアップグレードされたクルマに仕上がっている。それが新型ゴルフとの初対面の印象である。何か特別に秀でた部分があるのではなく、あらゆる領域ががより高い次元に移行しているのだ。
現行のゴルフ6だって、ライバル達をまるで寄せ付けない、素晴らしい出来映えの1台である。そのゴルフを、それこそ切磋琢磨する相手も居ないような状況下で、よくぞここまで磨き上げたものだとおもうと、もはや圧倒されるほかない。
天候はいまひとつだったサルディニアだが、新型ゴルフに乗っている時だけは自動車の未来の明るさを感じることができた気がして、心が弾んだ。まさに驚愕の新型ゴルフ、日本には2013年中盤の上陸となる。
Volkswagen Golf 1.4 TSI 103kW(140 PS)|フォルクスワーゲン ゴルフ 1.4 TSI 103kW(140 PS)
ボディサイズ|全長4,255×全幅1,790×全高1,452 mm
ホイールベース|2,637 mm
トレッド 前/後|1,549/1,520 mm
トランク容量(VDA値)|380-1,270 リットル
重量|1,288 kg
エンジン|1,395 cc直列4気筒ターボ
最高出力| 103 kW(140 ps)/4,500-6,000 rpm
最大トルク|250 Nm /1,500-3,500 rpm
トランスミッション|7段DSG
駆動方式|FF
最高速度|212 km/h
0-100km加速|8.4秒
燃費(NEDC Combined cycle)|4.7 ℓ/100 km
CO2排出量|109 g/km
価格|22,525 ユーロ