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2024年12月20日
アナトミカ京都の魅力を解剖。ピエール・フルニエ氏の京都愛がほとばしる隠れ家的造り
ANATOMICA|アナトミカ
2024年9月にオープンしたアナトミカ京都。京都中京区の姉小路で築約100年の京町家を改装したショップは、町に息づく伝統と、アナトミカが培ってきたエレガンスが融合した唯一無二の空間に仕上げられている。アナトミカ創業者であるピエール・フルニエさんに、京都の魅力やショップの設えについて交えつつ、お話を伺った。
Text by OSUJO Ryota(Office Osujo)|Photographs by OPENERS
ピエールさんの京都への想いが詰まった細部へのこだわり
今をさかのぼること1957年、当時の京都市長が手紙をパリ市会議長宛に送った。内容は京都とパリの姉妹都市の提携を希望する旨。翌年、議長は京都を訪れ、両市の間で友情盟約が締結された。以来、日本とフランスの古都は姉妹都市の関係を結んでいる。
そう考えると、パリ生まれのアナトミカが京都にショップを開いたのは必然かもしれない。オープンしたのは今年の9月13日。中京区姉小路通というロケーションもまた、このブランドらしい。
通り一帯は、建築協定によって古都の歴史的景観が保たれている。ガス灯が設置された通りには、江戸時代から続く和菓子店や味噌店など老舗が軒を連ねる。
アナトミカ京都が店を構えるのは、その通りの一角に建つ京町家。白い暖簾をくぐり、時代ののった木製の引き戸を開けると、そこにはアナトミカと京都の文化が融合した空間が広がっていた。
ブランドの生みの親であるピエール・フルニエさんが店を案内してくれた。
「私が京都を初めて訪れたのは30年ほど前のこと。それまでにも日本のいろいろな場所を訪れたことはありましたが、京都ほど日本の伝統や様式美を感じた場所はありませんでした」
その後、何度も京都を訪れていたが、いわゆる観光地には足が向かないという。
「なぜなら、私が興味を惹かれるのは、この街の人々の暮らしそのものだから。滞在中に出かけるのも、人々の暮らしの匂いが感じられる場所ばかり。三条大橋のそばにある内藤商店さんで棕櫚や竹でできた道具を見たり、三条通の國島器械さんで昔ながらのビーカーを買ったり。そうそう、寺町通にある一保堂茶舗さんには必ず足を運びます。フランスではコーヒーばかり飲んでいますが、日本にいるときは、お茶も好きで両方飲んでいます」
アナトミカ京都には、ピエールさんのこの街への思いが凝縮されている。
「せっかく京都にお店を開くんですから、現代的なコンクリートの建物には目が向きませんでした。選んだのは長年、お店や住居として使われていた築約100年の木造の京町家です。全面的に改装していますが、柱や梁、支柱といった建物の歴史が感じられるものはできるだけ残しています」
「せっかく京都にお店を開くんですから、現代的なコンクリートの建物には目が向きませんでした。選んだのは長年、お店や住居として使われていた築約100年の木造の京町家です。全面的に改装していますが、柱や梁、支柱といった建物の歴史が感じられるものはできるだけ残しています」
お気に入りの場所を聞くと、ピエールさんは店の奥にある坪庭へ向かった。縁側に座り、庭を見つめる。
「家の中にいながら、自然と触れ合うことができて、四季の移ろいを感じられる坪庭は、ずっと憧れていた日本の文化でした。草と石の匂いがするひんやりとした空間に身を置いていると、心がすっと落ち着きます」
坪庭はもともとこの建物にあったもの。作庭は京の庭師に依頼し、古い灯篭や蹲(つくばい)はそのまま使用したという。
店の前面にあしらわれた木製の格子にもこだわりが。
「格子は外から、中の様子が垣間見える感じがいいんです。日が差した際に店内にできる影にも独特の味わいがあります」
選んだのは「糸屋格子」と呼ばれる伝統的な格子。動的なデザインが特徴で、光を確保できることから、商品の地色を重んじる呉服屋や糸屋などの店構えによく使われてきた。
京都らしさを重んじた内装の中に、アナトミカのスタイルも息づいている。店の奥に設けられたカウンターとその後ろにある大型のシェルフは、パリの本店を再現したもの。カウンターにはシーズンごとの注目のアイテムが並ぶ。取材時には新作のフレグランスやパリ本店の創業30周年を記念したフォトブックも並んでいた。
黒漆喰に彩られたシックな床の間には、トルソーがディスプレイされている。ジャケットはこの店のオープンを記念して作られた「ドルマンジャケット」だ。
ドルマンジャケットといえば、1994年のブランド創業時から展開されている定番アイテムのひとつ。モデル名はナポレオン三世時代の兵士の呼称に由来し、デザインは当時のフランス軍のウェアがベースになっている。動きやすいようゆったりとられた身幅やアームホールはアナトミカの用の美を体現する。
これまでさまざまな生地で作られてきたが、この限定モデルには古都にちなんだ特別な生地が使われているという。
「苧麻(ちょま)と呼ばれる日本伝統の生地です」
ラミーとも呼ばれる苧麻は、熱帯のイラクサ科の植物の茎を原料とするもの。繊維が硬くて太く、通気性や吸水性に優れることから、夏の着物に使われてきた。それも普通の苧麻ではない。旧知の着物コレクターから譲り受けた約100年前の着物を分解して生地を作り、このジャケットを仕立てたのだという。
ドルマンジャケットのかたわらには、深みのある濃紺が印象的なトートバッグが。これは定番の「コールバッグ」を国選定無形文化財でもある徳島県産阿波藍を100%使用し、染め上げたもの。京都の染色工場において、約600年続く日本の伝統的な天然本藍染めで、化学物質を一切使用しない天然灰汁発酵建ての手法で一点一点手染めされたこだわりの品だ。
「京都の冬の寒さは厳しい。アナトミカの代表作であるシングルラグランコートを目当てに店を訪れる方も少なくありません」
その特徴は肩まわりが大きく設計されたラグランスリーブ。通常は前後の生地を縫い合わせるが、アナトミカの場合は一枚の生地で筒状に成形されることから、ワンピース・ラグランスリーブとも呼ばれる。裾に向かって大きく広がるAラインによって、歩く際に揺れる裾までもがエレガントに見える。
広々とした店内は、靴のフィッティングスペースを最大限に確保するため。充実したシューズのラインアップは、ピエールさんがこよなく愛するオールデンが中心だ。
「ちょっと残念なことに、日本の街もスポーティなスニーカーを履いた若い方の姿ばかりを見かけるようになってしまいました。サイズが合っていないスニーカーばかりを履いていたら、姿勢にも影響してしまいます。かつては日本にも、パリと同じく、自分の足に合った革靴を履く、というフィッティングの文化が根付いていました。この店を訪れる人たちに、本物の革靴の魅力をあらためて感じていただければ、うれしいです」
外へ出て、あらためて店を眺めてみる。外観は町並みに溶け込んでいるうえ、外から中の様子はほとんど見えない。ショップだと気づかずに通り過ぎてしまう人もいるかもしれない。
「本来、ファッションを扱うショップであれば、もっと開放的なつくりにするべきかもしれません。ただ、アナトミカはこの店構えでいいんです」とピエールさんは言う。
「私たちのつくる服の魅力は、上質な素材や職人の技が生み出す雰囲気や手触りにあります。そのため、パソコンやスマートフォンのディスプレイだけでは、そのすべてを伝えるのは難しい。ただ、幸いなことに、アナトミカのファンには、ショップで服に触れ、アイテムが生まれた背景を知ろうとしてくれる方が多いんです。アナトミカ京都もそんな方たちのためのお店です。ぜひ、店の扉を開けて、アナトミカの世界観を五感で味わってください」
アナトミカ京都
場所|京都市中京区姉小路通釜座西入ル津軽町782-3
営業時間|11:00~20:00
定休日|水曜日
場所|京都市中京区姉小路通釜座西入ル津軽町782-3
営業時間|11:00~20:00
定休日|水曜日
問い合わせ先
アナトミカ京都
Tel.075-708-5068