北極圏でマスターするアウディ クワトロ|Audi
Audi Driving Experience|アウディ ドライビング エクスペリエンス
北極圏で今度こそマスターする
アウディ クワトロ
OPENERS編集部員 鈴木はフィンランドで「アウディ ドライビング エクスペリエンス」に参加した。
Text by SUZUKI Fumihiko(OPENERS)
Movie & Photographs by YAJIMA Osamu
今度という今度は……
また今度、などといっていると、今度という時は、おもった以上に早くやってくるものなのかもしれない。
昨年末、北海道で「アウディ ドライビング エクスペリエンス」に参加し、僕はそれをOPENERSにリポートした。これをご記憶の読者が、今回も読んでいてくれれば、それはうれしいことだけれど、そのリポートで僕は、「アウディ クワトロ」という、精緻な四輪駆動システムに翻弄され、悪戦苦闘の末、最終的にはなんとなくわかったような気になって、北海道をあとにするまでの顛末を書いた。そして、そのページを「今度はもっとうまく、アウディを操れるようになりたい」というような文でしめくくっている。
その今度が、もうやってきた。
3月の末、僕は、またも雪だらけの空港に降り立った。前回、降り立ったのは北海道の旭川空港だったけれど、今度はキッティラ空港という空港だ。オーロラツアーに行く人々にとっては、目的地として、あるいは経由地として、有名な空港らしいのだけれど、はじめて知った。ちいさな倉庫みたいな、その空港の位置は、経度にして東経24度、緯度にして北緯67度。国でいうとフィンランドにある。いわゆる北極圏の入り口なのだ。
今回はここからさらに、北西に進んだ、ムオニオ(Muonio)という地域のとある凍結した湖の上で、3日間にわたって、アウディのクワトロモデルを運転した。きっちりクワトロの操縦をマスターしていってください。というのが、アウディ ジャパンから、僕へのプレゼントである。
なかなかのスパルタっぷりに、ちょっと腰が引けた。
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アウディ クワトロ(2)
ブリーフィング
ちなみに、今回も、僕以外の参加者がいた。メインのゲストはこのツアーへの参加を希望し、アウディ ジャパンに招待された、T氏とM氏のおふたりだ。いわゆるクルマ業界人ではなく、どちらも、それぞれに社会的に地位のある人物で、やっぱりなかなかハードそうな今回のプログラムに、弱腰になっていた。
T氏、M氏にくらべれば、僕には北海道での経験という、一日の長がある。ちょっとだけ、有利かな、などとおもう。
飛行機の都合もあって、到着初日ではなく、次の日の夕方に拠点となるホテルにつき、程なくして、明日からはじまるドライビング エクスペリエンスについてのブリーフィングを受けた。
ここではじめて知ったのだけれど、このホテル、妙にアウディ「S5 スポーツバック」がいっぱいとまっているな、とおもったら、なんと、今回乗るのは「S5 スポーツバック」だけなのだ。僕の場合、カメラマン 矢嶋修氏と僕とで1台という割り当てだ。
ブリーフィングを担当したのは、明日からの先生となる、マーカス。オーストリア人だという。この道、20年以上というプロフェッショナルだそうだけれど、ブリーフィングは拍子抜けするほど、シンプルだった。
まず、ドライビングポジションについて。時計にたとえる言い方で、いわゆる9時15分くらいの位置を両手でつかみ、180度回転させても腕が伸びきらないようにハンドルを持つこと。それ以上ハンドルをきる場合は、早めに逆手になる手をはなして、握る位置を変えること。ブレーキやアクセルを目一杯踏み込んでも、決して膝が伸びきらない位置に座ること。そして、シートに背を密着させること。
つぎにアウディS5の説明。
アウディS5に搭載されている、最新式の四輪駆動システム、クワトロは、エンジンからうまれる力を前40 後60に分割して四輪を駆動するのを基本として、減速時には前輪におおめに、加速時には後輪におおめに、と、必要に応じて、よりよく駆動力を変更しながら配分する。
最後にクルマの基礎知識。クルマはタイヤと路面との粘着、接地力によって、止まる、進む、曲がるという運動をする。
運動をする際には、その運動の種類を問わず、タイヤには負担がかかる。そして、タイヤが許容できる負担には限度があって、それをたとえば100とした場合、ものすごく単純化していうと、100以上の力をもって加速しようとすればタイヤは空転する。減速や方向をかえる場合も加速とおなじで、タイヤには負担がかかる。たとえば、ブレーキを強く踏みながらハンドルをきるよりも、すこしブレーキを弱めてハンドルをきったほうが、クルマがおもったとおりに曲がる、という経験をされたことはないだろうか?
これは、減速で大きな負担がかかっているタイヤに、さらに曲がるという仕事をさせようとすると、タイヤのする仕事が多くなりすぎてしまって、曲がる仕事を充分にできない、ということで、減速で目一杯仕事をしているタイヤになると、曲がることが、そもそもできない場合もある。
と、以上である。
最初のドライビングポジションの話は、万が一、衝突事故などが起きてしまった際に、自分の体の一部、ないし全部を失わないための基本中の基本。S5の特徴は、OPENERS読者ならばご存知の方もおおいのでは? そしてタイヤの話は、多少ともクルマに興味がある人は、アンダーステア、オーバーステアなどという言葉とともに、もっと正確に理解していることだろう。
なんだ、おもったよりも、大したことないのかな?
などと心中、ひそかに呟きながら、全員で食事をして、割り当てられた部屋に戻る。部屋は北欧風のインテリアで統一された、シンプルかつモダンなしつらえで、3人でも泊まれてしまいそうなほど広い。ぽつんと窓辺におかれたテーブルの上には、アウディからの、ドライビング エクスペリエンスへようこそ、という歓迎の手紙と、アウディロゴ入りの帽子、それに手袋が置かれていた。
日本だったら1.5階分くらいの高さがある壁の一面はガラス張り。夕方ついたときには、どこまでも真っ白の大地に、ぽつりぽつりと木々が背を伸ばし、その向こうに、お供え餅みたいな真っ白い山が見えたのだけれど、いまは、オーロラが見えている。
ここは、そんなところなのだ。世界は広い。
部屋に備え付けられたサウナを堪能して、3つあるベッドのうち、部屋の一番すみっこのベッドに潜り込んだ──この部屋も広い。
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広い
翌朝は朝8時にガレージ前に集合。ガレージといっても、ちょっとした体育館くらいのサイズがある。この日は日本チームのほかに別チームもいて、ずらっと15台くらいの「S5」がひとところに並んでいた。こんなにアウディがたくさんいるのを見たのは、有明の認定中古車センターを取材して以来だ。
一般道を少し走って、ゴミバケツみたいな郵便受けがあるところを曲がって、今回のコース、とある凍結した湖に着く。ちなみに気温を言っていなかった。大体摂氏マイナス10度前後である。この地方にしては、そこまで寒くない。
しかし、広い。いったいどれくらい広いのかちょっと想像がつかないくらい広い湖だ。
あとで知ったことだけれど、このあたりには、こんな感じで、広大な湖が、まだまだある。フィンランド、面積総計33万8,145平方km、人口532万6千人。日本、同37万914平方km、1億2,653万人。東京都、同約2,188平方km、約1,322万8,912人だそうだ。この数字の意味するところが、どんな感じなのかは、ぜひ、写真をみていただきたい。
さて、レッスン開始だ。
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人は歩けぬ氷の平野
まず僕たちがやった練習は、凍った湖の上のコースのひとつで、直線を加速してからアクセルをはなし、ハンドルをきり、またアクセルを踏む。というクルマを曲げる練習。
ちなみに練習は、ESCという、自動でブレーキやエンジン出力の調節をして、クルマがスピンしないようにしてくれる装置を、OFFにしてのぞむ。
氷の上とあって、タイヤと路面とがくっつこうとする力は大変弱いので、アウディS5であっても、それほどの加速力は発揮できず、よほどうまくやっても、このコースの直線では60km/hくらいまでしか速度がでない。そこから左にハンドルをきると、日本ではお目にかかれない、スパイクタイヤを履いた後輪が、右にするするとすべりながらクルマが曲がる。
ちなみに、そのままぼんやりしていれば、リアは、さらにすべりつづけて、クルマはやがて、曲がりの内側を向き、さらにはそのままぐるりと180度まわるか、途中でコース外のやわらかな雪のなかに突っ込んでしまう。
いっぽう、ハンドルを過剰にきり過ぎると、今度は、曲がらずに、そのまま真っすぐ進んでいく。
なぜそうなるのかを、ひとつのタイヤが許容できる仕事量の限界を100と仮定して、単純化して説明してみよう。
アスファルトの上での100という限界値は、氷の上だと、50くらいまで下がる。アウディS5は40:60で前後のタイヤにエンジンの力を配分するから、たとえばアクセルを踏んで100の仕事をタイヤに要求しているとした場合、前には40、後には60の仕事がゆく。タイヤは前後に2個ずつついているので、仕事を半分ずつわけあったと考えて、前の1つのタイヤは20、後ろの1つのタイヤは30の仕事をする。
この場合、いずれのタイヤも、限界である50の範囲内なので、タイヤは充分な仕事をしてくれて、クルマは安定している。
このままハンドルを右にきっていって、右へ向かおうとする仕事をタイヤに30までさせるとしよう。
すると、前のタイヤは、クルマを前進させる仕事20、クルマを右に向ける仕事30、で合計50の仕事をする。ギリギリで許容範囲内だ。しかし後ろのタイヤは、これが30+30で60の仕事になる。
これが、最初のスピンするときの状態で、後ろのタイヤが曲がっていこうとする仕事に耐えきれなくなって空転してしまう。
氷の上でタイヤが空転すると、ちょうどテーブルの上の溶けかかっている氷が、指で押された方向にツルツルとすべっていくような状態になって、前のタイヤは、まだ路面にくいついているから、後ろだけがすべって、振り子のように、クルマがスピンするのだ。
では、ハンドルをきりすぎた場合はどうか。
直進しているところから、ハンドルを急激にきって、40の曲がる仕事をさせようとしたとする。曲がるときはまず、前のタイヤが仕事をする。しかし、前のタイヤは進む仕事20をしているところに、追加で曲がる仕事40、合計60の仕事を要求され、いきなり50という限度を超えてしまっているので、そもそもクルマに曲がる力をあたえる仕事ができない。
結果的に、直進している後輪におされるまま、クルマ全体が直進する。
アウディのクワトロは、前のタイヤが仕事をできない状況では、後ろのタイヤにエンジンの力を多めにわたして、前のタイヤの仕事を減らす。40:60の構図が、25:75などに変更される。この働きで、前のタイヤに余裕がうまれて、仕事量の限界値内で、進むと曲がるができるようになった場合は、コントロールを取り戻せる。とはいえ、大体、仕事ができるようになったところで、前のタイヤが急に仕事をはじめるから、ガクンと曲がって、今度は前述のスピン状態になりやすくなる。
しかし、このあたりは一日の長。北海道で似たようなことはやっているぞ、と調子にのっていたら、やらなくてもいいようなところで、派手に後輪をすべらせてしまい、振り子のように暴れる後輪を制御しようとしているうちに、コースをはずれて雪の中につっこんでしまった。
もう、こうなると手も足もでない。カップホルダーにおいた無線機で救助を要請して、巨大な除雪車に牽引してもらって、雪の中から脱出する。この時、胸からさげたカードに、パンチで穴をあけられるのだけれど、これが結構、がっかりくる。僕が、パンチ第1号だった。
この時、路面をはじめて歩いた。驚くべきことに、人間のようにバランスの悪い生き物は、まともに歩けないくらいにツルツルだった。こんなところをクルマで走っていたのか──
そして、これにて最初のレッスンが終了する。
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アウディ クワトロ(5)
焦燥感を募らせる
この日の午後から、翌日にかけては、つづら折れに近いコースでの走行練習からはじまって、徐々にサーキットのような複雑なコースを走るというプログラムへと移行していった。そして、僕はパンチ穴の数ばかり増やしていった。まるでうまくなる気配がない。むしろ下手になっているようにすら感じる。T氏もM氏も、最初の弱腰ぶりはどこへやら、自信の走りを披露しているではないか。我が一日の長は、一日もたず。不安になる。
マーカスに、ちょっとお手本を見せてもらう。マーカスが運転する僕の(?)S5は、じつにスムーズかつ乗り心地がよく、そして速い。この人物、ただものではない。マーカスが、「そんなに難しくないだろ」と、クルマを降り、ドライバーチェンジ。うん、いっけん難しくなさそうだ。さっそく真似してみよう。
たしかに、マーカスの言うように、ハンドルをきり過ぎず、速度をあげ過ぎずに走れば、ミスはしない。曲がらないとおもったらアクセルをはなし、ブレーキを踏み、ハンドルを戻す。するとクルマは安定を取り戻して曲がる。加速するときも、ゆっくりゆっくり──
しかし、僕のやっているこれは、マーカスのそれとちがい、じつに遅い。多分、前の、いっこのタイヤの限界が50という話でいうと、せいぜい30くらいしか負担がかかっていない。これでは、サーキットでも時速40kmで走っていれば安全、といっているようなもので、全然勉強にならない。
そこでまるでちがうことに挑戦してみる。
右に曲がるまえに、一度、左にハンドルをきり、勢いをつけて急激に右へ。がばっとアクセルを踏み込んで、後輪を流したら、すかさず今度はハンドルを左にきって、アクセルを吹かし、ハンドルを戻して、ひとつめの曲がりをパス。お次は、激しいブレーキの後、左にハンドルをきって、クルマをがくんと曲げて、次の曲がりをパス。雪煙を巻き上げ、ぶんぶんクルマを振り回している様は、なんだかとても派手だけれど、実は、速度は、先ほどと負けず劣らず遅い。
その上、操作が忙しいところに、急激なクルマの姿勢の変化がおこるものだから、運転していて、だんだん気持ち悪くなってくる。
これは、大雑把にいえば、右へ行く時に、ほおっておけば制御不能になるくらいの勢いをつけておいて、それで事実、制御不能になるまえに、今度は左へ向かおうとする力をぶつけて、力を相殺してコントロールしよう、というようなものだ。運転しているとスリリングで、瞬発的には速い感じがするけれど、大きな力同士をぶつけて相殺してしまうので、実際は、たいした速度にならない。さらにちょっとでもコントロールを失敗すると、どちらも氷の上では大きすぎる右へ行こうとする力と、左へ行こうとする力が、めちゃくちゃにかかり、もはや制御のしようがない。雪のなかにつっこんで、除雪車による牽引のお世話になる。
今回は、寛大なるアウディが、ある程度自由にやらせてくれているとはいえ、こんなことをしていたら、いくら雪と氷のなかとはいえ、いつかクルマを壊すだろう。
たしかに、こんな派手な芸当も、初日の僕にはできなかった。そういう意味では、収穫はあったのかもしれない。けれど、これは全然、理想的な形とはちがう。
OPENERSのリポートどうしよう……
焦燥感は募るいっぽうだ。
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アウディ クワトロ(6)
テントとサウナとサンタ・クロース
2日目の夕方は、スノーモービルに乗って、ホテルから離れた場所で夕飯をとる、というちょっとしたサプライズが用意されていた。ガイドから、この地方の伝統的な生活様式を聞く。この地方の人達の一部は、冬になる前に、何百kmとボートを漕いで、湖畔の小屋にきて、いてつく冬は、凍った湖面に穴をあけ、魚を獲って暮らしたそうだ。
目的地には、コタという、円錐形の伝統的なテントがあった。中央に囲炉裏のようなものを設置して、火を囲んで冬を過ごすテントだ。円錐の頂点は開口していて、煙はそこから逃げる。円錐形の煙突に住んでいるみたいなものだろう。そこで振舞われたのは、木彫りのコップにはいった、あたたかいベリーのジュースだった。
雪に覆われた土地だから、冬にみる自然は、3種類くらいの木ばかりだ。そのうちのひとつは、まごうことなきモミの木である。そう、フィンランドはサンタ・クロースの故郷だ。
夕飯前に、本格的なサウナに入る。自分が随分、疲れているということを、ここで自覚する。腕も足も、ガクガクだ。日が沈み、満腹になって、この日はバスにのってホテルに帰った。あとから合流したマーカスが、ほれぼれするほど美しくS5をあやつって、バスを追い越してゆくのが見えた。
ホテルについて、すぐに寝てしまった。翌朝、他の面々から、昨晩は、めったに見られないようなオーロラが出ていたと聞く。
しかし、そんなのは全然、悔しくないとおもえる出来事が、この日の僕には待っていたのだった。
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アウディ クワトロ(7)
ついにクワトロマスター?
最終日となった3日目の僕は、多分、とても幸運に恵まれていた。オーロラを見そびれた分、サンタ・クロースがオーロラとは別なプレゼントを用意してくれていたにちがいない。
早朝、昨日までより明らかにすべるコースで、いきなり3度も除雪車のお世話になり、マーカスの指導を願った。その後、急にできるようになった。
わかってしまえば簡単なことだった。たとえば、ある日急に、自転車に乗れるようになったり、さかあがりができるようになったり、あるいは昨日までちんぷんかんぷんだった英文がサラサラ読めるようになったりした経験はないだろうか? ちょうどあんな感じである。
マーカスから運転を変わった僕は、昨日までとは別人のようだった。最後とあって、1周7分以上もかかる長いコースを、数回走ってマーカスのもとに戻った。アドバイスが欲しかったからだ。もう一度マーカスに運転してもらい、さらに自分の運転も見てもらう。
結果、プログラムの最後の最後におこなわれたタイムアタックでは、2位タイという好成績をおさめることができた。
言葉にするなら、こんな風に走ればいい。
前につかった、氷の上でのタイヤができる仕事の限界は50というたとえでいうと、直進するときは一番負担の大きいタイヤがする仕事が48くらいのところで走る。
ESCをOFFにしていても、クワトロとスポーツディファレンシャルという装置で、S5は、曲がるときでもとてもバランスがいいけれど、それでも曲がる場合は、どこかのタイヤに大きな力がかかって、50をはみ出してしまいがちだ。曲がっている途中に、不意にタイヤが空転すると、対応におわれて、時間をロスしてしまう。だから、先んじてこちらで意図的にタイヤをすべらせてしまうほうが楽だ。後ろのタイヤを、ほんの少しだけ、50の外にだし、あるいは4つのタイヤを50の外にだしてクルマを滑走させて、面倒なところを過ぎたあたりで、ちょうど50の範囲内に戻ってくるようにすれば、クルマはコントロール下にいてくれる。
まずは1つ1つの曲がりを、これで走れるようにする。次は、ひとつめの曲がりとふたつめの曲がりとのつながりを考えて、曲がりと曲がりの間に線を引く。自ずと、理想的な走行ラインが見えてくる。どこでどういう操作をすればいいのかがわかってくる。路面は、中央から左右にながらかに下る、かまぼこ型になっていたけれど、曲がる時は、このかまぼこの、コーナーの内側の傾斜にはいる。右に曲がるなら、右へと下る傾斜の中にいられるようにする。
50付近を維持するとなると、急な操作は基本的にはできない。だから、ラインを維持するためには、ひとつめを曲がるときに、ふたつめを曲がる姿勢をつくる必要があったり、直線で加速できるときに、はやめに加速体勢にはいれるよう、姿勢をはやく安定させたりする必要が出てくる。
こうやって走れるようになったときの楽しさといったらない。
もう病みつきで、さらに、だんだん、曲芸めいたことまで、できるようになる。
まだまだミスもするけれど、それでも手足のようだ。僕とクルマの蜜月である。
「S5、もうお前を離さない。クワトロ万歳。アウディ以外のクルマになんて金輪際、乗るものかッ」
と、結構、本気でそこまでおもった。
翌日、帰りの飛行機で、M氏は、スポーツバックにするか、クーペか、カブリオレか、はたまたRSか、と本気で悩んでいた。無理からぬことである。Mさん、個人的にはセダンの「S4」もカッコイイとおもいますよ。
日本では知りえなかったアウディを知った。アウディ観が変わった。
Audi S5 Sportback|アウディ S5 スポーツバック
ボディサイズ|全長4,730×全幅1,855×全高1,390mm
ホイールベース|2,811 mm
トレッド 前/後|1,588 / 1,575 mm
重量|1,745 kg
エンジン|2,995 cc V型6気筒 直噴DOHC スーパーチャージャー
最高出力| 245kW(333ps)/ 5,500-6,500 rpm
最大トルク|440Nm(44.9kgm)/ 2,900-5,300 rpm
トランスミッション|7段オートマチック(S tronic)
駆動方式|4WD
0-100km/h加速|5.1 秒
燃費(NEDC値)|8.1 ℓ/100km
CO2排出量|190 g/km
価格|872 万円