Audi A8にみるアウディのクルマづくり|Audi
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2015年1月26日

Audi A8にみるアウディのクルマづくり|Audi

Audi A8|アウディ A8

アウディはなぜアウディなのか

Audi A8にみるアウディのクルマづくり

アウディのクルマづくりとは何か? オールアルミニウムボディ、クワトロ──「The Art of Progress」をコンセプトとして誕生した最新のAudi A8はもちろんのこと、常に先端的な技術と、高い品質をもって君臨するA8から見える、アウディの思想を、大谷達也が解説。

Text by OTANI Tatsuya

ネッカーズルムの美しいアルミボディ

6年ほど前、私はアウディのネッカーズルム工場を訪ね、Audi A8の生産ラインを取材したことがある。そこで純白の輝きを放つアルミボディを目の当たりにしたとき、「こんなに美しいボディを塗装で隠してしまうなんてもったいない!」と、心のなかでおもわず叫んでしまった。

ASF、アウディスペースフレーム。彼らは、A8にもちいるアルミボディのことをそう呼んでいる。全身アルミ製だからといって、通常のスティールボディとおなじモノコック構造を採用しているわけではない。アウディは長年の研究を通じ、アルミボディにはボディパネルで強度を確保する一般的なモノコック構造よりも、何本もの柱でボディの骨格を形成するスペースフレーム構造のほうが相応しいと判断。スティールボディとはまったくことなる独自の製法をあらたに考案し、1994年にデビューした初代A8にはじめて採用したのである。

2002年 2代目Audi A8のASF

なぜ、モノコックよりもスペースフレーム構造のほうがアルミボディに向いているのか? ASFの生みの親とされるアウディのハインリッヒ・ティム博士にたずねたことがある。「1984年にアルミでモノコックボディを試作し、様々な評価をおこなったことがあります。そのときの結論は、軽量であること以外、何もメリットがないというものでした。たしかに、試作したアルミボディは量産向けのスティールボディより53パーセントも軽くできましたが、アルミ特有の伝搬特性のため車内の騒音が大きく、使い物になりませんでした。このため、開発を指示したフェルディナント・ピエヒ博士と私は『スティール製とおなじ構造のアルミボディは絶対に市販しない』という約束を交わしたほどです」

それでも、軽量なアルミ素材の可能性を捨てきれなかったティム博士は、アルミ押し出し材とアルミダイキャスト製のジョイントを組み合わせて車体の骨格(=スペースフレーム)を形成し、そこにアルミパネルを強固に貼り合わせてボディをつくり上げるASFを世界に先駆けて開発したのである。ちなみに最新のA8では、ASFの採用により、一般的なスティールモノコックで作った場合に比べてボディは約40パーセントも軽量だという。

Audi A8|アウディ A8

アウディはなぜアウディなのか

Audi A8にみるアウディのクルマづくり (2)

quattroという伝統

そして、この軽量ボディの利点を“走り”の面で最大限に引き出しているのが、アウディのフルタイム4WD機構であるクワトロだ。

アウディがクワトロをはじめて世に送り出したのは1980年に開かれたジュネーブショーでのこと。当時はロードカーにフルタイム4WDを採用する発想がなかなか受け入れられなかったため、アウディは世界ラリー選手権(WRC)にこのクワトロを投入。そのあまりの強さに、これ以降のラリーカーは軒並み4WDとなり、現在も4WD車によってWRCが競われていることはご存じのとおりである。

4WDのメリットは、雪道やダートなど滑りやすい路面で確実にトラクションを伝えることだけに留まらない。たとえば、4輪に駆動力が掛かっているため、コーナーリング中のタイヤの負担も均等に近づき、おなじタイヤであればより高いコーナーリング性能を引き出すことができる。また、高速走行直進性が向上するので、ハイウェイの長距離クルーズでも疲れにくいというメリットがある。

1982年モデルのAudi quattro

WRCでの優位を保つべく開発され、1983年から販売されたAudi Sport quattro S1

しかし、アウディはただスタビリティを改善するためだけにクワトロを開発したわけではない。彼らは、4WDによるスポーツドライビングの実現をその最終目的として掲げていたのだ。クワトロのデビュー直後にWRCに打って出たことが、その最たる証拠だろう。

これを実現するため、アウディはクワトロを搭載することを前提にボディの基本レイアウトをまとめ、トランスミッションやサスペンションを設計している。2WD前提で基本設計をおこない、そこに後付けで4WDシステムを装着している一部のライバルメーカーとは、まったくスタンスがことなる。このため、アウディのクワトロは、ただ4輪に駆動力が伝わっているだけの4WDではなく、そのメリットを最大限に引き出す4WDとなっているのだ。

Audi A8|アウディ A8

アウディはなぜアウディなのか

Audi A8にみるアウディのクルマづくり (3)

ドライバーズカーとしての資質

このASFとクワトロこそが、ライバルメーカーのフラッグシップサルーンとA8の決定的なちがいである。通常、このクラスであればラグジュアリー性が何よりも優先される。その結果、ドライバーズカーとしてのハンドリングは優先順位が低くなることもしばしば。

しかし、スポーティでプログレッシブなテクノロジーをもちいるA8は、ラグジュアリーサルーンでありながらドライバーに操る歓びをもたらす。特に、先代のA8はこの傾向が強かった。それに比べると最新型はより洗練された仕上がりとなっているが、だからといってドライバーズカーとしての資質が損なわれているわけではなく、引きつづきスポーティなハンドリングを持ち合わせている。

プレミアムブランドとしての品質

もうひとつ、アウディのクルマづくりで強調しておきたいのが、そのクォリティの高さである。たとえば、アウディはボディパネル間のすき間が極めて狭く、また、どこをとっても間隔が均一になるように組み立てられている。

私はアウディの品質管理部門を取材したこともあるが、そこでは、ボディパネルのつなぎ目を0.1mm単位で管理することで、図面上だけでなく人間の目で見ても精度の高さが感じられるように生産工程を管理していた。これはインテリアについても同様で、取り付け精度、操作したときの感触、レザーなど素材の質感改善などに多大な努力が払われていた。

聞けば、フォルクスワーゲン・グループを率いるマルティン・ヴィンターコルン博士は、アウディの品質保証部部長というポジションを足がかりにして現在の役職まで登り詰めたのだとか。それだけ、アウディならびにフォルクスワーゲンが品質を大切にしているのである。

いまここで、私はASF、クワトロ、そして品質保証の面からAudi A8の卓越性を説明してきたが、忘れてならないのは、いずれのポイントも、少なくとも20年の時を掛けて磨かれてきたことである。

アウディの技術は昨日、今日生み出されたものではない。そして、そうした長い時間熟成されてきたテクノロジーが、ラグジュアリーサルーンのA8には息づいているのである。

参考文献:「Audi BAHN vol.2二玄社刊」

           
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