マクラーレンの最新マシン「セナ」が日本初上陸|McLaren
McLaren Senna|マクラーレン セナ
マクラーレンの最新マシン「セナ」が日本初上陸
マクラーレン オートモーティブは5月22日、3月のジュネーブショーでワールドプレミアした最新のサーキット指向型ロードカー「セナ」を、東京・芝の増上寺特設会場で日本初披露した。
Text & Photographs by HARA Akira
伝説のドライバー「セナ」の名を冠した理由
マクラーレン「セナ」は、マクラーレン史上最高のパフォーマンスを持つ公道走行可能なサーキット仕様モデルとして開発された、同社アルティメット シリーズの最新モデル。価格は日本円で約1億円。価格もさることながら、限定生産される500台全てが発表時点で完売状態であったことも話題となった。
国内初披露の場となった増上寺 大殿前の広場には、「720S」をはじめ「570S」「540S」というマクラーレンの各モデルがずらりと並び、さらに会場入り口には、アイルトン・セナがマクラーレン・ホンダを駆りF1黄金期を築いた1992~93年当時に着用していたヘルメットやレーシングスーツを展示。究極のパフォーマンスを発揮するという新型車の発表会場にふさわしいアピアランスとなっていた。
発表会は、イベントの成功を祈願するため、能楽師で重要無形文化財・総合認定保持者の大倉正之助氏の太鼓の演奏でスタートした。
続いて登壇したマクラーレン オートモーティブ アジア日本代表の正本嘉宏氏は、「マクラーレンとセナというブランドは、どちらも栄光のモータスポーツの歴史を築いてきた絆があるだけでなく、お互いの根底には、いつの時代もチャレンジし続けるというDNAがある」とコメント。
過去何十年というレーシングテクノロジーの蓄積と、最新技術とマテリアルの粋を結集し、伝統と革新が融合するマクラーレン アルティメット シリーズの最高峰に位置する最新バージョンが、今回の「セナ」であるとした。
アイルトン・セナの勇姿を収めたムービーが披露された後、登壇した同社アジア パシフィック担当マネージング ディレクターのジョージ・ビッグス氏は、「ご覧になった映像のように、レースでの限界を押し広げたアイルトン(セナ)の姿は、我々の目指すべき基準を示すもの」とした。
また氏が担当するマネージング面では、マクラーレン車の販売は4年連続で増加しており、昨年は世界で3,340台を販売。その3分の2が新ラインナップのスポーツシリーズで、大半が新規ユーザーであったこと、現在は1日あたり20台の生産体制を築いていることなどを報告。
さらに日本は重要な戦略的市場で、2017年はスポーツシリーズの売り上げが世界第3位となり、今年後半には2つ目のディーラーを東京に用意するなど、取り組みを強化すると発表した。
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重視したのは、最高速ではなくラップタイム
アンベールされ、姿を現したマクラーレン セナを前に、技術的デザインの詳細を説明したのがエンジニアリングデザイン ディレクターのダン・パリー・ウィリアムズ氏だ。「プロダクトはそのコンセプトから始まる」とする氏は、今回のセナの目的は非常にシンプルなものだったという。それは、公道仕様のレーシングカーで、その究極のものを創ること。定義として掲げられたのは、車両重量、エアロダイナミクス、エルゴノミクス、パフォーマンスという4つの属性だ。
重量については、近代物理の父と言われるアイザック・ニュートンが提唱した「運動の第2法則」を紹介。加速度a(m/s2)=推進力F(N)÷車両質量(kg)の公式に従い、軽量なほど加速力が増すとした。
具体的には、660gのカーボンファイバー製のフロントフェンダー、4.87kgの大型リアウイング、3.35kgのレーシングシートなどをはじめとし、あらゆるコンポーネントを突き詰め、車両乾燥重量1,198kgを実現。「加速させるには、パワーウエイトレシオをしっかりしたものにしなければならない。簡単なことに思われるかもしれないが、非常に根本的な課題だった」という。
エアロダイナミクスでは、フロントのアクティブ エアロ ブレードや、リアのアクティブ ウイングなどにより、効率的なクーリング システムと、最大800kgものダウンフォースを両立した。エルゴノミクス面では、ドライバー志向のコクピットを紹介。
デュヘドラルドアを跳ね上げて実際に乗り込んでみると、カーボンパーツがむき出しの室内には、余計なスイッチなどが排除されたシンプルなステアリング、可動式メーター、ドライバーの右手下に設置され、シートに固定されたD/N/Rのシフトスイッチ(確実なクリック感あり)、ルーフ部に設置されたスタートボタンやドアレバーなど、フルフェイスを装着しても自然に手が届く、抜群の位置決めが行われた各操作部があることに気付くのだ。
さらに、Monocage IIIのボディとスリムなルーフピラー、ドア下部のガラス製開口部などにより、この手の車としては異例の広い視野が確保されている点にも驚かされる。
気になるパフォーマンス面では、ミッドに搭載するコードネームM840TR型4.0リッターV型8気筒ツインターボエンジンが、最高出力800ps/7,250rpm、最大トルク800Nm/5,500-6,700rpmを発生。7段SSGデュアルクラッチ式ギアボックスを介して後輪を駆動する。
マクラーレン史上最もパワフルなエンジンと最軽量な車体により、パワーウエイトレシオは668ps/トンを実現。これにより、ゼロスタートから100km/hまで2.8秒、200km/hまで6.8秒、300km/hまで17.5秒で到達できる。ストッピングパワーも強力で、100km/hからは29.5メートル、200km/hからは100メートル、300km/hからは215メートルで静止することができる。
ウィリアムズ氏は「速度についての記載がないのは、セナはトラックカーであるからだ。注目すべきは最高速度でなく、サーキットでのラップタイム。そのためには、加速力、減速力、コーナリングスピードが重要なのだ」と説明した。
ちなみに資料によると、セナは全長4,744mm、全幅2,051mm(ミラー収納時)、全高1,229mm。最高速度は340km/hと公表されている。
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ドライバーとクルマの一体感を追求
マクラーレン オートモーティブに10年以上在籍し、製品すべてのエンジニアリング デザインと開発を担当するウィリアムズ氏。発表会を終えた直後に話を伺うと、「実は開発当初は、このクルマにセナという名前をつけることは決まっていなかった。ただ、やっているなかで、セナという名前がピッタリだ、ということになって決めた」と教えてくれた。
さらに「セナの運転に対する姿勢、レースに完全に自らを捧げる姿勢に、マクラーレンの人たちが共感した。セナと開発陣のあいだには、そうしたつながりがあった」とも。
我々は、ドライバーのためにクルマを設計している。エネルギーを傾けているのは、やはりドライビングエクスペリメントの部分で、ブレーキを踏んだ感触や、ステアリングのレスポンス、ギアチェンジによってスロットルが変わり、キャビンの中の音や振動が変化する、そういったもの全てを含んだ運転体験を提供したいそうだ。
「パフォーマンスという観点からいうと、マクラーレン車は、すべての競合他社に比べて“上”だと思っている」と言い切るウィリアムズ氏。「しかし、パフォーマンス以上に重視しているのが、ドライバーとクルマとのエンゲージメント(一体感)で、直感的な操作ができる、自動車との絆が感じ取れる、それを私たちは追求している」という。そうして出来上がったのが、今回の「マクラーレン セナ」なのだ。
今後のマクラーレンについて聞くと、「P1」をはじめとするハイブリッドモデルはトレンドであり、さらなる追求を行っていく。一方、自動運転は素晴らしい技術だが、我々はトランスポーテーション(輸送)ビジネスをやっているわけではないので、コアビジネスとしては成立しない。提供するのはライフスタイルであり、運転する愉しみである。
また、気になるマクラーレン製SUVモデルについては、はっきり「No!」とのこと。「我々は、スポーツカーに対して大きな情熱を持って開発を行っており、日本のユーザーやファンにはマクラーレンブランドとその価値についてさらに理解していただき、見て、楽しんでもらいたいと思っている」と締めくくった。