アウディのフロントグリル|Audi
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アウディのシングルフレームグリル
クルマのフロントグリルは、そのクルマがどこのクルマなのかをひと目でわからせる、デザイン上のキーのひとつであり、ブランドのイメージを決定づける重要なパーツだ、ということは、たとえばBMWのキドニーグリルや、レクサスのスピンドルグリルなどを見ればあきらかである。アウディのフロントグリルは、シングルフレームグリルとよばれるもの。そのシングルフレームグリルに、先のパリモーターショー2012に出展された「クロスレーン クーペ」は、あたらしい表現を取り入れた。コンセプトデザインスタジオからのリポートにつづいて、小川フミオ氏が、そんなアウディのあらたなフロントグリルを取材した。
Text by OGAWA Fumio
フロントグリルとは?
アウディのフロントグリルが新世代へ。2012年秋のパリモーターショーでお披露目された「クロスレーン クーペ」のフロントグリルは、彫刻的で、ほかにはない大胆なデザイン。どういう背景で開発されたのだろうか。
フロントグリルとはグリル(格子)という名のとおり、エンジン冷却水を冷やすラジエターを跳ね石による損傷から守るために採用された。かつては純粋に機能部品だったが1930年代から象徴的な意味をもたされ、ブランドの「顔」としての、別の役割を担うようになった。
近年、フロントグリルのデザインによって、ブランド アイデンティティを打ち出す傾向がより強まっているが、なかでも先陣を切ってきたのがアウディだ。
さきごろミュンヘンのコンセプトデザイン センターで、近未来のデザイン戦略について、ジャーナリスト向け説明会を開いた際、アウディ デザインを統括するウォルフガング・エッガーは、「アウディ車のフロントグリルはたんなる装飾にとどまらない。デザインのスタート地点であり、近い将来、重要なパーツになっていく」と語った。
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アウディのシングルフレームグリル(2)
アウディグリルの歴史
アウディがフロトングリルのデザインに革命を起こしたのは、90年代終わりの「A8」の2分割グリルだ。グリルを美しくデザインし、強調することで、その背後、エンジンルーム内のパワープラントを暗示。緻密な技術によって開発され組み上げられたエンジン(そしてその先のクワトロシステムを含む駆動系)の存在を印象づける狙いもあった。
同様のデザインコンセプトを、ラインナップ全車に採用することで、技術による先進を掲げるアウディのファミリー アイデンティティをつくりあげたのも注目に値いした。
さらに2000年代にはシングルフレームとよばれる、大型グリルのデザインが採用された。縦に長い大型グリルは、アウディの前身ともいえるアウトウニオンが、戦前に手がけていた16気筒のグランプリマシンを彷彿させるものでもあり、歴史的な引用としても成功した。同時に、グリルを中心に、左右にヘッドランプと補助的開口部が設けられた。アウディの言葉でいう「5エレメント モチーフ」だ。
最新のアウディ車は、シングルフレームを発展させ、上の左右両端を切り落としたような六角形グリルを備えるようになった。これをデザイナーは、「シングルフレームの最適化」とよぶ。
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アウディのシングルフレームグリル(3)
美がうまれる背景
「シンボルを変える必要はない」。そう話すのはアウディでデザイン部長を務めるウォルフガング エッガーだ。
「アウディのグリルの存在感はとても強い。それをあえて大きく変更することはしません。ただし、より時代にあって、我われのポリシーにも合致するデザインへと、直していくことは大事です。そこで今回、ダブルグリル、シングルフレームにつづく、3世代目になるフロントグリルをクロスレーン クーペで採用しました」
エッガーによると、クロスレーン クーペのフロントグリルは「もはやアウトラインではない」となる。つまりフロントに張り付いたような平面的なかたちからの脱却。エッガーの言葉を借りると「彫刻的」な造型が特徴だ。
フロントグリルの実物を手渡して見せてくれたが、なるほど、三次元的な造型は、これまでなかった斬新なものだ。
「(オブジェとして)テーブルに飾っておきたくなる美しさがあるでしょう? でも、もっと大事なのは、このグリルを起点にクルマ全体のデザインをつくりこんでいくぐらいの重要性を私たちは与えていることです。クロスレーン クーペでお見せしたように、シャシーのスペースフレームがボディと一体化したデザインにとって、構造材のようなフロントグリルは、たいへん象徴的な意味を持つのです」
デザイナーにもお国柄があるとは、時々言われることだ。クルマをデザインしろと言われれると、アメリカ人は絵を描きだし、ドイツ人は資料を山ほど抱えてやってくる、とか。アウディの新世代のグリルの説明を聞いていると、デザインに言葉は不要とおもっていても、おもわず納得することが多い。美が生まれる背景。それがわかる取材だった。