新型ポルシェ「カイエン」の発表イベントに出席|Porsche
Porsche Cayenne|ポルシェ カイエン
新型ポルシェ「カイエン」の発表イベントに出席
ポルシェは8月29日(ドイツ現地時間)、第3世代となる新型「カイエン」を世界初公開。その発表会に金子浩久氏が参加した。
Text by KANEKO Hirohisa
カイエンの歴史を辿るミュージアム
新型ポルシェ「カイエン」の発表イベントに出席してきた。会場は、本拠地シュツットガルトのポルシェ ミュージアム。
夜9時からの屋上でのセレモニーの前に、ガイド付きでミュージアムを案内された。新型カイエン発表に合わせて、フロアの一部分には歴代カイエンとその派生モデル「959」のパリ・ダカール仕様など、オフロードに縁のあるポルシェを展示してある。“それらの延長線上に新型カイエンが開発されたのですよ”というわけである。
中でも感慨深かったのは、「カイエンS トランスシベリア」。ロシアのモスクワからモンゴルのウランバートルまでを競うアドベンチャー ラリー「トランスシベリア」用にヴァイザッハで25台造られたラリー仕様のカイエンSだ。2シーター化され、各部に強化&最適化が施され、2本のスペアタイヤ、ジャッキや工具類などがトランクルームに設置された特製の車両だ。
筆者は、ナビゲーターとして2007年と2008年にこのアドベンチャーラリーに出場したから、10年ぶりに眼にしたカイエンS トランスシベリアがとても懐かしかった。
展示されていたのはフランスチームのもの。日本チームのマシンはオランダ人コレクターの元でレストアを受けて余生を過ごしている。
そのカイエンS トランスシベリアの隣には、大胆にも新型カイエンのプロトタイプが展示してある。どこかのオフロードでテスト走行して泥まみれになったそのままの姿で、少し高いところに置かれていた。テールライトなどは明らかなダミーだが、ボディは現行モデルとは明らかに違っているから、このまま出るのだろう。
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新型ポルシェ「カイエン」の発表イベントに出席 (2)
潮目を変えたスポーツカーメーカーの挑戦
感慨はもう一つある。カイエンが3代目を迎えるここまで大きく成長したことだ。
スポーツカーメーカーのポルシェがSUVをつくるという噂を聞いた時には冗談としか思えなかった。成否も分からなかった。それがポルシェ社の屋台骨を支えるまでに成長し、弟分の「マカン」とセダンの「パナメーラ」を生み出す原動力になるなんて、あの時は想像もできなかった。
SUVというカテゴリーは、カイエンの成功によって誕生したようなものだ。
2002年にカイエンがデビューするまでも、ランドローバーやジープ、トヨタ「ランドクルーザー」、メルセデス・ベンツ「ゲレンデヴァーゲン」などは存在していた。
しかし、それらは“オフロード四輪駆動車”として区分けされ、セダンやクーペやステーションワゴンなどの乗用車に対して別の流れを成す専門的なカテゴリーに属するクルマとして認識され、扱われていた。
もちろん、三菱「パジェロ」やトヨタ「RAV4」などが一時的にヒットすることはあったが、「乗用車とは違ったクルマ」、「ハズシを楽しむ変化球」として求められていたことに変わりはない。
しかし、カイエン以後に生を受けたSUVは「乗用車と変わらず乗れるクルマ」ばかりだった。もはや“ハズシ”ではなく、直球そのものなのだ。
それでも、確かに当時のレンジローバーなどはオンロードのパフォーマンスも快適性もかなりのものだった。しかし、まだまだオフロード四輪駆動車の価値の重心がオフロードに置かれていて、オンロードでのそれはあくまでも従属的なものだった。
カイエンはそれを一変させた。オンロードでもオフロードでも等しく変わらぬパフォーマンスを見せ付けたのである。
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SUVの地位を確立したカイエン
発表されたばかりの初代カイエンにスペインのセビリアで乗った時のことは今でもよく憶えている。オンロードでは「911」を思わせる硬質な乗り心地とシャープなハンドリングに驚かされ、オフロードでは特別なスキルを要求されることなく難易度の高いセクションを走り切った。
オフロードの走破力の高さは、これが初めてと思えないほどハイレベルだった。副変速機とエアサスペンションを備えることであらゆる地形に対処し、駆動力を電子制御によって自動的に細かくコントロールすることで適切に4輪に分配することで実現していた。
前掲の各種のオフロード四輪駆動車に全く引けを取っていなかった。高いレベルでオンとオフのパフォーマンスを両立していることに驚かされた。トランスシベリア ラリーへの挑戦でも、それは遺憾なく証明されていた。
こんなクルマはそれまでに存在していなかった。オフロードが優れているクルマには誰もオンロードでのパフォーマンスは期待していなかったし、オンロードで優れたクルマはオフロードを満足に走ることができなかったからだ。
しかし、カイエンはオンとオフの垣根を取り払ってしまった。あらゆる路面をシームレスに、高速かつ快適に走れるクルマだった。ポルシェはSUVというカテゴリーを、今日の姿のように確立したのだ。
SUVという言葉はポルシェが言い出したものではなく、アメリカ由来のものだが、期せずしてカイエンの革新が世界へのSUVの普及を結果的に後押ししたと言えるのではないだろうか。
カイエンの直接のフォロワーだけにとどまらず、SUVというクルマはオンだとかオフだとか構えることなく乗ることができる(実際に走破できるかどうかは別問題)ものだと認識されていった。
SUVは新しいカテゴリーだから、それだけでも需要を喚起して、世界的にヒットを続けている。もはや、一時的な流行ではなく、一つのジャンルにまで成長した。
ジャガーやマセラティだけでなくベントレーまでもがSUVをつくり出し、果てはロールスロイスやランボルギーニまでもがSUVマーケットへの進出を明らかにするほど、SUVというものがここまで一般的な存在になるなんて想像もできなかった。
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ニーズと新技術を集約し、成熟した3代目
2代目のカイエンは副変速機が省かれたりして、オフロード志向が弱まった。開発者によれば、「初代オーナーの使い途を調査したところ、オフロードユースや牽引ユースが思ったより少なかった」からだそうだった。その代わり、PDCC(ポルシェ ダイナミック シャシー コントロール システム)の採用によってオンロード パフォーマンスは高められた。
そして、3代目。ミュージアムの屋上でダンス パフォーマンスとともに披露された新型カイエンは、大きく口を開いたフロント部分の印象や全体のシルエットなど、これまでのカイエンのイメージを継承したものだ。テールライト ユニットやヘッドライトなどは911とパナメーラを彷彿させている。
発表されたテクニカルなディティルは多岐にわたっていたが、初めて採用されたのが前後でサイズの異なるタイヤとリア アクスル ステアだ。
運転支援とコネクティビティに関する装備も911やパナメーラに準じている。
「カイエン」用エンジンは3.0リッターV6ターボで、340psの最高出力と450Nmの最大トルクを発生している。高性能版の「カイエンS」は2.9リッターV6と排気量が0.1リッター小さいのが面白い。S用は2機のターボチャージャーによる強力な過給によって、440psと550Nmを発生している。
今回発表されたのはV6ガソリンターボだけで、ディーゼルや最強力版のV8ガソリンターボやプラグイン ハイブリッドなどは発表されなかった。
8段の「ティプトロニックS」オートマチックトランスミッションを介しての性能は、カイエンで最高速245km/h、カイエンSが265km/h。0-100km/h加速が、カイエンの6.2秒に対して、カイエンSは5.2秒と俊足だ。今回のモデルチェンジでも大幅な軽量化が行われ、先代よりも約65kg軽くなっている。カイエンが1,985kg、カイエンSが2,020kg。
インテリアは、一層の上質化と高級化が図られている。こちらもパナメーラに準じていて、ポルシェの特徴である大径タコメーターをメーターパネルのセンターに配しながら、センター コンソールには12.3インチのフルHDスクリーンを備え、コネクティビティに対処している。センター コンソールのスイッチ類がフラットなガラスルックのものに変わっているのも新鮮だ。
順当で着実なモデルチェンジというのが、第一印象だ。眺めて説明を聞いた限りでは、911やパナメーラと歩調を合わせ、SUV云々というよりも現代の高性能車に求められるテクノロジーと装備をポルシェ流に漏れなく装備し、まとめ上げられている。早く運転してみたい。できれば、トランスシベリアのような荒野をどこまでも。