BMWのディーゼル試乗で考える日本のエネルギー偏重|BMW
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2014年12月9日

BMWのディーゼル試乗で考える日本のエネルギー偏重|BMW

BMW 3serirs|ビー・エム・ダブリュー 3シリーズ

日本のエネルギーを考える

BMW 3シリーズのディーゼルモデルに試乗

乗用車にディーゼルエンジンモデルがラインナップされないのが普通になって、すでにひさしい日本。いっぽう、クリーンかつ経済的というイメージで、ディーゼルエンジン搭載車のシェアが5割を超えるという欧州。国のエネルギー政策や、環境への意識のちがいなど、理由は多々あれど、環境問題への取り組みという前提を共有しながらも、その隔たりはあまりに大きい。今回は、先日、BMW「X5」のインプレッションを執筆した渡辺敏史氏が、自身の体験をまじえて、日本のディーゼル事情、そしてBMWが導入を検討しているという3シリーズのディーゼルエンジンモデルを解説する。

Text by WATANABE Toshifumi

はからずも震災で実感させられた“偏重”

東日本大震災の際、被災地はもとより日本全体で面倒なことになったのが燃料不足。特に数日後には枯渇が鮮明になったガソリンのそれは深刻で、給油所にならばざるをえなくなったという方も多かったのではないだろうか。

その状況は、僕が物資を被災地に運んだ3月下旬も、まったく改善されていなかった。医療品を届けた総合病院の事務長さんは、不足している薬を届けてもらおうにも、業者の営業車が軒なみガス欠で動けないという。

このとき、僕が乗っていたのはメルセデス・ベンツの「ML350ブルーテック」、すなわちディーゼルエンジンのSUVだった。

路面のうねる東北自動車道での走行性能と、積載力にくわえ、ガソリンが手に入らないという状況で現地の燃料を費やすわけにはいかないとあらば、それ以上の選択肢は考えられなかったからだ。

実際、ML350はおそらく300kg近い荷物を積み、東京~仙台間の往復約700kmと、現地での移動をあわせて、合計約1,000kmを無給油でこなし、役割をキッチリ果たしてくれた。


Mercedes-Benz ML350 Bluetec(W164)|メルセデス・ベンツ ML350ブルーテック(W164型)

Mercedes-Benz ML350 Bluetec(W164)|メルセデス・ベンツ ML350ブルーテック(W164型)

そこでわかったのは、あのときの給油所の列はすべてがガソリンを求めるもので、軽油はまったく差し支えなく手に入れられる状況にあったということだ(もっとも、地域によってはガソリン需要が圧倒的にひっ迫したため、供給もガソリンが優先され、結果的に軽油も手に入りにくくなった)。

BMW 3serirs|ビー・エム・ダブリュー 3シリーズ

日本のエネルギーを考える

BMW 3シリーズのディーゼルモデルに試乗(2)

日本側の戦略

日本はいま、自家用乗用車のほとんどがガソリンエンジンで稼働している。決定的だったのは、石原都知事がペットボトルを振ってみせた、例のパフォーマンスに端をはっした都市部でのディーゼル車規制条例。そのいっぽうで、次世代のパワートレーンをめぐる日欧の考え方のちがいがあらわれた、という見方もできなくはない。

つまり日本は、EVや燃料電池、あるいはHCCI(ガソリンの混合気を圧縮して爆発させる、ガソリンとディーゼルのイイトコ取りが期待される技術)と呼ばれる次世代内燃機関の現実化まで、小さく軽いガソリンエンジンをベースにハイブリッド化をほどこしつつ、一定の期間をしのぐことができるという中長期的な青写真を描いていたということだ。

軽油をもちいるディーゼル車が極端に少ないというかたよった事態は、そのままライフラインとしてのかたよりを意味することにもなりかねない。はからずも先の震災はそれを証明してしまったと、僕はおもっている。ましてや日本は、原油のほぼ全量を輸入したうえ、ガソリン精製の過程で必ず生まれる軽油の約1/4を輸出するといういびつな状況を容認している。

安価な国内価格で流通させるよりも、軽油需要の豊富な海外に再輸出した方が儲けになるという構図は、これからのエネルギーマネジメントや環境負荷の低減を考えると早急に何らかの是正をおこなうべきだろう。

以上をもって僕は、自家用乗用車の1~2割程度はディーゼル車に置き換える方向を模索すべきではないか、という想いを強くしている。

MAZDA CX-5 XD|マツダCX-5クロスディー

MAZDA CX-5 XD|マツダCX-5クロスディー

MAZDA SKYACTIVE-D|マツダ スカイアクティブ-D

MAZDA SKYACTIVE-D|マツダ スカイアクティブ-D

認知されはじめるクリーンディーゼル

前置きが長くなってしまったが、ディーゼルが再認知されるお膳立てはじわじわと、商品のがわから整いつつある。特に今年は、マツダが社運を託す「スカイアクティブテクノロジー」を全採用した「CX-5」を発売。搭載されるユニークなディーゼルユニットは、日本市場でも好評を博し、現状で受注の8割を占めるほどにうけいれられた。

そして輸入車勢では今年、BMWが最新のディーゼルユニットをSUV「X5」に搭載して日本市場に参入。そのリポートは先に記したが、どうやらそれに引き続き3シリーズにもディーゼルモデルが追加され、今年中に上陸する公算が高まってきた。ご存知のように、日本ではフォルクスワーゲン「ゴルフ」についで売れている輸入車への搭載とあらば、多くの人の関心を呼ぶことは間違いない。

BMW 3serirs|ビー・エム・ダブリュー 3シリーズ

日本のエネルギーを考える

BMW 3シリーズのディーゼルモデルに試乗(3)

BMW 3シリーズのディーゼル「320d」

日本への導入が検討されているグレードは、ピエゾインジェクターや可変ジオメトリータービン、スタートストップシステムなどを搭載した、最新の2リッター4気筒ディーゼルターボを搭載する「320d」。エンジンの出力は、先に発売されたガソリンの320iとまったく変わらない184psだが、ディーゼルの利が活きるトルクは、320iより110Nm高い、380Nmを1,750rpmからマークする。

ディーゼルエンジンを搭載するにあたり心配される重量については、アルミ合金製のクランクケースをもちいるなど軽量化にも腐心した結果、現状の車重も320iと大差はない。しかしながら、日本導入の際には“ポスト新長期規制”への対応から、尿素システムの搭載も必須となるため、若干の重量増を余儀なくされるだろう。

このエンジンを搭載した新型3シリーズのセダンはすでに海外にて試乗しているが、印象的だったのはフィーリング的にもマス感的にもディーゼルにつきものの重ったるさがほとんど感じられなかったことだ。

レッドゾーンは5,300rpmに指定されていたが、実際4,000rpm中盤くらいまでパワーのわき上がりにもタレを感じさせず、5,000rpmちかくまでスッと綺麗に吹け上がる。

それは、ディーゼルとてBMWが手掛ければこれだけスポーティなフィーリングになるということを、知らしめてくれるものだった。

BMW 320d|ビー・エム・ダブリュー 320d

BMW 320d|ビー・エム・ダブリュー 320d

BMW本社は320d試乗にサーキット走行まで組み込んでいたが、そこでもガソリンエンジンよりは重くなりがちなディーゼルエンジンの物理的重量を鼻先に感じさせることなく、スパスパッとコーナーに斬り込んでいけたことを思い出す。厳密にいえば、走り込むほどに前輪側の負荷からくるアンダーステアの傾向が強くなるが、普段はそういう乗り方をするクルマではないことを考えれば許容範囲。スポーツセダンとしての資質は、実は同時に試乗した328iよりも衝撃的だった。

BMW 3serirs|ビー・エム・ダブリュー 3シリーズ

日本のエネルギーを考える

BMW 3シリーズのディーゼルモデルに試乗(4)

ステーションワゴンこそディーゼルで

とはいえあたらしい3シリーズ、単純に燃費を比べれば、ガソリンエンジンの側も相当なレベルに達しているのは確かだ。320dの決定的なアドバンテージが発揮されるのは、アクセルのオンオフが少なく、低回転域を淡々ともちいる長距離巡航走行においてかもしれない。

そこで注目されるのが、先に発表された3シリーズ ツーリング、すなわちステーションワゴンとの相性かもしれない。歴代のデザインテイストにくわえて、ガラスハッチ独立開閉テールゲートなど代々の美点を受け継いだあたらしい3シリーズツーリングは、取り回しだけでなく、静粛性や快適性においてもセダンとほぼ同等の完成度をしめしていた。若干の重量増もほとんど気にさせない、ワインディングでの身のこなしをみるに、スポーツワゴンとしての適性もきわめて高い。

BMW 3 series Touring|ビー・エム・ダブリュー 3シリーズ ツーリング

BMW 3 series Touring|ビー・エム・ダブリュー 3シリーズ ツーリング

BMW 3 series Touring|ビー・エム・ダブリュー 3シリーズ ツーリング

BMW 3 series Touring|ビー・エム・ダブリュー 3シリーズ ツーリング

そして前型よりも容量がさらに35リットル拡大した荷室の、ロングツーリングへと誘う積載力の高さをみるに、このボディとの相性がピタリとハマるのがディーゼルユニットではないかというおもいは強くなる。日本のトラフィックであれば20km/ℓオーバーも難しくはないだろう高速巡航燃費は、ユーザーにとっては社会的意義と並行しての魅力的なベネフィットとなるはずだ。日本市場において320dツーリングの導入が実現するかはまだ不明だが、今秋の発表を目指して検討しているというインポーターの判断に期待したい。

spec

BMW 320d|ビー・エム・ダブリュー 320d
ボディ|全長 4,624 × 全幅 1,811 × 全高 1,429 mm
エンジン|水冷直列4気筒 ツインパワーターボ ディーゼル
圧縮比|16.5
排気量|1,995 cc
最高出力|135 kw(184 ps)/ 4,000 rpm
最大トルク|380 Nm / 1,750-2,750 rpm
トランスミッション|8段オートマチック
車両重量|1,495 kg
荷室容量|480リットル
燃費|4.6-4.5 ℓ/ 100km(NEDC複合値、およそ21.7-22.2 km/ℓ)
CO2排出量|120-119 g/km
タイヤサイズ|205/60 R16 92V

BMW 320d Touring|ビー・エム・ダブリュー 320d ツーリング
ボディ|全長 4,624 × 全幅 1,811 × 全高 1,429 mm
エンジン|水冷直列4気筒 ツインパワーターボ ディーゼル
圧縮比|16.5
排気量|1,995 cc
最高出力|135 kw(184 ps)/ 4,000 rpm
最大トルク|380 Nm / 1,750-2,750 rpm
トランスミッション|8段オートマチック
車両重量|1,565 kg
荷室容量|495リットル/1,500リットル(後席折りたたみ時)
燃費|4.8-4.7 ℓ/ 100km(NEDC複合値、およそ20.8-21.3 km/ℓ)
CO2排出量|125-124 g/km
タイヤサイズ|205/60 R16 92W
※上記数値はすべて本国仕様

           
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