東京モーターショーに集結した、キーパーソンにインタビュー特別編|Mercedes-Benz
CAR / FEATURES
2015年12月4日

東京モーターショーに集結した、キーパーソンにインタビュー特別編|Mercedes-Benz

Mercedes-Benz|メルセデス・ベンツ

「2030年以降の未来都市」をテーマにしたセミナー「Tec Day」を開催

「自動的なクルマ」から「自律運転可能なクルマ」へ

メルセデス・ベンツでは、東京モーターショーに合わせ、ホルガー・フェッツェンラウブ氏(メルセデス・ベンツ先行デザイン・シニアマネージャー)、アレクザンダー・マンカウスキ氏(ダイムラー社未来科学者/未来研究およびコンセプト立案担当)そして、ペーター・レーマン氏(ダイムラーグループリサーチ、メルセデス/ベンツ・カーズ、エンジニアリングおよび実用化統括)という3名のスペシャリストが来日。コンセプトモデル「F015ラグジュアリー・イン・モーション」をテーマに、「2030年以降の未来都市」をプレゼンテーションする技術セミナー「Tec Day」を開催した。同セミナーに参加したモータージャーナリスト、小川フミオ氏がリポートする。

Text by OGAWA FumioPhotographs by ARAKAWA Masayuki

相手の考えを読めば安全という考えから開発がスタート

メルセデス・ベンツは、自動車ショーのたびに大きな話題を呼ぶ。2015年東京モーターショーでも、2030年代の高級セダンはこうなる?と思わせるコンセプトモデルをお披露目してくれた。乗員はラウンジ感覚で向かい合って談笑している間に、クルマは自動運転で走行する。驚くようなハイテク車だ。

このコンセプトモデル「F015ラグジュアリー・イン・モーション」は、歩行者がいれば止まり、さまざまなLEDランプを使いながら意思疎通をはかる。「これはもう“未来”ではない」というのが、同車にメルセデス・ベンツ日本がつけた惹句だが、これが現実のものになりつつあるというのは驚くべきことだ。

「未来の自動運転につながる技術が、もうここまで確立されています」。東京モーターショーの会場で、メルセデス・ベンツ日本では、この文字がひときわ大きく印刷されたフライヤーを来場者に配布した。とてもエキサイティングなフレーズである。今回のコンセプトカーは大胆な造型だし、メーカーが言わんとしていることもエキサイティングな響きをもつ。

Mercedes-Benz|F015 ラグジュアリー・イン・モーション

マンカウスキ氏とF015ラグジュアリー・イン・モーション

アレクザンダー・マンカウスキ

アレクザンダー・マンカウスキ氏

メルセデス・ベンツ日本では、さらに、F015ラグジュアリー・イン・モーションの真価を伝えてくれるべく、技術セミナーを開いた。通称「テックデイ」。報道陣に、メルセデス・ベンツブランドを傘下におさめるダイムラー社の技術的水準と、車両開発における考え方を知ってもらおうというものだ。

参加したのは、ドイツからやってきた3名の専門家。ホルガー・フェッツェンラウブ氏(メルセデス・ベンツ先行デザイン・シニアマネージャー)、アレクザンダー・マンカウスキ氏(ダイムラー社未来科学者/未来研究およびコンセプト立案担当)そして、ペーター・レーマン氏(ダイムラーグループリサーチ、メルセデス/ベンツ・カーズ、エンジニアリングおよび実用化統括)である。

最初にスライドで概要の説明を受けたさい、「シェアード・インテンション(考えを他人と共有すること)」の文字とともに、スケートリンクの画像が現れた。おおぜいの人が狭いリンクにいてもほとんどぶつかることがない。それがこの画像を使った理由だと、人工知能(AI)を研究しているアレクザンダー・マウカウスキ氏は説明する。

「相手の考えを読めば安全。その考えから開発がスタートしました」。なんだかおもしろいではないか。

Mercedes-Benz|メルセデス・ベンツ

「2030年以降の未来都市」をテーマにしたセミナー「Tec Day」を開催

「自動的なクルマ」から「自律運転可能なクルマ」へ(2)

自動運転はひとや街との関係を考える段階にきている

「メルセデス・ベンツは、単に自動運転技術にとどまらず、「自動的なクルマ」から「自律運転可能なクルマ」への実現を進めています」。F015ラグジュアリー・イン・モーションの概要について、2015年3月にダイムラー社が発表したリリースのなかの一節である。

自動運転のテストが着々と進められているF015ラグジュアリー・イン・モーションのフィルムに、興味ぶかい場面がいくつも登場する。ひとつでは、歩行者が道路脇に立っていると車両が止まる。レーザービームで横断歩道のようなアイコンを道路に照射する。車両が自動で歩行者を認識し、停止して横断をうながすサインなのだ。

もうひとつは、公園を思わせる場所の芝生や路面に子どもたちが思い思いに座り、近くをF015ラグジュアリー・イン・モーションが走行しているもの。危なくないのか、と思うが、そんなことはないとメルセデス。「自動運転はメルセデスにとって(中略) ひとや街との関係を考える段階にきています」(前記パンフレットより)というのだ。

Mercedes-Benz|F015 ラグジュアリー・イン・モーション

Mercedes-Benz|F015 ラグジュアリー・イン・モーション

「20年以上前にはじめた人工知能(AI)の研究がいま役立っています」。F015ラグジュアリー・イン・モーションの開発に携わってきた前出のアレクザンダー・マンカウスキ氏(ダイムラー社未来科学者/未来研究およびコンセプト立案担当)は言う。

「私は2007年に米国の国防高等研究計画局が主宰しているロボティクスチャレンジに出かけ、ロボットの可能性に開眼しました。シュトゥットガルトの本社にもどり、わが社にもロボットが必要ではないかと訴えました。しかし“欲しいのはクルマだ”というのが答えでした。つぎに私は, AIの重要性を説きました。美しいフォルムだけが求められているクルマのすべてではない、と」。それに対して、ついにダイムラー社は首を縦にふり、開発にゴーを出す。

「大事だと思ったのは、クルマにはいかなるAIが必要かという徹底的な煮詰めです。はたして、クルマのAIは人間を模す必要はないと考えました。なぜなら、これからのクルマは、いかに自律的に走行できるかが主題で、そのベースになるのは、過去の統計的数字やビッグデータの使いこなし方なのです。たとえばクルマがなにかあたらしい事態に遭遇すると、その出来事の詳細がクラウドで瞬時に他の車両と共有され、その事態にいかに対処したかも経験知としてクラウドに上がる。それが重要で、人間の脳を模すのとは方向がちがうと判断したのです」

私たちは包括的な体験を作ろうとしているのです。デザインについても、同様のことが言えると、先行デザインを担当するホルガー・フェッツェンラウブ氏は言う。

Mercedes-Benz|メルセデス・ベンツ

「2030年以降の未来都市」をテーマにしたセミナー「Tec Day」を開催

「自動的なクルマ」から「自律運転可能なクルマ」へ(3)

未来のSクラス

ツァイトガイスト。時々論文でお目にするドイツ語が、F015ラグジュアリー・イン・モーションを表現するのに使われたのがおもしろい。ツァイトガイストを日本語にすると、時代の精神。F015ラグジュアリー・イン・モーションのキーワードのようだ。

「デジタル世界と、現実の物理的世界とをバランスさせることに気を配りつつ、いま刺激的なフォルムはいかなるものだろうかと考えました」。そう語るのは、メルセデス・ベンツ先行デザイン・シニアマネージャーのホルガー・フェッツェンラウブ氏である。コミュニケーションの手段として光(ランプやレザーライト)を使った手法はなにより斬新だが、スタイリングにも細心の注意が払われているという。

「外部からだと透明でないスクリーン印刷をほどこしたウィンドウをはじめ、まるでUFOのように思えるかもしれません。でもフェンダーは男性的に張り出させ、力強く見えることに心を砕いています」

ホルガー・フェッツェンラウブ

ホルガー・フェッツェンラウブ氏

ペーター・レーマン

ペーター・レーマン氏

F015ラグジュアリー・イン・モーションについては、「移動するリビングスペース」(ダイムラー社のドクター・ディーター・ツェッツェ取締役会会長)という表現があるように、つねにふたつのことに重点を置いて語られる。ひとつは、「優雅で高品質、明るく快適なラウンジのようなスペース」(広報資料)としての室内。もうひとつは、「車両、乗員、外界の間で常時コミュニケーションがなされている」(同)という機能性。

車体については、しかしながら、3610mmという長いホイールベースを使い、5220mmの全長、2018mmの全幅、1524mmの全高という事実のほか、あまり積極的に語られていない。それゆえ、「ミニバンのように車体ばかりが大きく見えることを避けるために26インチのホイールを採用しました」といったフェッツェンラウブ氏の解説は新鮮だ。

「未来のSクラスという可能性もあるだけに、大きな車体なのですが、そう見せないように、いろいろ努力しました。ホイールベースは長いですが巨大に見えないよう、モノボリュウム的なプロファイルを心がけました。いっぽうで、もっさりした感じを払拭するため、側面から見た時、視覚的中心はGPSアンテナのあたりにして、そこを中心にルーフが動的なカーブを描く造型にしています。低く見えるうえに、躍動的な印象を与えるのが重要でした」

Mercedes-Benz|F015 ラグジュアリー・イン・モーション

Mercedes-Benz|F015 ラグジュアリー・イン・モーション

フェッツェンラウブ氏は、とはいっても、と言葉をつづける。「F015ラグジュアリー・イン・モーションは、内部からデザインされたクルマです」。その言葉を裏付けるように、「このクルマでつねに考えているのは、都市とクルマとの関係です」と、ペーター・レーマン氏は補足してくれた。

「都市のハイパーデンシティ(過密化)が進み、渋滞による移動の苦痛と、人間や他の交通との事故に巻き込まれるのを防ぐことが、これからのクルマに重要と考えています」。ダイムラーグループリサーチに所属し、メルセデス/ベンツ・カーズでエンジニアリングおよび実用化統括を務めるレーマン氏。「このクルマでは、操縦者は、ドライバーというよりコンダクターという立場になり、クルマにあれこれ指示を与えることになるでしょう」。

メルセデス・ベンツは、2015年9月のフランクフルトの自動車ショーでは、「コンセプトIAA」なる、走行中に車体が形を変え、空力をうんと下げるコンセプトモデルを発表。東京モーターショーでは若者向けの走るラウンジとして「ビジョン・トウキョウ」をはじめてお披露目した。興味ぶかいのは、「広い意味で環境をシェアするのがベースにある考え方です」というフェッツェンラウブ氏の言葉である。メルセデスは前へと着実に進んでいるのだ。

           
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