発売直前のBMW i3に試乗|BMW
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2015年4月6日

発売直前のBMW i3に試乗|BMW

BMW i3|ビー・エム・ダブリュー i3

発売直前のBMW i3に試乗

BMWが満を持して発表したサブブランド「i」。その先陣を切ったのがコンパクトカー「i3」だ。7月末にニューヨーク、ロンドン、北京をオンラインで結び世界同時発表をおこない、9月のフランクフルトモーターショー一般に初お披露目されたのも記憶にあたらしい。そんなi3プロダクションモデルのデリバリーに先駆け、いぜんライプツィヒの工場でその生産現場を目の当たりにした渡辺敏史氏が、ついにプロトタイプに試乗。これまでの“シティコミューター的EV”の枠にとどまらないBMWの意気込みを感じたという。

Text by WATANABE Toshifumi

ただクルマを作るだけではない「i」の戦略

次世代のサスティナブル モビリティとドライビングファンを両立するブランドとしてBMWがあらたに立ち上げた「i」。その第一弾となる「i3」の概要がさる7月末に発表された。それはたんに電気駆動コミューターという物理的な存在理由だけでなく、ITとの融合やインフラ構築をも視野に入れた壮大なコンセプトのコアでもある。

ピュアEVといえばもっとも気になるのは航続距離だ。EU計測値で130-160kmと発表されたそれは当初想定されていたのとほぼ相違ない。が、ドライブモードには走行効率をマネジメントするエコプロモードが2ステージで用意されており、空調も含めた統合制御で電力消費率を極限まで高めることにより、最大20kmほど走行距離を伸張できるという。

BMW i3|ビー・エム・ダブリュー i3

BMW i3|ビー・エム・ダブリュー i3

さらに長距離での連続使用を求めるユーザーには、オプションで同社の二輪用となる650cc 2気筒エンジンの搭載も可能。これは純粋にバッテリーへと電力を供給する発電機として稼働するもので、いわゆるレンジエクステンドEVとして航続距離を300kmまで伸ばすことができる。

ちなみに充電時間は家庭用の20V電源による普通充電で6時間、コンボ式の急速充電規格で80パーセントの充電を30分で完了。日本仕様においては同等能力を持つCHAdeMO(チャデモ)式の急速充電規格が採用される見込みだ。i3が搭載するパッテリーユニットはサムスン製のリチウムセルを自社でアッセンブルした液冷式で、電力マネジメントも自社のソフトウェアでまかなうなど、内製率を高めているのが特徴。その重量は230-250kgになるという。バッテリー容量は発表されていないが、これらスペックから推するに、恐らくは20kwh強の容量といったところだろう。

これらを含めての車重はEU計測値で1,195kgにおさめられている。同等の航続距離を有する先出のEVにたいしてざっと2割以上軽いこれは、カーボン&アルミマテリアルでそのほとんどを構成するi3の先進性を裏付ける数字といえるだろう。

BMW i3|ビー・エム・ダブリュー i3

発売直前のBMW i3に試乗 (2)

EV独特の癖が運転のたのしみ方をかえる

この発表に先んじておこなわれたプロトタイプの試乗会では、i3がたんなる先進的なEVであることよりも、あたらしいドライブの楽しみを提案するコンパクトカーであることをはっきりと浮立たせた。

そのもっともユニークなポイントは、回生ブレーキをドライビングファクターとして積極的に活用させるというキャラクターの設定にある。アクセルを離しただけで得られる減速Gは、ときにブレーキランプを連動させるほどに強力なもの。

その運転感覚に慣れれば、右足のアクセル操作ひとつでフットブレーキを使わずに停止することも、コーナーアプローチの荷重移動を担わせることも自在となる。通常であれば違和感として取り除こうとするこの癖をあえて有効活用し、本来の回生効率を引き出しつつ運転のたのしみへと昇華させてもいるというわけだ。

専用設計のタイヤから見える本気度

i3のメカニズムにおいてユニークなのはボディ構造だけではない。

あらたな車体コンセプトに基づき、重要な役割を果たしているのはタイヤだ。空気抵抗と走行抵抗の低減、さらには衝突時の緩衝材としても機能させるべく、このクラスとしては異様な大径にして細身のものを装着している。155/70R19というサイズは当然既製品がなく、ブリヂストンとの共同開発からなる専用品。

BMW i3|ビー・エム・ダブリュー i3

果たしてこれが170psにも相当するパワーと発進からはなたれる大トルクをどのように吸収するのかが非常に興味深かった。おおきなフットプリントゆえ、前後方向へのグリップはともあれ横方向の負荷には不安が残る──が、結論からいえばそれは杞憂におわった。

BMW i3|ビー・エム・ダブリュー i3

発売直前のBMW i3に試乗 (3)

もはやスポーツコンパクト

かつてランフラットタイヤの標準化を先駆けるなど、タイヤにまつわるノウハウが豊富なBMWは、ブリヂストンの技術をうまく引き出し、大負荷にも耐えうるケース剛性やサイドウォールのチューニングをこのバイクのようなタイヤにほどこした。

くわえて効いてくるのがバッテリーを床に敷き詰めるEVならではの重心の低さ、そしてi3の軽量設計である。

テストトラックはパイロンによる規制がくわえられていたが、一気に130km/hちかくまで加速した後にフルブレーキング後のターンインなど、プロトタイプを走らせるにはかなりハードなコース繰りがとられていた。そこでのパフォーマンスは安定性、敏捷性ともに文句がないどころか、コミューターというよりもスポーツコンパクトとした方がふさわしいのではないかという楽しさすらそなえていた。

BMW i3|ビー・エム・ダブリュー i3

BMW i3|ビー・エム・ダブリュー i3

EV云々を棚に上げたとしても、それ単品で魅力が成立しているとおもえるのは走りだけではない。現在のトレンドを置き去りにするあたらしさを感じさせる内外装デザインには、琴線をくすぐられる向きもおおいだろう。

i3はそもそも巨大都市における域内移動体である「メガシティ ビークル」という公共性の高いコンセプトを掲げたクルマだが、それゆえ社会のいち部品として埋没しようという気はさらさらないようだ。見ても乗っても、これまでのコンパクトカーとはまったくちがう世界をみせてくれるi3の日本導入は来春の予定。市場の反応が今から楽しみな1台である。

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BMW i3|ビー・エム・ダブリュー i3
ボディサイズ|全長 3,999 × 全幅 1,775 × 全高 1,578mm
ホイールベース|2,570 mm
最低地上高|140 mm
最小回転半径|4.93 メートル
トランク容量|260-1,100リットル
重量|1,195 kg (1,315 kg)
最高出力| 125 kW(170 ps)
最大トルク|250 Nm
駆動方式|RR
タイヤ|155/70R19(前155/70R19 後175/65R19)
0-100km/h加速|7.2 秒(7.9 秒)
最高速度|150 km/h

※スペックはプロダクションモデル

           
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