レクサスLS国内試乗-小川フミオ編|Lexus
Lexus LS|レクサス LS
LSから見える、レクサスの未来
レクサス「LS」はレクサスのフラッグシップモデルである。語弊を恐れずに言えば、LSはつまり、一面において日本の乗用自動車のフラッグシップでもあるということだ。それがゆえに我々のレクサスLSへの期待は大きい。果たしていまLSは、そしてレクサスは、いかなる世界観をもってその期待に応え、世界における日本の、現在のクルマ像をいかに提示するのか? そんな問への回答を求め、島下泰久氏、大谷達也氏による評価につづいて、小川フミオ氏がLSを語る。
Text by OGAWA FumioLive Photographs by MOCHIZUKI Hirohiko
「変えていないといえば変えていないし、変えたといえば大きく変えた」
レクサスLSシリーズがマイナーチェンジを受けて、2012年10月11日に発売されたのは、当サイトでも既報
のとおり。もういちど、ここで強調しておきたいのは、今回のLSはレクサスの大きなターニングポイントであるようにおもわれることだ。
マイナーチェンジの内容について、「変えていないといえば変えていないし、変えたといえば大きく変えた」と、小田原のホテルを舞台に開かれた試乗会で話を訊いた開発担当者はなぞかけのようなことを言う。
メーカーとしてはフルモデルチェンジでないので変わったと大書きされるのもどうかとおもんばかってくれての発言だろう。しかしじつは、フルモデルチェンジにふさわしいような変化が新型LSには起きたという印象を抱いた。
LSが大きく変わった! とおもわされたのは、アグレッシブなスピンドルグリルによってのみではない。その走りである。
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LSから見える、レクサスの未来 (2)
ドイツのライバルにたいしての「レクサス」の立ち位置
注目してもらいたいこと、としてレクサスの担当者があげたのは、「レザースクリューウェルディングや構造用接着剤などあたらしい生産技術の導入でボディ剛性を上げたことと、エアサスペンションの制御を大幅に改良したこと」となる。
その言葉のとおりで、試乗の詳細は、別項の試乗記を参照されたいが、たしかに驚くほどスポーティに仕上がっている。「LS460」から、3,090mのホイールベースに5,210mもの車体を持つ「LS600hL」にいたるまで、剛性感の高さといい、トルクの出かたといい、操舵の入力にたいする反応といい、小型スポーティセダンを運転しているかのような、きびきび感に感心した。
とくにセンターコンソールのコントローラーでスポーツモードを選択すると、その傾向がいっそう強まる。車体はロールをほとんどせずに(まるでハイドラクティブ・サスペンション装着のシトロエンのように)、目に見えない線路を行くがごとく、ウルトラスムーズに山道だろうが、走らせることができる。
LSでは、「操縦性・走行安定性の向上とフラットな乗り心地の両立」を目指した、とレクサスが用意した広報資料にあるが、その狙いはみごとに達成されている。
4.6リッターV8エンジン搭載のLS460と、5リッターV8に電気モーターを組みあわせたハイブリッドのLS600h、その両方にロングホイールベース版が用意されるのが、今回のLSの布陣。すべてのグレードにおいて、フラットライドで驚くべきコーナリング能力を有するキャラクターは共通して感じられる。
おそらくここに、ドイツのライバルたちにたいするレクサス、なかでもフラッグシップたるLSの、あたらしい立ち位置があるのだろう。
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LSから見える、レクサスの未来 (3)
「まず乗ってみてくれ」という、とてもシンプルな言葉でいい
かつてレクサスが、世界中の高級車を向こうにまわして大健闘したのは、静粛性、つくりのよさ、豪華さという、消費者にわかりやすい要素が奏功したからだろう。
もちろん、それだけでなく、とくに米国におけるブランド確定のために、草の根レベルにいたるまで、製品力の浸透いがいにも、ゴルフカップから町のクラシックカーのスワップミートにいたるまで参加するなど、たいへんな営業努力がなされたことは想像に難くない。
が、リーマンショックがひとつの転機になるかさだかではないが、いずれにしても2000年代中盤以降、レクサスというブランドの輪郭がぼやけてきた感がある。
なぜ、レクサスのキャラクターがいまひとつ分かりにくくなったかというと、独自の価値が見えにくくなったからだ。
欧米各社の製品も、静かになり、燃費がよくなり、室内のつくりはよくなり、かつハイブリッドやディーゼルまで登場した。
レクサスが安閑としていたとは言わないが、経済状況や消費者のライフスタイルの変化に、下方ラインナップを展開するだけでは限界があったのは事実だろう。
その間に、欧州の高級ブランドは、ごく最近でいえば、アウディのA7スポーツバックや、メルセデスベンツのCLSシューティングブレイクといった「ライフスタイル商品」を拡充したり、BMWはディーゼルエンジン搭載モデルのラインナップを増強したりと、さまざまな方策を打ち出してきた。
そこに見られるのは、得意なことをとことん突き詰めてやる、という方針の奏功ぶりだ。それにたいして、あたらしいLSが「走り」のよさを全面的に打ち出してきたのが、レクサスがあたらしいブランドイメージの確立に向けて、大きく舵を切った証しのようにおもう。くわえて、自動ブレーキなどで障害物への衝突を回避するプリクラッシュセーフティ技術の積極的な採用を大きく謡うのも、LSにとどまらず、あたらしいレクサスの価値創造の一環だろう。
レクサスに私たちが期待するのは、たんに車体をロールさせずに驚くスピードでコーナーを駆け抜ける──という以上のものだが、もちろん、この先、このキャラクターをほかのモデルにおいてどう展開していくかには大いに興味ひかれる。
製品がブランドを語る、とはいまさら言うまでもないことだが、レクサスについても同様だ。ドライバーがあたらしいLSを操縦してどうおもうか。その印象をうまく活かしていくことが、明日のレクサスにつながっていくだろう。
レクサスが消費者に語るべきは、「まず乗ってみてくれ」という、とてもシンプルな言葉でいいかもしれない。
Lexus LS460 F SPORT|レクサス LS460 Fスポーツ
ボディサイズ|全長5,090×全幅1,865×全高1,455 mm
ホイールベース|2,970 mm
トレッド 前/後|1,610 / 1,615 mm
トランク容量|560リットル
重量|1,980 kg
エンジン|4,608 cc V型8気筒DOHC
最高出力|288 kW(392 ps)/6,400 rpm
最大トルク|500Nm(51.0 kgm)/4,100 rpm
トランスミッション|8 Super ECT(スーパーインテリジェント8段オートマチック)
駆動方式|FR
サスペンション|マルチリンク(スタビライザー付)
燃費(JC08モード)|8.4 km / ℓ
価格|980万円