Porsche Panamera turbo S|パナメーラの新フラッグシップモデルに試乗
Porsche Panamera turbo S|ポルシェ パナメーラ ターボS
究極をさらに上まわった!
パナメーラの新フラッグシップモデルに試乗(1)
ポルシェの市販車史上、もっとも低いCO2排出量159g/kmを記録したパナメーラ S ハイブリッドが発表されたのが今年2月のこと。いっぽうで、そのパナメーラ S ハイブリッドが登場した1カ月後に発表されたのが、今回の試乗車「パナメーラ ターボS」だ。同車は、パナメーラ ターボよりも最高出力を50psあげたあたらしいフラッグシップだと言える。しかし、動力性能にかんしては最高速度プラス3km/h、0-100km/h加速マイナス0.2秒と、向上はわずかだ。同車を発表した理由とはいかなるものなのだろうか? ジャーナリスト 河村康彦がその真価を語る。
文=河村康彦
チタニウム/アルミニウム合金製ターボチャージャーを採用した専用エンジン
最高出力500psというパワーを誇る強心臓を搭載する上で、303km/hの最高速をマーク。“カタパルト発進”を可能にするローンチコントロール機能を用いると、0-100km/hが4秒フラットという怒涛の発進加速を披露する――そんなポテンシャルを誇るフル4シーターのパッケージングの4ドアモデルに、だれが「それ以上の高性能」など求めるだろう!?
しかし、言うなれば“金に糸目はつけず、上には上を目指す”というユーザー層のなかには、たしかに「それ」を求めるひとは存在するのだ。そういった声にこたえる1台が、ここに紹介する『パナメーラ ターボS』でもある。
じつは、冒頭紹介のスペックはこのモデルのベースとされた『パナメーラ ターボ』のもの。そして『S』では、そうしたベース車輛の速さを「3km/h」と「コンマ2秒」上まわる。
慣性モーメントの低減を求めて、タービンホイールの材質をインコネル製からチタニウム/アルミニウム合金製へと換えたターボチャージャーを新採用し、マネージメントシステムにも変更をくわえたという『S』の専用エンジンが発する最高出力は550ps。
「えっ? 50psもちがうのに“それだけ”しか速くならないの!?」という声が挙がるかもしれないが、そもそも究極的な速さを備えたモデルの走りにさらに磨きをかけるのは、かくもハードルが高いということなのだ。
ベースモデルより400万円アップ……
しかし、よりシビアな見方をするひとからは、こんな声も聞かれるかも知れない。「“それだけ”の差に過ぎないのに、ベースモデルよりも400万円も価格が高いのは不当なのではないか」と……。
結論から言えば、この大きな価格差というのは、ベース車輛ではオプション設定とされていたさまざまな高価なアイテムが、『S』にはすべて標準で採用されることに起因する。
『S』の場合、より刺激的なスポーツサウンドを発する“スポーツ・エグゾーストシステム”や、アクティブ・スタビライザーを前後に用いたシャシー・コントロールシステム“PDCC”、電子制御のディファレンシャル・ロック機構でエンジントルクを左右に可変配分するベクトリング・メカ“PTVプラス”などはすべて標準。また、ベースモデルでは19インチサイズの標準シューズも、20インチへとアップされる。
Porsche Panamera turbo S|ポルシェ パナメーラ ターボS
究極をさらに上まわった!
パナメーラの新フラッグシップモデルに試乗(2)
ボディデザインはベースモデルとほぼ同様
そんな“特別仕様車”であるにもかかわらず、内容がルックス上からわかりにくい点は、前述のような意見を呼ぶ要因のひとつと言えるかも知れない。
標準装備となる2トーンカラーのインテリアには専用色が追加をされるものの、ボディそのもののデザインは基本的には不変。速度におうじてリアウィンドウ下端から立ち上がったすえに左右に面積を広げる4way式の特徴的なスポイラーが、黒色ではなくボディ同色に塗装されているのが、『S』であることをさりげなく主張する程度なのだ。個人的にも、「もう少し“専用の装い”が用意をされても良かったのではないか」と思わないでもないが、だからと言って時にはフォーマルなシーンでの活躍も想定をされる4ドアモデルとしては、やはりそびえ立つようなリアウイングなどは“ご法度”なのだろうが……。
大切なゲストも満足させられる快適性を提供
実際、最初のエンジン始動時に周囲に響きわたるなんとも迫力に満ちた“咆哮”をのぞくと、日常シーンでのパナメーラ ターボSは、その秘めた才能を厚いオブラートに包み込み、獰猛なそぶりを闇雲にアピールすることは決してない。
フロント255、リアが295とファットな、例の20インチシューズを履くこともあり、路面の凹凸を拾ったさいの“当たり”の感触はさすがに少々シャープではある。が、それでもフリクションを感じさせないその先の脚の動きは、後席に乗った大切なゲストも満足させられる快適性を提供。トルコンATに比べると、微低速時の動きのなめらかさは一歩を譲るというのがDCT(PDK)にたいする“定説”ではあるものの、このモデルの場合、こうした点の違和感も皆無と言って良い仕上がりぶりだ。
パナメーラというキャラクターはそのままに
じつは、デビュー後まもなく丸2年を迎えるパナメーラには先日、全シリーズにわたってのいわゆる“年次改良”の手がくわえられたという。なるほど、そう耳にするとこのDCTの微低速時のスムーズネスや、ステアリングの路面とのコンタクト感などが、今回テストしたモデルは以前試したモデルよりも熟成され、上質さを増した印象を受ける。いずれにしても、ターボSというグレードは、そもそものパナメーラが備えるフル4シーター・4ドアモデルとしての基本キャラクターはしっかりフォローしている。
いかにハイパフォーマンスなバージョンとはいえ、911シリーズの場合のような“ハードコア”という領域に踏み込むことはありえないのだろう。
Porsche Panamera turbo S|ポルシェ パナメーラ ターボS
究極をさらに上まわった!
パナメーラの新フラッグシップモデルに試乗(3)
平然をキープしつつ、とんでもない加速力を発生
いっぽう、前方が開け、アクセルペダルを深く踏み込むシーンへと差し掛かると走りの表情は一変する。
ダッシュボード側から手前へと傾斜が与えられた特徴的なセンターコンソール上に設けられたスイッチを押し、スポーツ・エグゾーストシステムのモードを変更。その後、アクセルペダルに力をくわえると、バリバリバリッ、と、空気を切り裂くかのようなサウンドが耳に届くと同時にシートバックに凄まじい加速力を感じる。
DCTがキックダウンをおこなうまでもなく、低回転域から感じられるそうした加速は、まるでこのエンジンがターボチャージャーではなく機械式スーパーチャージャーを備えているかと錯覚するほどだ。むろん、さらにアクセルペダルを踏み込めばそこではDCTが瞬時に下のギアを選び、さらなる強いトルクが路面へと伝達される。
こうして、強力無比な心臓が発した大トルクが伝達されつつもあらゆるシーンでトラクションに不安を感じないのは、完全に4WDシステムのおかげと断言していい。もちろん、フル加速のシーンでもステアリングフィールが変化をするような“野蛮さ”はこのモデルには一切ない。平然さをキープしつつ、とんでもない加速力を発揮する――これが、このモデルの「走りのすごさ」のひとつの大きな特徴なのだ。
911にも見劣りしないペースで駆け抜ける
しかし、じつはベース車輛を上まわる走りのポテンシャルをより鮮烈に感じさせてくれたのは、そうした加速のシーンよりも徹頭徹尾“オン・ザ・レール”の感覚を守り抜くハンドリングにかんしてだった。
先に紹介の“PDCC”によって過度なロールをチェックされたパナメーラ ターボSは、まるで地下からの磁力に引きつけられたかのように安定しきった姿勢のまま、もはや「911にも見劣りしない」ペースで平然とコーナーを駆け抜けてしまう。そうしたテイストは、「スポーツカーらしいエキサイトメントにはいささか欠ける」という印象も多少伴わないではないものの、しかし激しい横Gを感じつつ、ふと冷静さを取りもどせば、このモデルは“たかが4ドア4シーター”に過ぎないという事実にあらためて愕然とするのだ。
それにしても、その際限知らずの走りのポテンシャルの高さにはまさに呆れるしかない。「ここまで走りを極めて、一体どうしようというのか」と……。
しかし、そうしたおいそれとは手の届かない際立つポテンシャルの持ち主を所有するということこそ、こうしたモデルに好んで触手を伸ばそうという人びとの望むところであるのかも知れない。ある意味、人間の欲望が果てしない高さにあるということを教えてくれる1台――それが、『ターボS』という“究極のパナメーラ”でもあるのだ。
Porsche Panamera turbo S|ポルシェ パナメーラ ターボS
ボディサイズ|全長4,970×全幅1,930×全高1,420mm
ホイールベース|2,920mm
エンジン|4.8リッター8気筒
最高出力|405kW(550ps)
最大トルク|750Nm/2,250-4,500rpm
※オーバーブースト時は800Nm
トランスミッション|7段PDK
駆動方式|4WD
燃費|11.5ℓ/100km
CO2排出量|270g/km
価格|2481万円
※燃費、CO2排出量は本国のデータに基づく。