英国で乗る、2台のアストンマーティン最新モデル―ヴァンキッシュ&ラピードS|Aston Martin
CAR / IMPRESSION
2015年2月3日

英国で乗る、2台のアストンマーティン最新モデル―ヴァンキッシュ&ラピードS|Aston Martin

Aston Martin Vanquish|アストンマーティン ヴァンキッシュ
Aston Martin Rapide S|アストンマーティン ラピードS

2015年モデルになったヴァンキッシュ&ラピードS

英国で乗る、2台のアストンマーティン最新モデル

昨夏にアストンマーティンが発表し、最近、日本へも上陸を果たした「ヴァンキッシュ」と「ラピードS」の2015年モデル。一見すると、その変更点を見出すのは難しいほどの変化だが、この2台は何を目指し開発され、どのような進化を遂げたのか。国際発表会とあわせ、本拠地イギリスでおこなわれた試乗会に参加した小川フミオ氏によるリポート。

Text by OGAWA Fumio

よりダイナミックなドライビングが楽しめるように

アストンマーティンは、2014年7月に「ヴァンキッシュ」と、4ドアの「ラピードS」の2015年モデルを発表した。眼目は、環境性能と運動性能のアップ。6リッターV12エンジンに組みあわされるオートマチック変速機は8段となった。

アストンマーティンが、あたらしいヴァンキッシュとラピードSのお披露目をしたのは、スコットランド。本社があるゲイドンちかくのバーミンガムの空港から飛行機に乗り、スコットランドのインバネスへと飛んだ。そこが試乗の場所だった。

Aston Martin Vanquish Volante|アストンマーティン ヴァンキッシュ ヴォランテ

Aston Martin Vanquish Volante

Aston Martin Rapide S|アストンマーティン ラピードS

Aston Martin Rapide S

今回のマイナーチェンジで、6リッターV12気筒エンジンは、出力が2ps上がって576馬力となり、トルクは10Nm増して630Nmになっている。結果、静止から100km/hに達する時間はコンマ2秒短縮されて3.6秒となった。いっぽう燃費は、10パーセント向上し、走行キロあたりのCO2排出量も11パーセント減少しているという。

「運動性能と環境性能を向上させるとともに、これまで以上に、スポーツカーとしてピュアで、操縦性にすぐれ、反応のよさを実現させました」とアストンマーティンではしている。

メカニズム的な眼目は、「タッチトロニックS」と呼ばれる8段のオートマチック ギアボックス。リアディファレンシャルと組みあわせた、いわゆるトランスアクスル方式がアストンマーティン車に共通する特徴だが、ギアを1枚増やしつつ4kgもの軽量化に成功したという。

Aston Martin Rapide S|アストンマーティン ラピードS

Aston Martin Rapide S

「変速スピードは従来より0.5秒速くなっています。反応速度が上がるとともに、8段になったギアをうまく使い、よりダイナミックなドライビングを楽しんでもらえるよう、心を砕きました」

試乗会の拠点となったネス湖畔のシャトーホテルで、アストンマーティン本社の広報部長が、自信に満ちた表情でそう語った。

はたして、2プラス2の万能スポーツカー、ヴァンキッシュと、スポーティな4ドアサルーンとして独自のポジションを占めているラピードSともに、俊足ぶりを発揮し、スポーツカーメーカー、アストンマーティンの健在ぶりをしめしてくれたのだった。

Aston Martin Vanquish|アストンマーティン ヴァンキッシュ
Aston Martin Rapide S|アストンマーティン ラピードS

2015年モデルになったヴァンキッシュ&ラピードS

英国で乗る、2台のアストンマーティン最新モデル (2)

ラピードSに課せられる2つの要件

「私たちは、ニューモデルを発表して、それで満足しているわけではない。リニューアルを繰り返します」。アストンマーティンの広報担当者は、2015年モデルのラピードSを前に、アストンマーティンの各モデルは年ごとに性能アップしているのだ、と語る。

ラピードの発表は2010年。2013年にパワフルな6リッターV12を与えられてラピードSへと進化した。美しいスタイルを特徴とする4ドア4座のスポーツサルーンだ。2,989mmのホイールベースに乗るボディは、全長が5,020mmあるのに対して全高はスポーツカーなみの1,350mmと低い。画期的なグランドツアラーだ。

Aston Martin Rapide S|アストンマーティン ラピードS

Aston Martin Rapide S|アストンマーティン ラピードS

8段ギアボックスを搭載した2015年モデルは、出力、トルクともに向上したのは先述のとおりで、静止から100km/hまでの加速性能は従来の4.6秒から4.4秒に短縮している。さらなる変更点は、フロントのロールバーを太くしたこと。そして、ブレーキによる制動力を高めたこと。ステアリングはよりスポーティになり、同時に、高速スポーツにふさわしい制動性能を備えたのだ。

「ラピードSは、ラグジュリーとスポーティという2つ要件を同時に表現しなくてはなりません」。試乗会場に我われと一緒に飛んできたデザインダイレクターのマレック・ライヒマン氏は語る。その2つの要件をみごとにクリアした立役者だ。

「2015年モデルの眼目は“アンダーボディチェンジ”(見えない部分の変更)ですが、スポーティなサルーンというスタイルによりふさわしい性能を手に入れたと考えています」。

スタイル上も若干の変更がある。ひとつは、「前に進む」というデザインテーマは継承されつつも、デザインがあたらしくなったホイール。くわえて、「カリフォルニア ポピー」と「ファンダンゴ ピンク」という新色が用意された。

Aston Martin Vanquish|アストンマーティン ヴァンキッシュ
Aston Martin Rapide S|アストンマーティン ラピードS

2015年モデルになったヴァンキッシュ&ラピードS

英国で乗る、2台のアストンマーティン最新モデル (3)

ライバルがほぼ存在しないポジション

ラピードSの操縦性は、前の席にいると、ボディの大きさを忘れるほど、スポーティだ。1,000rpm以下から太いトルクを出すエンジンにより車体は軽々と動き、各ギアをマニュアルモードでレッドゾーン近くまで引っ張ると、からだがシートに押しつけられるほどの加速感がある。

操縦性をスポーティ方向に振ったとアストンが言うだけあり、正確なステアリングと追従性のいいシャシーは印象的だ。小さなカーブも大きなカーブも、そこを走り抜けるのが喜びになるほどだ。

Aston Martin Rapide S|アストンマーティン ラピードS

Aston Martin Rapide S|アストンマーティン ラピードS

変速機の反応もすぐれており、かりにDモードのまま横着してカーブへとさしかかり、強めのブレーキングをすると、パンッパンッと小気味よいエンジン排気音とともに、ギアが瞬時に何段も落ちてゆく。カーブを曲がるときはトルクが出過ぎず、かといって不足ぎみになることもない適切なギアを選んでくれる。

じつは海外でラピードを操縦するのは、デビューしたときのバレンシア以来だが、静粛性はより高くなり、硬いといっても、けっして不快でないサスペンション設定と、クッションが効いたシートのおかげで、疲労感がない、みごとな出来にあらためて感心した。

ライバルをポルシェで探すと、4座としてのパッケージを重視した「パナメーラ」と、スポーティなグランドツアラー「911」が同時に思い当たる。しかしラピードSは、2車の中間に位置するように感じる。ライバルがほぼ存在しないポジションだ。

Aston Martin Vanquish|アストンマーティン ヴァンキッシュ
Aston Martin Rapide S|アストンマーティン ラピードS

2015年モデルになったヴァンキッシュ&ラピードS

英国で乗る、2台のアストンマーティン最新モデル (4)

アストンマーティンの定義を体現する「ヴァンキッシュ」

ヴァンキッシュは、アストンマーティンが「ブランドのフラッグシップ」と呼ぶモデルだ。2003年に初代が登場し、それが07年に「DBS」として生まれ変わった。そして12年のモデルチェンジで、ヴァンキッシュの名が復活した。

アストンマーティンにおけるもっともスポーティなモデルは「V12ヴァンテージ S」だ。しかし、レースでも好成績を上げるかたわら、デザインなどでエレガンスを重視しているのが同社の特徴である。そこでヴァンキッシュがフラッグシップというのは、論理的な帰結なのだ。

Aston Martin Vanquish|アストンマーティン ヴァンキッシュ

Aston Martin Vanquish

Aston Martin Vanquish|アストンマーティン ヴァンキッシュ

Aston Martin Vanquish

ヴォランテと伝統的な呼び名をつけられたフルオープンモデルが設定されていることにくわえ、オプションで2プラス2のシートアレンジが可能なのがヴァンキッシュ。つまり、「スポーティかつラグジュリー」という、このクルマの定義こそ、アストンマーティンそのものの定義と重なるのだ。

ノンターボの大排気量による、切れ目のないトルク感を“高級”と考えるアストンマーティンでは、ミドシップへと移行せず、フロントエンジンに後輪駆動というレイアウトにこだわる。ヴァンキッシュにしても、6リッターV12を堪能させてくれるフロントミドシップで、じゅうぶん運転が楽しめることの証明だ。

この前にリポートした「V8 ヴァンテージ N430」は、操作系もあえて重くして、ダイレクトなスポーティさを重視したモデルだった。それに対してヴァンキッシュは、エレガンスというキーワードもあるように、快適性が強い。

たとえばパワーステアリングのアシスト量は比較的多いし、ラピードSのところでも触れたように、8段変速機がずぼらな運転をカバーしてくれ、クルマがドライブを楽しめるよう積極的に支援してくれる感覚がある。

Aston Martin Vanquish|アストンマーティン ヴァンキッシュ

Aston Martin Vanquish

Aston Martin Vanquish|アストンマーティン ヴァンキッシュ
Aston Martin Rapide S|アストンマーティン ラピードS

2015年モデルになったヴァンキッシュ&ラピードS

英国で乗る、2台のアストンマーティン最新モデル (5)

美しく、そして前に突き進むかたち

スコットランドの道は、起伏に富み、かつ大小のカーブが連続して現れる。かと思うと、そのまま走ると空に突き刺さりそうなストレートが突然眼の前に現れる。ヴァンキッシュはそんな道をどんどん前に突き進んでいくのに、最高の1台だ。

乗り心地は硬いが硬すぎず、ステアリングも過敏すぎない。やる気のあるドライバーにはどんどん応えてくれる懐の深さを感じさせつつ、グランドツアラーとしての快適性を失っていない。シートの出来もよく、全長4,720mmの車体はそうコンパクトとはいえないが、ハンドリングがいいので、クルマがからだの大きさとぴったり一致したような感覚になってくる。

ポルシェ911のライバルのような位置づけだろうか。気筒数は2倍だし、価格も911ターボが2,128万円であるのに対し、ヴァンキッシュは3,285万円するから、クラスがちがうといえるが、スポーティなGTという点では方向性は似ている。

Aston Martin Vanquish|アストンマーティン ヴァンキッシュ

Aston Martin Vanquish

Aston Martin Vanquish|アストンマーティン ヴァンキッシュ

Aston Martin Vanquish

ヴァンキッシュのもうひとつの魅力はスタイリングだ。マレック・ライヒマンのディレクションの下、アストンマーティンのデザイナーたちは、金属の塊から削りだしたような、鋭さを感じさせる線と面で構成された、みごとなクーペを生み出した。

シンプルといえばシンプル。よけいな遊びは少ない造形だが、それだけにすばらしく美しい。前に突き進んでいく、というテーマに形を与えるという課題なら、ヴァンキッシュが最良の見本といえる。

Aston Martin Vanquish|アストンマーティン ヴァンキッシュ
ボディサイズ|全長 4,692 × 全幅 1,912 × 全高 1,294 mm
ホイールベース|2,740 mm
重量|1,739 kg
エンジン|5,935 cc V型12気筒 DOHC
圧縮比|11.0 : 1
最高出力| 424 kW(576 ps)/ 6,650 rpm
最大トルク|630 Nm/ 5,500 rpm
トランスミッション|8段オートマチック(タッチトロニック3)
駆動方式|FR
サスペンション 前|ダブルウィッシュボーン
サスペンション 後|ダブルウィッシュボーン
タイヤ 前/後| 255/35R20 / 305/30R20
ブレーキ 前|φ398mm ベンチレーテッドディスク
ブレーキ 後|φ360mm ベンチレーテッドディスク
最高速度|323 km/h
0-100km/h加速|3.8 秒
燃費(NEDC値)|12.8 ℓ/100km(7.8 km/ℓ)
CO2排出量|298 g/km
燃料タンク容量|78 リットル
トランク容量(VDA値)|368 リットル
価格|3,285万円

Aston Martin Vanquish Volante|アストンマーティン ヴァンキッシュ ヴォランテ
ボディサイズ|全長 4,728 × 全幅 1,912 × 全高 1,294 mm
ホイールベース|2,740 mm
重量|1,844 kg
エンジン|5,935 cc V型12気筒 DOHC
圧縮比|11.0 : 1
最高出力| 424 kW(576 ps)/ 6,650 rpm
最大トルク|630 Nm/ 5,500 rpm
トランスミッション|8段オートマチック(タッチトロニック3)
駆動方式|FR
サスペンション 前|ダブルウィッシュボーン
サスペンション 後|ダブルウィッシュボーン
タイヤ 前/後| 255/35R20 / 305/30R20
ブレーキ 前|φ398mm ベンチレーテッドディスク
ブレーキ 後|φ360mm ベンチレーテッドディスク
最高速度|323 km/h
0-100km/h加速|3.8 秒
燃費(NEDC値)|12.8 ℓ/100km(7.8 km/ℓ)
CO2排出量|298 g/km
燃料タンク容量|78 リットル
トランク容量(VDA値)|279 リットル
価格|3,518万2,800万円

Aston Martin Rapide S|アストンマーティン ラピード S
ボディサイズ|全長 5,019 × 全幅 1,929 × 全高 1,360 mm
ホイールベース|2,989 mm
重量|1,990 kg
エンジン|5,935 cc V型12気筒 DOHC
圧縮比|11.0 : 1
最高出力| 411 kW(560 ps)/ 6,650 rpm
最大トルク|630 Nm/ 5,500 rpm
*トランスミッション|8段オートマチック(タッチトロニック3)
駆動方式|FR
サスペンション 前|ダブルウィッシュボーン
サスペンション 後|ダブルウィッシュボーン
タイヤ 前/後| 245/40R20 / 295/35R20
ブレーキ 前|φ400mm ベンチレーテッドディスク
ブレーキ 後|φ360mm ベンチレーテッドディスク
最高速度|327 km/h
0-100km/h加速|4.4 秒
燃費(NEDC値)|12.9 ℓ/100km(7.8 km/ℓ)
CO2排出量|300 g/km
燃料タンク容量|90.5 リットル
トランク容量(VDA値)|279 リットル
価格|2,420万円

アストンマーティン・ジャパン
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