メルセデス・ベンツのかんがえる未来のクルマのひとつのカタチ|Mercedes-Benz
CAR / NEWS
2015年1月14日

メルセデス・ベンツのかんがえる未来のクルマのひとつのカタチ|Mercedes-Benz

Mercedes-Benz F015 Luxury in Motion
メルセデス・ベンツ F015 ラグジュアリー イン モーション

メルセデスが提案する未来のクルマ

メルセデス・ベンツは、米国ネバダ州ラスベガスで行われてたCES(コンシューマー エレクトロニクス ショー)2015で未来クルマを想像させるコンセプトカー「F015」を発表した。走行用のバッテリーと燃料電池のプラグインハイブリッドというパワーユニットもあたらしいが、なによりも注目すべきは完全自律走行によって、クルマの使い方を根本から変える可能性をもつ未来へのビジョンである。

Text by SAKURAI Kenichi

自律走行で変わるクルマの未来

2015年の幕開けにふさわしいコンセプトカーがメルセデス・ベンツから登場した。その名はメルセデス・ベンツ「F015 ラグジュアリー イン モーション」。燃料電池と走行用バッテリーのプラグインハイブリッド車で、充電式(プラグイン)バッテリーでの走行は200km、これに燃料電池ユニットがくわわり、トータルで約1,100kmの航続距離を実現する。プラグイン ハイブリッドといえば、それは化石燃料を使用するエンジンとモーター、外部充電式のバッテリーというパワーユニットの組みあわせを想像するが、こちらはその先を行く、燃料電池と外部充電式バッテリーの組み合わせ。もちろん、化石燃料を使用するエンジンは搭載されない。

しかし、それ以上に注目すべきトピックスが、「自律走行」機能である。自律走行とは、その名のとおり、クルマが人間のかわりにすべてを判断、操作し、自動で目的地にまで乗員を運んでくれるというものだ。ひらたく言えばつまりこれは知能と判断力を持った(運転において)人間のかわりになれるロボットカーであり、それはもちろん未来のクルマ像のプレゼンテーションにほかならない。SF映画で見る“クルマが勝手に乗員を目的地にまで連れていってくれる”その未来を、具現化したコンセプトカーなのである。

Mercedes-Benz F015 Luxury in Motion|メルセデス・ベンツ F015 ラグジュアリー イン モーション 003

Mercedes-Benz F015 Luxury in Motion|メルセデス・ベンツ F015 ラグジュアリー イン モーション 004

26インチサイズのホイールを車体の四隅に配置し、フロントノーズからリアエンドまで一本の曲線で描かれた繭のようなフォルムにも意味がある。一般的なこれまでのクルマは、前方視界を確保するためにいかにスポーツカーといえども最低限の角度をキープしていたが、「F015 ラグジュアリー イン モーション」ではその必要がなくなるために、軽量なカーボンファイバーで造られた一体化ボディに“窓のスペースをあけた”といえそうなデザインを採用している。

完全自動とはいえ、人間が運転することも想定し必要な視界は確保されているものの、自動化を実現すべく備えられたカメラシステムやレーダーやセンサーが視界をサポートするので、AピラーやCピラーが太くてもかまわない。人間が目で見て判断する以上に、障害物の検知は優れている。これはすでに「Sクラス」や「Eクラス」など、インテリジェントドライブを採用している市販車でも証明されている。そう、クルマには運転席からの物理的な死角はあっても、実質死角はゼロなのである。

Mercedes-Benz F015 Luxury in Motion
メルセデス・ベンツ F015 ラグジュアリー イン モーション

メルセデスが提案する未来のクルマ (2)

馬車の時代をふたたび思い起こさせる

観音開きのドアを開けてのぞくインテリアも未来的だ。さまざまなコントロールがおこなえるタッチスクリーンをそなえたドアや、シェルデザインのシート、リアルウッドのフラットなフロアなど、その空間にはこれまでのクルマにはなかった、さらに進んだ未来像が上質な素材とモダンなデザインによって具現化されている。もちろん未来のクルマらしく、エアコンンやオーディオ、各種の調整はタッチ式のほか、ジェズチャーや目線の動きでもコントロールできるようになっている。

ポイントはフロントのシートで、運転席を含む2つのシートは、後方に回転、リアシートともに向き合わせで固定も可能だ。これをもってメルセデスは「ラウンジ」と表現しているが、走行中も運転手が前方見ずに、つまり運転しなくてもいいロボットカーだからこそのデザインなのである。停車中にくつろぐための回転シートではなく、走行中も後方のゲストと顔を合わせることができる対面シートなのだ。現在のダイムラーを率いる会長、ドクター・ディーター・ツェッチェ氏が発表の際に「このクルマは馬車の時代をふたたび思い起こさせる」と語ったが、確かに同意できそうだ。

Mercedes-Benz F015 Luxury in Motion|メルセデス・ベンツ F015 ラグジュアリー イン モーション 039

Mercedes-Benz F015 Luxury in Motion|メルセデス・ベンツ F015 ラグジュアリー イン モーション 034

ドライバーが運転する必要がなくなるとするのなら、果たしてこのクルマをクルマと呼んで良いのかという疑問も出てくるが、それは同時にこれまでのクルマにあった例えばステアリングホイールやペダル、ミラーといったパーツがもはや必要なくなることも意味している。もちろん、マニュアルコントロールをおこなうために最低限の操縦用レバーやスイッチの類いは必要だろうが、これまでの誰もが知るクルマの運転席まわりではなくなることは確実だ。

リアのバンパーには、停車前に他車に注意を促す「STOP」も文字がLEDで表示され、QRコードも備わっている。フロントバンパー部分からは道路を横断する人のために、仮想横断歩道を路面に投影。もちろん、人が道を横切るかどうかは、「F015 ラグジュアリー イン モーション」が自動的に判別する。周囲や歩行者へのサポートも十分に考慮されているのである。

Mercedes-Benz F015 Luxury in Motion
メルセデス・ベンツ F015 ラグジュアリー イン モーション

メルセデスが提案する未来のクルマ (3)

2030年のクルマとそれを取り巻く大都市の環境をイメージ

ちなみに、コンセプトカーであるため、パワースペックを紹介することはあまり意味をもたないかもしれないが、プラグインハイブリッド燃料電池のパワートレーンがもたらすシステムトータル出力は200kW(272ps)。0-100km/h加速は6.7秒、最高速度は200km/hに達する。もちろんゼロエミッションなので、CO2の排出量は車両単体ではゼロである。

「F015 ラグジュアリー イン モーション」が実際に公道を走るまでにはさまざまな法規制をクリアする必要があり、さらに安全性の観点からこうした技術をより完璧にすることも求められるため、想像以上に多くの時間がかかると思われる。技術的な要素から法律、使う人間のメンタルまで、解決しなければならない問題が山積しているはずだが、クルマという存在、道を走る移動体そのものの根本を改革する大きな可能性を秘めていることはまちがいない。

Mercedes-Benz F015 Luxury in Motion|メルセデス・ベンツ F015 ラグジュアリー イン モーション 007

Mercedes-Benz F015 Luxury in Motion|メルセデス・ベンツ F015 ラグジュアリー イン モーション 017

2015年といえば、映画「バック トゥ ザ フューチャー」でデロリアンが向かった未来である。映画の中では、クルマやスケートボードが空を飛び、スクリーンを使用しない3Dで映画ジョーズの宣伝をおこなっていたが、現実にはそこまでの進化はなかった。

メルセデスによれば、「F015 ラグジュアリー イン モーション」は2030年のクルマとそれを取り巻く大都市の環境をイメージして開発したという。15年後の未来で、われわれは、果たしてクルマを運転しなくなっているのか、自律走行のロボットカーによって事故は撲滅しているのか。その時になってみないと答えはわからないが、こうした人間の見果てぬ夢と、技術の進歩がこれまでの社会を築きあげ、いまにいたる歴史を紡いできたことだけは確かである。

           
Photo Gallery