CD『花と水』発売記念 菊地成孔インタビュー(後編)
「ニューヨークの感じの“ジャズ ジャポネズム”」
菊地成孔インタビュー(後編)
音楽家、執筆家、コメンテーター、そして歌舞伎町の住人とさまざまな顔をもつジャズサックスプレーヤーの菊地成孔さんが、東京ミッドタウンとのコラボレーションCD『花と水』をリリース。
作品には、ジャズピアニストの南博さんをフィーチャーし、サックスとピアノのデュオによるスロージャズなサウンドに仕上がっている。
ひきつづき、『花と水』のお話を中心に、今年の予定などをうかがった。
Text by OPENERSPhoto by Jamandfix
ストリングスを斉藤ネコさんにお願いしたワケ
──前回のお話にも頻繁に出てきますが、“ジャズ ジャポネズム”とはどのようなものなのでしょうか?
59年にリリースされた『Kind Of Blue』というマイルス(デイヴィス)のアルバムのライナーノートをビル・エヴァンスが書いていて──、彼はそのアルバムに参加したピアニストなのですが──、ビルは、そこで「ジャズの即興演奏というのは日本の水墨画に似ている。筆に墨をつけて、紙の上に落とした段階で、もう失敗はありえない」と書いていたんです。
書いたものは全部作品として残るという、ジャズのアドリブのコンセントレーションと日本の文化を重ね合わせたんですね。ライナーでのビル・エヴァンスのひとつのマニフェストではあるのですが、それはまさに“ジャズ ジャポネズム”ですよ。『Kind Of Blue』自体はジャポネズムではないんですけれど。
とはいえ、『Kind Of Blue』のなかに水墨画の話が出ている、という方向にルーツバックしたヒトはあまりないワケです。
なので今回は、“草月流”みたいな感じの“ジャポネズム”ではなく、ニューヨークの感じでいくことにしたんです。
──ストリングスのアレンジに斉藤ネコさんが参加されていますね
斉藤ネコさんは昔からの知リ合いなんです。南さんよりふるいんじゃないかな。むかしはよくつるんでいたのですが、ここ数年はお互い忙しくて、しばらくお会いしていなかったんです。
2005年に「南米のエリザベス・テーラー」をつくるときにストリングスのアレンジャーを探していて、斉藤ネコさんのアレンジした椎名林檎さんのアルバム『平成風俗』を聴いたときに、ストリングスがとてもよかったのでネコさんにお願いしたのですが、お忙しくてダメだったんですよ。
そのときに、現在もずっとボクのストリングスまわりの編曲や作曲をお願いしている中島ノブユキさんと出会ったんです。いまもそのまま中島さんとコラボレーションがつづいているのですが、今回は違うアルバムだし、ちょっと気分を変えようと思ったときに、斉藤さんを思い出してオファーしてみたんですよ。
こういう言い方をすると、「念願叶って!」みたいな大袈裟に聴こえますが、今回は大丈夫だったというだけなんですよね(笑)。
今年は、ふたつのバンドを中心にいろいろな仕事をしていきます!
──昨年はあたらしくバンドをふたつつくって、活動をそれに絞られたワケですが、今年はどんな活動を考えていますか?
今年は、バンドをつくったばかりなので、そのふたつをやっていくというのが基本ですね。DATE COURSE PENTAGON ROYAL GARDEN(以下DCPRG)は、9年もやってしまったし、SPANK HAPPYもけっこう長かったですからね。まだ、DUB SEXTETでも一年目ですから(笑)、少なくとも今年いっぱいはやるんじゃないかなと思います。
──DCPRGのように期限をつけてとかはやられないのですか?
DCPRG は、3年の予定が好評だったのでつづけてしまいましたね。当時は、人数もおおかったし、それほどもつわけがないと思っていたんですよ。だから、バンドをつくるコンセプトの上で、シャレで決めたんです。でも、いろんないい条件が重なって運営できてしまったんですよね(笑)。なので、ずっとやっていたんです。
いまのバンドは、当時から比べるといろいろと状況もよくなっていますし、運営上の困難──みんなが忙しくて集まれないとか、そういうポジティブな困難しかないので、楽ですね。何十年もやるかは疑問ですが、音楽的にもまだまだやりたいことはありますし、作品も、昨年の夏にDUB SEXTETの『Dub Orbits』、第二期ぺぺ・トルメント・アスカラールの『記憶喪失学』が昨年末に出たばかりですからね。今年は、それらをもってツアーをやるのがメインです。とりあえずは、そのふたつのバンドを動かすことですかね。
この『花と水』に関しては、公演数が少ないので、アルバムが売れて、ライブが観たいというヒトが増えたら、追加公演するという感じです。
──ほかには映画音楽などもやられてますよね
そうですね。
今年は太宰治の生誕100年ということで、太宰映画がいっぱい撮られているんですよ。有名な『ヴィヨンの妻』とか『斜陽』とか、今年と来年でどんどん映画化されるんですけれど、そのなかの一本で冨永(昌敬)監督が『パンドラの匣』を撮るんです。芥川賞作家の川上未映子さんが女優として初主演、窪塚洋介くんが映画に本格的に復帰するという話題つきの映画なのですが、その音楽監督をやります。それが9月の公開予定。
あとは、NHKの『爆笑問題のニッポンの教養』という番組の音楽をやっていたのですが、番組が3年目に入って、音楽がリニューアルしたんです。その音楽を録音し直したのですが、それはアルバムとして出る予定です。それとNHKの『パフォー!』という、素人さんの投稿を紹介する番組も継続が決まり、ボクもお陰さまでレギュラーのままなので、今年はあと2~3回は出ると思います(笑)。
それと、昨年に引きつづき野宮真貴さんのリサイタルの音楽監督もやることになりました。
とりあえず、今年は、ふたつのバンドを中心にいろいろな仕事をするという感じですね。
──ありがとうございました
アルバム『花と水』
3000円/ewe records
http://www.kikuchinaruyoshi.com/nouvelle.html
ライブ情報
◆菊地成孔DUB SEXTET
5月20日(水) 東京鶯谷 東京キネマ倶楽部
(問) Tel. 0570-00-3337
◆菊地成孔とペペ・トルメント・アスカラール
6月5日(金) 東京 グローブ座
(問) Tel. 0570-00-3337
菊地成孔ホームページ
http://www.kikuchinaruyoshi.com/