Jaguar XF|ジャガーXF|山中俊治 vs ジャガーXF(1)クルマはまず、立ち方を見る
Vol.3 山中俊治 vs ジャガーXF
Chapter1 クルマはまず、立ち方を見る
1972年型「ジャガーXJ12」を所有したこともある山中さんは、30年を隔てた新しいジャガーに対峙して何を想うのか。
──長い時間をかけて外観をご覧になっていましたね。自動車デザインの経験がある山中さんの場合、クルマをどうやって見るのですか?
立ち方ですね。
──立ち方?
タイヤを足に見立てて、どう立っているか。重心はどこにかかっているか。うずくまっているのか、跳ねているのか。その立ち方からクルマの性格をうかがうんです。それは、若いころ身につけたクセですね。有名なカーデザイナーの作品を正確に模写したり、そういうことをずいぶんやりました。
──そこから何がつかめるんですか?
自動車デザインの在り方はもちろん、デザイナーの個性も明確になります。たとえば「ランボルギーニ・カウンタック」をつくったガンディーニは、前足も後ろ足も伸びきった、疾走する動物のイメージなんです。対してジウジアーロは、後ろ足に重心があって、首をぎゅんと前に伸ばした形。走り出す前に力を溜め込んでいるスタイルが多かった。
二人は僕のアイドルでしたね。ガンディーニとは1990年の東京モーターショーで話す機会があったんですが、ドキドキした思い出があります。
──では、ジャガーはどういう立ち方をしているように見えますか?
4つの車輪からすべてのものが後ろになびいているように感じます。ひとことで言うと「流体」でしょうか。
世界の流行がウェッジシェイプになったときも、ジャガーだけはどれにも似なかった。ガンディーニともジウジアーロとも違う、後ろ下がりのしなやかなデザインでした。僕はそれを手に入れたことがあるんですよ。1973年型の「XJ12」。知り合いから譲ってもらったものでした。
まともに動かすためだけに2年で350万円もかかっちゃったけど、あれは神様のクルマだったなあ。「日産インフィニティ」をデザインするときも、絶えず頭の片隅に潜んでいましたよ。だから今日は、僕がもっていたモデルから30年以上の時がたった現代のジャガーに触れられることを、とても楽しみにしていたんです。
──そうした期待感も含み、最新の「XF」はいかがでしょう?
ジャガーらしさ、というものは感じられますね。サイドウィンドウの上下幅を狭くする試みとか、それによってタイトな室内空間を演出するとか。巨大なセンターコンソールもそうです。全体的な立ち方も、後ろ下がりな印象を残している。それでも……。
──それでも?
いや、う~ん。僕がそう感じてしまうのは郷愁なのかな……。