Jaguar XF|ジャガーXF|山中俊治 vs ジャガーXF(2)もはや背徳が許された時代には戻れない
Vol.3 山中俊治 vs ジャガーXF
Chapter2
もはや背徳が許された時代には戻れない
最新のジャガー「XF」に郷愁をおぼえたという山中さん。その感覚の源泉と、ブランドが抱える問題点に迫る。
──山中さんが「XF」に対して郷愁を抱いてしまうというのは、果たして感覚なのでしょうか?
全体の印象はかなりマッシブで、伝統的なジャガーからは遠いものです。ボディパネルのボリュームを増して、トランクの位置も高くしてウィンドウを狭くするというのは、実は流行のレイアウト。レクサスが典型ですね。
運転してみても、剛性感の高さはすばらしく、少しカタめの乗り心地や音などのフィーリングなども、僕が知っているジャガーのものではなく、とても現代的に仕上がっています。
そういう意味ではジャガーらしいクルマとはもはやいえないのですが、表面的には伝統的な様式がいろいろと残されています。
──今回は、XFのセールスポイントでもあるセンターコンソール上の「ジャガードライブ・セレクター」をはじめとした、インターフェイスについてもうかがいたいです。
意欲的な試みですね。スタートボタンを押すとエアベントが回転する演出も含めて。ただ、それら新しいファンクションが、このクルマのスポーティさに完全にマッチしているかというと、どうでしょう?
もっと身体感覚を生かしたほうがいいような気がします。新しいセレクターなどもイージードライブを実現しているのですが、最上の操作感といえるところまでは練り上げられていない。GUI(Graphical User Interface。ここでは車載モニター上のタッチパネルのインターフェイスをさす)も洗練されているとはいえず、ジャガーに接したひとが感じるべき質感はこうではないのではないかと感じました。
──それはジャガーというブランド自体への指摘も含まれていますか?
デザインのテクニック的には上手なんですよ。下手だと感じる部分はないし、きれいに仕上がっています。全体的に高品質で、プロダクトとしても美しさがある。ハンドルとメーターの関係性も、最小限の語りかけがすばらしい。
しかし、ジャガーは伝統もある強烈なブランドなので、そのイメージに影響された目で見てしまうことは否定できません。あるいは、上のクラスの「XJ」だったら違った感想をもったかもしれない。でもXFに関していえば、やはり一抹の不安を感じてしまいますね。
──それが郷愁によるものだと?
いずれにしても古いブランドが抱える問題点なんですよ。どうやって新しくなってゆくかは、本当にむずかしいんです。とくに自動車は、環境問題やユニバーサルデザインとの絡みもあって、昔のような背徳的な製品はつくれなくなっています。プロダクト全体でも、カタチと機能を両立させるのが当然の時代ですからね。
かつてはスタイルか機能か、みたいな観点でものを語れたけれど、いまはカッコよくて便利でなければならない。もはや「カウンタック」の時代には戻れないんです。