連載・柳本浩市|第33回 西澤明洋氏とブランディングデザインについて語る(中編)
Design
2015年4月3日

連載・柳本浩市|第33回 西澤明洋氏とブランディングデザインについて語る(中編)

柳本浩市×西澤明洋対談

ブランディングデザインの“ステージ”を理解する

第33回 西澤明洋氏とブランディングデザインについて語る(中編・1)

西澤明洋氏(EIGHT BRANDING DESIGN)を迎えて、「ブランディングデザイン」についてお伺いする今回。前編につづいて、西澤さんの実際の仕事を例にとりながら、「ブランディングデザインとは」について考察します。

前編はこちら

Text by YANAGIMOTO Koichi

一生をかけて「デザインマネジメントを極める」ことがテーマ

柳本 西澤さんは独立して何年ですか。

西澤 いまEIGHT BRANDING DESIGNが8年目なんですよ。それでその前が2年間有限会社時代がありますので、独立してちょうど10年目ですね。東芝時代が2年なので、大学院を出てからのデザイナーとしてのキャリアとしてはちょうど12年です。独立してはじめの2年はいろいろやっていましたが、いまはブランディング専門でデザインをやっています。

EIGHT BRANDING DESIGNは企業ブランディングを専門にしていますが、私個人のデザイナーとしての目標は、一生をかけて「デザインマネジメントを極める」ことがテーマなので、いまいろいろと仕掛けは入っていますね。まずは、EIGHT BRANDING DESIGNの話をしますね。

うちの仕事はブランディングデザインを専門にしているので、たとえば「ロゴだけ」「パッケージだけ」「webだけ」とか、そういったオファーもいろいろいただくのですが、そういう依頼は基本的にお断りしています。つまり「企業ブランド」もしくは「事業ブランド」「商品ブランド」「ショップブランド」といった「ブランド」という単位で責任をもてる仕事しかしないようにしています。デザイン会社としてはかなり珍しいタイプかと思います。

最初に手がけたのは「COEDO」という埼玉県にあるクラフトビールメーカーの仕事ですね。あとは「nana’s green tea」という多店舗展開する抹茶カフェブランドです。このふたつがほぼ同時期にはじまった私たちの最初の仕事です。

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COEDOではプロダクトタイプ、つまり商品系のブランディングをしました。ここはもともと地ビールを営まれていた会社で「売れ行きを良くするためにリニューアルしたい」ということでお声がけをいただきました。当時はデザインや売り方などは典型的な地ビールメーカーという感じでした。売れない理由はそもそも「地ビール」ということが問題なのではないかと経営者と話をしていくうちに、どうやら今回のプロジェクトはパッケージを変えるだけの話ではなさそうだ、ということに辿りつきました。

で、そこから地ビールをやめて何になるのかという話が重要になります。当時、市場全体でプレミアムビールが好調になりつつあって、その背景は踏まえようとしました。しかし大手のようなプレミアムビールをやっても仕方ないので、大手とはちがう、中小規模のビール醸造ならではの「職人のものづくり」を打ち出していこうとしました。「プレミアム」ではなく「クラフト」ではないかと。今でこそ「クラフトビール」という言葉は良く聞くようになってきましたが、クラフトビールと言う言葉をきちんと啓蒙しはじめたメーカーはCOEDOがはじめてだと思います。プレミアムをさらに越えた「クラフトビール」という市場を作っていこうという気運をもって取り組みました。

柳本 まず方向性を定めるわけですね。

柳本浩市×西澤明洋対談

ブランディングデザインの“ステージ”を理解する

第33回 西澤明洋氏とブランディングデザインについて語る(中編・2)

顧客接点となるアイテムをすべてトータルでデザインしていく

西澤 私たちの仕事は、「フォーカスRPCD&reg」という一連のデザイン開発フローに則っています。はじめに経営者の方と「こういう方向性にブランドをもっていきましょう」という仮説を作って、まずそこから徹底的にデザインリサーチをおこないます。とくにこういったコンシューマー商品だと、ポジション争いがすごいので。

デザイナーが「面白ろかろう」とぱっと作った商品というのは、一見面白いんですが、経営的には危うい側面もあります。たとえばデザイン業界でいう「あたらしい」とは、今までにないデザインのことなんですけど、その「今までにないもの」がビールのパッケージにとって良いコミュニケーションになるかは疑問なんです。良いときもあれば、悪いときもある。

私はブランディングデザインのプロでやっている以上、それを「運任せ」にするのは駄目だと思っています。まずはきちんとその市場を解析して、どういうことがあたらしいデザインで、どういうことがブランドの差別化要因につながるのかをきちんとリサーチします。それを追い出したあとに一度言葉に置き換える。それをブランドコンセプトとして定めます。それからロゴデザインなり、パッケージデザインに落とし込むという方法をとっています。

この手の仕事の場合、たいていはパッケージをリニューアルしてほっとするんですが、ビールを販売する会社の立場に立ってみると、もちろんパッケージも重要ですが、販促ツール、ウェブサイト、イベントなどもとても重要だと思うんです。ですので企業として、顧客接点となるアイテムをすべてトータルでデザインしていくのが、私たちのブランディングです。

よく若いデザイナーがブランディングをやろうとすると「デザインをトータルでやることのみ」だと捉えているひとがいます。もちろん、それは間違ってはいないけど、根本的には表面を統一させることではないんですね。きちんとビジネスのスキームを作り直して、売り方を考え、それにフィットする落とし込み方をデザインできちんと作ってあげるという……。「ブランドの考え方」と「何がブランドにとって必要なのか」を整理した上で、その統制をデザインにてとっていくという仕事がブランディングデザインなんです。デザインマネジメント的側面が非常に大事なんです。しかし、今、デザインマネジメントを勉強していないひとが非常に多い。というか、知らないひとが多い。

柳本 そうですね。何が足りないのでしょうか。

西澤 まず、ビジネスを知らない。“モノを作って売る”ということを知らないわけですよ。やったことがないので。僕にとって、メーカーに勤めたことの財産というのはそこで、やっぱりものをつくるということは広告を作って終わりとか、面白いコピーを書いて終わりとか、そういう世界ではなくて、もっと泥臭いわけですよ。マーケットの要望もあるし、消費者のこともあるし、社会全体の要求もある。そのなかで自分たちのもっている理想を最大限に集約してやっていくのがデザインマネジメントなんです。それを私はブランドという体できちんとやっていきたい。

で、なぜブランドと言うのか。デザインマネジメントというとまだちょっと企業に伝わりにくいと思っています。誤解が生じてしまう。デザインをマネジメントに活用することという大きな定義があるので、要はなんとでも言いようがあるんですよ。そうではなくて、このデザインマネジメントを生かす上で、「ブランディング」に一度絞ってみることが大事かと考えています。「ブランドを作るんだ」と。ブランドコンセプトを作ってデザインをするという一連のフロー「フォーカスRPCD&reg」という言い方をしていますが、これに沿ってブランドを作り、育てていくこと。デザインマネジメントという言い方をしても良かったのですが、誤解が生じやすいし、たんにブランディングと言った方がわかりやすい。私の解釈でいうと「ブランド=経営」なんですね。

柳本 なるほど。「ブランド=経営」ですか。

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西澤 つまりブランディングというのはお洋服ではないわけですよ。骨であり、血であり、肉であるわけです。結局、経営を良くしていくデザインとはどういうことなのか、というのが真のテーマであるわけです。たとえばCOEDOだったらビールづくりだし、nana’s green teaだったら多店舗展開する抹茶カフェ。nana’s green teaは今では71店舗、上海やシンガポールなどの海外進出するまでに成長しています。この2社との経験は私にとってとても勉強になりました。そしてこの仕事を通じて気づいたのは、ここはまだブランディングの入口だったということ。

柳本 最初の仕事の2社から学んだんですね。

マネジメント、コンテンツ、コミュニケーションの三位一体

西澤 今、私はブランディングというのは3階層あると考えています。一番上がマネジメントのステージ、真ん中がコンテンツ、一番下がコミュニケーションです。私たちがCOEDOやnana’s green teaでお手伝いさせてもらったことは、主にコミュニケーションのデザインです。両社とも経営もしっかりしているし、もともとのコンテンツも良かった。それでコミュニケーションだけがあまりうまくいっていなかった。伝え方とかネーミングとかデザインによる見せ方とか。そこを私たちがサポートしていったわけです。

柳本 そうですね。とてもわかりやすい説明です。

西澤 対象が商品であっても、お店であっても、「ブランドをきちんと伝える」ということは非常に重要なことであり、私たちはそこにブランドコンセプトをきちんと構築し、それに相応しいデザインを創りだしました。

しかしながらコミュニケーションのステージは、ブランディングデザインの入口であり、私のなかでは初級編なんだと、最初の2社をやっているときに気づいて。じつはブランドにとって本当に力をもつのは、より上位ステージのマネジメントであり、コンテンツのステージなんですね。COEDOもnana’s green teaも両経営者の手腕は相当なものです。私自身、そのブランドの成長過程を経営者のすぐ横で見せていただく機会をいただき、マネジメント、コンテンツ、コミュニケーションが三位一体となることの本当の意味を経験しました。

強いブランディングとは、このマネジメントとコンテンツのステージで抜きん出ることなんですね。ここで抜きん出ていれば、ほかが多少なくても甘くても強い経営が可能となります。ブランディングにとって一番重要な箇所なんです。

たとえば、市場のなかですごいニッチポジションを取って圧倒的優位性をとるという方法があるじゃないですか。IT市場とかにとくに多いですけども、市場が未開発な分、ポジショニングでほとんど勝負が決まってしまう。そこではデザインはまだあまり重要でなくて、技術とか経営の仕方だけで勝てちゃう。ただ注意が必要なのは、ITなどの未開発な分野も、もう少し市場が成熟すれば必ずデザインの重要度が増してきます。

コミュニケーションステージ、すなわちデザインなどはもっと細かい成熟した戦いなわけです。市場が成熟してきて、より差別化が求められるブランディングに突入したときに必ず必要となってくるステージです。COEDOもnana’s green teaもビール市場、カフェ市場と日本の飲食業界のなかでも、相当に成熟した市場でありデザインの必要性を肌で感じることができました。

このコミュニケーション、いわば“ステージ1”の段階は、最初の5年くらいでわかってきたところで、EIGHT BRANDING DESIGNは今、そこから“ステージ2”のコンテンツの段階に入りはじめています。

コンテンツからのブランディングは、この2年くらいで積極的に取り組んでいることですが、いわゆる商品開発なんです。たとえば、椅子のデザインとかは機能だけで売れるものではなくて、コンテンツそのものにデザインが組み込まれている。そこと経営をマッチさせた上で、コミュニケーションの段階であるウェブとか販促物とかになるわけです。

柳本浩市×西澤明洋対談

ブランディングデザインの“ステージ”を理解する

第33回 西澤明洋氏とブランディングデザインについて語る(中編・3)

“ステージ2”のコンテンツからのブランディングとは

西澤 私たちは今まで、個々のコンテンツ作りのデザインを手がけてこなかったので、ずっとやりたいと考えていて。そんなときに大阪の「日繊商工」というタオル商社から商品開発までふくめたブランディングデザインのお話をいただきました。商社なのでやろうと思えば内部でも出来るのだけど、一度外部の力を借りて、どこまで行けるかみてみたいということで。EIGHT BRANDING DESIGNでプロダクト企画から、織りとか染めとかグラフィックとかいった細部のデザインまで踏み込んでやらせていただいてます。「ℓ ℓ ℓ works(ルルルワークス)」というブランドです。

あとは、熊本で140年以上の歴史がある醤油と味噌のメーカー「フンドーダイ」からいただいた依頼もステージ2ですね。ここは、もともと醤油と味噌のメーカーで、ドレッシングなんかの商品もあって。それらを今後どう展開したらいいかという相談だったんですよ。で、醤油や味噌のラインでリブランディングしても良かったんですが、ここの「コンテンツ」の問題で考えたときに、醤油や味噌では決定的な差別化のシナリオが描けなかった。

柳本 それはなぜでしょうか。

西澤 なぜかというと、熊本の醤油や味噌というのは味が甘いんです。そういった味わいは、今の日本のマーケットの中心ではない。つまり、東京や大阪でそういった甘い醤油や味噌を売ったとしても売れないわけですよ。珍しくて買うひとはいたとしても、それが彼らの大きな利益につながるかというと、そうではない。嗜好品ならまだしも、伝統的な基礎調味料においては、消費者はすごく保守的です。いつものみそ汁の味を大きく変えようというモチベーションはすごく低い。マネジメント目線で見たときに、ここでの勝ちゲームを組み立てるのはなかなか難しい。

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そこで考えたのが、この「九州kitchen」というブランドです。大抵こういうメーカーって醤油は醤油、味噌は味噌という風に分かれるんですよ。醤油と味噌を一緒にやっているメーカーって、九州ふくめ限定されたエリアのみで日本では珍しい。要は彼らからすると、自分たちは「醤油メーカー」「味噌メーカー」っていう意識ではなくて、「調味料メーカー」という意識なんだと思います。だからドレッシングの商品があることも彼らにとっては自然というか。

それで、経営の中心を「これからの日本の調味料・食品のメーカー」ということにおいて、あたらしく作ったのが「九州kitchen」というブランドなんです。今、食の安全とか言われていますし、自然に恵まれた九州で採れたものを、きちんと開発して、地産地消ではなく、全国そして世界に届けていくようなブランドになろうと。「おいしい九州を日本の食卓へ」というコンセプトのもと、九州全体を応援していくようなブランドにしていこうと考えています。

柳本 それはつまり最終的にはメーカーを横断している、ということになるのでしょうか。

西澤 横断というか、その会社の本来やるべきこと、やりたいことを素直にやることなんだと思います。変な縦割りや専門化ではなく、ブランドとして一番大切にしていることをトータルにやり抜くという感じでしょうか。

九州kitchenで一番大事にしていることは一次生産者を表に出していくことです。農家さんをどんどん押し出していこうと。普通のメーカーの思考では、材料調達先であるこういう情報はあまり表に出さない傾向にあります。ネタばれしないように。でもそうではなくて、一次生産者もメーカーも販売者も消費者も本来は、きちんとした食の考え方を応援したいはず。そうした気持ちを真ん中においてブランドを作りました。

ちなみに、九州kitchenには経営的には大きな戦略があります。育っていった暁には、ホールディングスの一番上に「九州kitchen」を置き、最終的に「フンドーダイ」をふくめ、特徴的な商品ブランドをその傘下に収めようと。

フンドーダイは熊本の老舗ですし、もともとのブランド力はすごいんですよ。しかしそれを全国の市場のセンターにするには難しい。ただ非常にユニークなポイントであり、かつこれからも大事に守らなければならない商品ブランドではあります。

なので、主従の逆転を起こそうと。これをやりたいねと、最初のミーティングで社長と意気投合して。このマネジメントのロジックはすごく面白いと。老舗の会社にとってこれはすごく勇気のいることだと思うんですよ。ただ、いきなりはそういう会社を作ることはリスクが大きすぎるので、一度商品ブランドとして出して、数字がついて来たら主従が逆転すればいいと。そういう現実的なシナリオを社長が構想されました。ここはすべて社長のジャッジです。変化に対して大変前向きなマネジメントステージでのアイデアです。素晴らしいと思います。

コンテンツ部分には我々もかなりかかわらせていただいていて、商品の企画を任せていただけたんですよ。私はドレッシングなんて作れないですけど(笑)、面白そうなので、やります、と。

柳本浩市×西澤明洋対談

ブランディングデザインの“ステージ”を理解する

第33回 西澤明洋氏とブランディングデザインについて語る(中編・4)

ドレッシング市場から学んだこと

柳本 企画に入ってみてどうでしたか。

西澤 まず思ったのはこういった食品のレシピを開発する専門の人たちは、その市場の「当たり前」を信じすぎているということ。当然、おいしくする技術というのはすごいんです。素材の研究とか調合の具合とか……。私たちはもちろん味なんて作れませんが、商品ブランドとしての考え方を作ることはできる。さらにデザインのアイデアを付加できないかということで入っていって。

それで、今のドレッシング市場をみると、大きくふたつに分類されるんですね。これはやってみてわかったんですけど、ひとつはいろんなものがブレンドされておいしいもの。もうひとつは単一の素材を使うドレッシング、たとえばタマネギドレッシングとかゴマドレッシングとか。でもその間がない。いろいろを混ぜておいしくするというのはたしかにおいしいんです。だけどそれだと何がおいしいのかわからない。逆に単一商品だと味が単調になってしまう。

で、2種類か3種類くらいをブレンドしたらどうなるんだろうというのがこの企画のメインなんです。ありそうでなかった商品の切り口です。たとえば、かぼちゃとさつまいも。人参とパプリカ。人参の甘みを感じながら、最後にパプリカの余韻が残るようになっていたり。たっぷりの野菜が入っているので、野菜自体の甘みも感じるけど、こういった味わいで何が重要かというと複雑感なんです。単調で終わるよりも少し複雑な方が人間は味に奥行きとか深みを感じるわけです。

それで、2種類くらいでそれぞれのキャラクターが強く残るようにやってみては? というアイデアに最終的に落ち着きました。で、そこからすごかったのはやはり、開発チームのみなさんのスキルで、最初の試作で出来たものがかなりおいしかった。「これ、いけるね」と。企画がありそうでなかったところに行くことで、デザイン的にもこんなドレッシングこれまでになかったね、という感じにしやすくなりました。

普通、味の善し悪しは、おいしいかどうかかもしれませんが、あたらしいおいしさを説明する際に、今までの単一系の味か複雑系の味かではなく、その間の2種の野菜の掛け合わせの味であること、つまりこれがデザインされたブランドのストーリーになり得ないかと私たちは考えたわけです。こういうものが本来のブランド企画なんじゃないかと。

それをきちんと作った上で、味のブラッシュアップはお任せして、そこから私たちは自分たちの専門分野であるロゴを作ったり、パッケージを作ったり、デザインの作業に入っていったわけです。

デザインとは最後に使えるものにしないと意味がない

あとは、さらにこの後に出てくるコミュニケーションで、私たちがとくに大事にしているのがPRです。いわゆる広報ですね。広報力を強化していくためにブランディングデザインを積極的に使ってもらうようにしています。

私は、デザインとは最後に使えるものにしないと意味がないと思っているんですね。そのためにクライアント社内でも広報体制を作ってもらいつつ、さらにプロのPRの専門家に入ってもらって、そこに私たちがデザインしたツールできちんとコミュニケーションしていく。

このPRの段階はあらゆる企業にとって重要なステップだと思いますが、しっかりしたPRができている企業は本当に少ないと思います。

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そうしてこの段階を経て、その後にようやく広告が出てくるわけです。しかしフンドーダイぐらいの規模だったら、ここでの広告はほとんど必要ない。私たちの感覚でいうと、広告とはそのブランド売り上げで10億程度以上の売り上げがなければ費用対効果がなかなか取れないし、出す意味をほとんど感じません。通販のような限定された販路でのブランディングでは話が別ですが。

普通に流通に乗せて売りたいのであれば、広告なんかよりもきちんとした商品を作って、きちんと使えるツールを作った方が売場のひとが応援してくれるんです。また心あるメディアのみなさんも応援してくださる。

最近はこういった仕事が多くて、コンテンツ作りからコミュニケーションまでトータルにデザインする体制でやっていますね。私の中ではEIGHT BRANDING DESIGN は1~5年目まではステージ1:コミュニケーションを、5~10年目まではそこからステージ2:コンテンツまでふくめた広い範囲でのブランディングデザインを主な仕事とすると決めて取り組んでいます。

その後の“ステージ3”では、マネジメントステージの課題が待っているわけですけど、ここにかんしては現在、少しだけトライアルをしはじめています。

やはり最後、経営をみるということは、責任をもつという行為ですので、契約の時点で出資をしたりしています。デザイン業を請負契約ではなく、当事者の立場、つまり株主として参加するんですね。

今その実践として、クライアントと私たちで出資してあたらしい飲食の会社を作りました。そこで私たちは企画とデザインを、彼らは経営と運営をします。そこから余剰利益が生まれたら、それぞれの株の持分に合わせて配当金として分配するというやり方を試そうとしています。ですので、ほんの少しですが、経営をかじるということになるかな、と思っています。これはこの2、3年でさらに深いトライが出来るかなと思っています。

西澤明洋|にしざわあきひろ
ブランディングデザイナー。1976年滋賀県生まれ。株式会社エイトブランディングデザイン代表。
「ブランディングデザイン」という視点のもと、企業のブランド開発、商品開発、店舗開発など幅広いジャンルでのデザイン活動をおこなっている。「フォーカスRPCD®」というリサーチからプランニング、コンセプト開発までふくめた一貫性のあるデザイン開発手法は、多方面より高い評価を得ている。
主な仕事にプレミアムクラフトビール「COEDO」、抹茶カフェ「nana’s green tea」、信州味噌「ひかり味噌」、近畿日本鉄道「上本町YUFURA」、キリンビバレッジ「生茶」など。グッドデザイン賞、PENTAWARDS、THE ONE SHOWをはじめ、国内外の受賞多数。 著書に『ブランドをデザインする!』(パイ インターナショナル)、『ブランドのはじめかた』、『ブランドのそだてかた』(ともに日経BP社/共著 中川 淳)。
http://www.8brandingdesign.com/

           
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